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序章 異世界転移

プロローグ 〈神様の手違い〉

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「いらっしゃっい!カチ割りレモンゴ3つね!」

 そう言うと男は、湧き水にレモンゴという名果実のの果汁を混ぜ魔法で凍らせて砕いた、カチ割りレモンゴを容器に入れて渡した。

「毎度ありぃ!くぅ~~忙しくなってきたぜ。おいリリル!カチ割り用にまた氷作っといてくれ」
「もう……人使い荒すぎ!」

 そう文句を言いながらも果汁入りの湧き水を魔法で凍らせるピクシーのリリル。


 うん、今日もいい天気だ。

 青い空、照り付ける太陽、白い雲。
 灼けた砂浜に透き通った海。
 ここはリゾート『エンドレスサマー』である!!
 そして、ここはダンジョンでもあるのだ。
 ダンジョンリゾート『エンドレスサマー』営業中です!




 話は少し前に遡る……。



「ふむふむ、いいぞ……ここはこうして、ここをこうして……ヨシ! 完成だリリル!タロ! ついに完成したぞ! ダンジョンリゾート開店します!!」


 そんな訳の分からない事を言いながら作業している男は、竹原裕太22歳日本人……つまり俺だ。
 なんとこのダンジョンのマスターである。
 何でこんな状況になっているのかと言うと……まあよくある話な訳で。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 社会人になったのはいいものの、就活があまり上手くいかなかった俺は、たまたま拾ってくれて入社した会社が典型的なブラック企業だった。
 朝早くに出社して日付が変わってから帰る……いや家に帰れる日はマシな方だ。
 そんな会社で馬車馬のごとく働かされていた俺は、会社の帰り道にお決まりのように自動車に撥ねられてしまう。

 そして『死んだ!!』と思った瞬間、目に映る風景全てが止まっていたんだ。
 訳もわからず静止する世界をただ眺めていたら、次の瞬間に、真っ暗闇の中ただ一つのイスにスポットライトが当たっているだけの世界にいたんだ。

 状況は全く分からなかったけど、おそらくイスに座れって事なんだろうなぁ? と思いつつイスに座ってみたら、目の前にテンプレ通りの神様が出てきた。

『ふぉふぉふぉ……竹原裕太よ……』
「ゴクリ……」
『ごめーん。手違いで死なせちゃったわ』
「……は?」

 なんて重大な事を軽々しく言ってくる奴だ! ってイラついたのが神様への第一印象かな!?

 それにしても手違いって何だよ手違いって。
 流行りの小説なんかにありがちだけど、そんな事実際あるのかよ……まぁ神様なんてもんが存在してるだけで十分ファンタジーなんだけど……。

「……間違えたってわざわざ言うって事は、何かお詫び的なものがあるんですか?」
『左様。君の希望を最大限取り入れた転生もしくは転移をさせてあげよう』


 なん……だと……!?
 俺の希望を取り入れてくれる……だと?
 一先ずどんな世界に行くのか聞いてみるか。

「……どんな世界に転生? 転移? 出来るのですか?」
『それも君の希望に出来るだけ近い世界に行かせてやるぞ。世界なんてそれこそ星の数ほどあるのじゃからな』


 ……きた……キタコレ! てか世界ってそんなにあるもんなの!?

 そんな事よりオーダー出来るのなら、まず俺がチート的に強いのは大前提だな。それから金持ちのイケメンに生まれ変わって何不自由なく育って美女に囲まれて暮らしたいな~。
 それにやっぱファンタジーな世界がいいよな、魔法があるような。もう科学文明社会は飽き飽きだよ。
 それと当たり前だけど今の記憶は全部持っていきたい。
 あと言葉や読み書きも困りたくないな。
 最後に、戦争とかしてない平和な世界がいいな。

『言っておくが、心の声は全て聞こえておるからな』
「!! いや~お恥ずかしい……欲望が全開になってしまいまして……」
『ならばお主の希望を最大限加味して転生させてしんぜよう……他にはないか?』
「お、幼なじみ! かわいい幼馴染みも欲しいです
 」
『ふぉっふぉっふぉっ……わかっておるわかっておる。皆まで言うな……この儂は方面もなかなか造詣が深いぞ』
「うおおぉぉおお! ありがとうございます! マジでよろしくお願いします!」
『では……始めるぞ』
「ゴクリ……」

 それから音が何もない空間に虹のようないろんな色の光が降り注いできたんだ。
 その光が神様の姿を隠し、俺の視界をどんどん埋め尽くしていった。

 ああ……転生するってことは竹原裕太の人生もここで終わりか……何もない人生だったけど、それなりには楽しかったな……。
 終わりだと思うと急に寂しくなってくるから不思議だぜ……。
 ……なんだが眠くなってきた……本当にこれで……。

『へ……ふぇ……ヘックショーン!! ……あ……しまっ……!!』

 ……ふぁ!? なんか聞こえた気がする……。
 ここで俺は完全に意識を失った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「──っ!……まぶしっ……」

 次に目を覚ましたのは、とある平原の岩の上だった。

「……あれ? 俺って転生したはずじゃ……」

 あの空間での神様とのやりとりを思い出してみる。
 う~んと確か俺願いを取り入れて転生させてくれるって言ってたんだけどなぁ……。
 そういえば、意識が途切れる瞬間に何か聞こえたような気がしないでもないけど……。


『お~い、竹原裕太~聞こえるか~~』

 この声は神様!

