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第三章

第三章2 〈伯爵の書状〉

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 さっきまでは狩場で、あんなに楽しい雰囲気だったのに、伯爵の使者が来たって聞いただけで、一気に気持ちが白けてしまっていた。

 そんな俺の気持ちを汲んでか汲まないでか、ステアーとピニャが急いでエンドレスサマーへと走ってくれている。


 しばらくすると、遠目にエンドレスサマーが見え始めてきた。

 ステアーもピニャも相当飛ばしてくれたのだろう。
 往きは狩場まで一時間近く掛かったのに、帰りはほぼ半分の時間で帰ってこられた。

 エンドレスサマーの外にはレイモンド伯爵の使者が乗って来たであろう豪華な馬車と、それを護衛しているであろう騎士の様な出で立ちの者が三人もいるのが見える。

 俺達が近づくと、魔物の襲撃だと思ったのだろう。
 騎士の出で立ちをした者達が武器を構えた。


 ステアーとピニャに命じて、護衛の前で止まってもらう。

「こちらは攻撃の意思はありません。武器を下ろしてください」

 俺は両手を上げながら護衛の騎士達に、敵ではない事を伝える。

 ピニャから降りてステアーとピニャを後方に下がらせる。
 そして両手は上げたままの姿勢で話を続ける。
 騎士達はまだ警戒を解いてはおらず、武器は構えたままだ。

「俺はこのダンジョン、エンドレスサマーのマスターをやってるユウタと言います」

 俺がそう伝えると、三人の騎士の真ん中で剣を構えていた男が、名乗りながら剣を鞘に納めた。

「私の名前は、レイモンド伯爵家の騎士ティルトン。騎士団銀の翼の団長を務めている。ダンジョンマスター、ユウタよ。以後お見知り置きを」

 俺が思っていたよりも、大分丁寧に名乗られる。
 一騎士団の団長ともなると、礼節を弁えている。
 銀のフルプレートに真紅のマントが、何とも言えずカッコイイ。

「それで、今日は何用でこんな所に? 泳ぎに来たようには……見えませんね」

「うむ……我らはあくまでも只の護衛。用件は中におるお方に聞いてくれ」

 俺は敢えてわかり切っている事を聞いたのだが、やはり用件は教えてもらえなかった。
 ここで用件の触りだけでも聞けたなら、中に入るまでに少しでも対策を立てられたのだが……。

「そうですか……なら中に行きますね」

 そう言って俺が立ち去ろうとすると、ティルトンが聞こえるか聞こえないかの小さい声で、

「済まぬ、迷惑をかける」と呟いた。

 ……どういう事だ?

 俺はティルトンの言葉が気になったが、小さい声で言うってことは、堂々とは言えない事なのだろう。
 それが立場ゆえなのかどうかはわからないが。

 少しモヤモヤした気持ちになりながら、エンドレスサマーに入った。


 ダンジョン入口からの長い通路を抜け、エンドレスサマー内部に入る。
 外は秋になり始め、肌寒くなって来てるというのに中はあいも変わらず常夏だ。
 照りつける太陽を白い砂浜が反射して目を刺激する。

 眩しさに目を細めながら、周囲を見渡す。
 するとアイラさんの店、海の家カモメに人が集まっているのが見える。
 どうやら海の家カモメにレイモンド伯爵の使者とやらがいるようだ。

 俺はステアーとピニャに、誰も入れるなと伝えて、入り口通路に行かせた。
 もちろん何かあったらすぐに【思念通信テレパス】で連絡しろと言ってある。


 海の家カモメを死角からよく見ると、アイラさんのほかに、マスコとレナさんが黒の執事服を着た男と共にいた。
 執事服の男の後ろには、こちらも護衛だろう騎士風の男が二人控えている。

(リリル!)

 俺はまずリリルに【思念通信テレパス】を送る。

(ユウタ! 今どこ?)

(もうエンドレスサマーの中にいる。状況は?)

(状況も何も、書状があるからユウタに直接手渡すとしか言わないわ)

 やはり俺がいかない事にはどうにもならんか。

(で、ジロには手を出すなってマスコが言って下がらせたわ)

 さすがマスコ、イイ判断だ。
 短気なジロがいたら話が拗れかねない。

(で、冒険者なら伯爵とか詳しいかと思って私がレナを呼んだの)

(良くやったぞリリル。オマエは何かあるといけないからジロの所にいてくれ)

(分かった)

 そう言って通信を切ると、俺はタロと共に海の家カモメに向かった。




「お待たせしました」

『ユウタ様』

「ほう……君がマスターのユウタかね?」

 そう言いながら座っていた椅子から、執事服を着た初老の男が立ち上がる。
 そして俺をジロジロと、品定めするかのように見る。


「で、今日はどの様な御用向きでしょうか?」

 そう伝えると、執事服の男は咳払いをしてから書状を差し出して来た。

「レイモンド伯爵家家令セバスである。レイモンド伯爵様より貴様に書状を預かって来た。すぐ様開封して中を改めるように」

 家令……という事は執事か。
 使者のくせになんて尊大な態度を取る奴だ。
 オマエのその尊大な態度は、主人のレイモンド伯爵の名を堕としているぞ?

 俺はイラッとしながら、セバスとか言うステレオタイプな名前の執事から、アニメや漫画でよく見かける封蝋で閉じてある書状を受け取る。

 封蝋には封印が押してあるが、俺にはこれがレイモンド伯爵の物か判断が出来ない。
 レナに見せると、レイモンド伯爵家の紋章で間違いないそうだ。

 レナとアイラさんは、レイモンド伯爵が何者か知っているだけに、緊張して顔が蒼ざめているようにも見える。

 俺は大丈夫だよと目配せしてから、指で封蝋を割ると書状を広げて読む。

「───な!?」

 書状を読んで思わず声が出てしまった。

「ユウタ……」
『ユウタ様、内容は……』

 その書状の内容を要約するとこうだ。

 一、このダンジョン・エンドレスサマーはレイモンド伯爵領に存在してるよ。

 二、エンドレスサマーはダンジョンとは名ばかりのリゾートなんだよね?

 三、て事は税を納めなきゃいけないよね?

 四、売上の70%を毎月納めてね。

 五、それが出来なきゃダンジョン接収するよ

 と言った内容だ。

 ハッキリ言って無茶苦茶である。


「何ですか? この無茶苦茶な内容は?」

「無茶苦茶だと? 伯爵領に存在しているのだから、当然の義務であろうが!」

 なんでこのセバスとか言う執事が、こんなにも偉そうなんだ。
 後ろに控える護衛の騎士二人は申し訳なさそうにしている。

「当然?」

「当然だ。誰の御威光で領内が平和であると思ってあるのだ!」

「伯爵様の御威光とやらでない事だけは分かりますが?」

「貴様……平民の分際で貴族である我が主人を侮辱するのかぁ!」

 セバスは顔を真っ赤にして怒っている。
 だが怒っているのは俺も同じだ。

「もちろん人間以外の竜や魔物がマスターをしているダンジョンからも徴税しているのでしょうね?」

 俺の質問がセバスの想定外だったのだろう。
 セバスは、「ぐ……」と言って押し黙った。

「誰から聞いたのか知りませんが、たまたま領内に出来たダンジョンを、たまたま人間がマスターになったからと言って徴税するんですか?」 

「と……当然であろう。領内で商売をするなら税を納めるのは義務である」

 俺は反論しながらも、心の中では俺の主張の方が筋が通っていない事はわかっていた。

 領主の方々だって、全てのダンジョンから徴税したいに決まっている。
 というか、そもそもがダンジョンが営利目的で存在していることがないので徴税の対象にすらなっていないだろう。

 その点、エンドレスサマーは商人ギルドに会社や営利団体として登録はしていないが、リゾートとして食べ物を売ったり商売は行なっている。
 税を払う義務があるか無いかと言われれば、あるだろう。

 だが俺は、書状の無茶苦茶な内容と、セバスの尊大な態度に腹が立っていた。
 なぜ、伯爵に仕える執事だからと言って、他人にこんなに高圧的に接する事が出来るのだろうか?

 それと売上の70%はやりすぎだ。
 これでは接収がハナからの目的に思えてならない。
 当然俺は拒否する事にした。
 今思えば、外にいたティルトンには無茶苦茶な要求で、こうなる事が分かっていたのだろう。

「俺はここエンドレスサマーのマスターとして、レイモンド伯爵の要求を拒否する!」

「な!? 正気か!? 拒否すれば騎士団を派遣して強制接収する事になるぞ!!」

 俺はそんな脅しには屈しない。
 セバスがこんなに高圧的なのも、ここで今すぐ了承させたいからとしか思えない。

「騎士団を派遣? そんな必要はない。俺の方からレイモンド伯爵とやらに会いに行って話付けさせてもらうよ」

 俺の言葉にセバスをギリリと歯軋りをした。

「帰って伯爵にお伝え下さい。近いうちに挨拶に参りますと」
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