「聞こえてま~す! なんか転生してないっぽいんですけど~~」
『……すまんすまん、転生の途中で不可避の生理現象が起きて色々お主の希望とは違うくなってしまったわい』

 生理現象……!? あのクシャミか!!

「どうゆう事ですか~?」

 そう尋ねる俺に、神様はどうなったか説明してくれた。
 話を要約すると、転生の途中でクシャミしちゃったから少し失敗しちゃった。

 ・転生が転移になってしまった。
 ・記憶はそのまま。
 ・見た目もそのまま。
 ・金待ちではないどころか一文無し。
 ・言葉や読み書きは問題なし。
 ・チート能力は多分大丈夫っぽい。
 ・今のところ平和…。
 ・ファンタジー世界ではある。
 ・美女の知り合いはいない。
 ・もちろん幼馴染みもいない。
 との事だ。


 ……おいジジイ……ほとんど願い叶ってねぇじゃねえか。
 手違いで人生終わらせといて、こんな事あるか!?

『ゴメンチョ☆』
「ゴメンチョ☆じゃねーよ。どうしてくれるんだよ!もう一回やり直してくれ!」
『それは無理~』
「コラコラ……」
『お詫びに最低限の装備とすっごい強い剣あげるから許してちょ。モンスターとかいる世界だから役に立つと思うぞい』
「イヤイヤ……」
『ゲームでロールプレイングとかやった事あるなら大丈夫じゃ』
 そう言うと俺の目の前に皮の胸当ての様な物とマント、一振りの剣が姿を現した。
 剣を手に取り鞘から抜いてみると刀身に、


 〈Si Vis Pacem, Para Bellum〉と刻まれているのに気がついた。


 これってこの剣の名前なのかな? 何語だ?

『その文字の意味はいつかわかる時がくる。それまで気にせずとも良い。そしてその剣の名前は〈神剣エクスカリバル〉じゃ』
「は……? なんて……? エクスカリバーじゃなくて? エクスカリバル? 何そのバッタもんみたいな名前」
『やかましいわい。儂に言わせれば、お主が想像しておる方がバッタもんじゃ。とにかくありがたい剣だから大事にせい。では頑張っての……バイビー』
「ちょ……ま……」


 あんのジジイ一方的に終わらせやがった。
 それよりもどうすんだよ。
 右も左もわからない世界で剣だけ持たされて放り出されたよ。
 チート能力ってったって、どれくらいのもんか分からんし……。

「ええい!」

 いつまでもここに居ても話にならんから、町か村でも探して見るか……。
 一先ず皮の装備をつけて……っと。
 とりあえずこの岩から下りなきゃならんのだが、どうしよう…高くて怖い。
 ここ、家で言ったら二階位はあるんじゃないの……?


「ええい! ……ままよ!!」

 チート能力があると信じて、意を決する。
 一度深呼吸をしてから、飛び降りた。


 その時俺が感じたのは、かつて日本で生活していた時とは比べ物にならないくらいの"自由"だった。
 フワリと着地すると、そのまま走り出す。

「体が軽い! 身体の隅々まで神経が行き届く! この身体は俺の物だぁーー!!」

 日本にいた時には身体がこんなにも自由に動かせると感じた事はない。
 むしろ運動は得意な方じゃないかった。
 それなのに今は……今は……。

「俺は一つだぁぁぁ!」

 完全に一つ。
 全て意のままに動かせる。
 枷を全て解き放たれた気分だ。
 細胞の一つ一つ、身体の全てにエネルギーが満ち満ちている!

 何これ? 俺って今まで本当に生きてたのか!? 死んでたんじゃねえの!?
 いや違う……新しく生まれ変わったんだ!

「いやっほーい!!」

 速え~!
 俺ってばこんなに早く走れるようになったんだ!
 結構走ってるけど、全然息が切れないし!
 装備の重さも全く気にならないぞ!

 そうやって平原を走っていると、突然地面が揺れ出した。

「地震!? デカイぞ!」

 地震の多い日本に住んでた俺でも経験した事のない大きさの地震だ。
 未だ揺れ続ける大地の上で何とかバランスを取っていると、それは突然現れたんだ。

「な……なんだぁ!?」

 目の前の地面が突然隆起しだして、小さな山が出来上がった。

 これが出来るから地震が起きたのか……!?
 ようやくおさまった地震と目の前に突然現れた小さな山……よく見てみると、山の中に続くトンネルの入り口のような物がある。


 出来たばかりの安定していない山の入り口に向かって、俺は何故か引き寄せられるように歩き出していたんだ。


──────────────

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