1 / 75
序章 異世界転移
プロローグ 〈神様の手違い〉
しおりを挟む「いらっしゃっい!カチ割りレモンゴ3つね!」
そう言うと男は、湧き水にレモンゴという名果実のの果汁を混ぜ魔法で凍らせて砕いた、カチ割りレモンゴを容器に入れて渡した。
「毎度ありぃ!くぅ~~忙しくなってきたぜ。おいリリル!カチ割り用にまた氷作っといてくれ」
「もう……人使い荒すぎ!」
そう文句を言いながらも果汁入りの湧き水を魔法で凍らせるピクシーのリリル。
うん、今日もいい天気だ。
青い空、照り付ける太陽、白い雲。
灼けた砂浜に透き通った海。
ここはリゾート『エンドレスサマー』である!!
そして、ここはダンジョンでもあるのだ。
ダンジョンリゾート『エンドレスサマー』営業中です!
話は少し前に遡る……。
「ふむふむ、いいぞ……ここはこうして、ここをこうして……ヨシ! 完成だリリル!タロ! ついに完成したぞ! ダンジョンリゾート開店します!!」
そんな訳の分からない事を言いながら作業している男は、竹原裕太22歳日本人……つまり俺だ。
なんとこのダンジョンのマスターである。
何でこんな状況になっているのかと言うと……まあよくある話な訳で。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
社会人になったのはいいものの、就活があまり上手くいかなかった俺は、たまたま拾ってくれて入社した会社が典型的なブラック企業だった。
朝早くに出社して日付が変わってから帰る……いや家に帰れる日はマシな方だ。
そんな会社で馬車馬のごとく働かされていた俺は、会社の帰り道にお決まりのように自動車に撥ねられてしまう。
そして『死んだ!!』と思った瞬間、目に映る風景全てが止まっていたんだ。
訳もわからず静止する世界をただ眺めていたら、次の瞬間に、真っ暗闇の中ただ一つのイスにスポットライトが当たっているだけの世界にいたんだ。
状況は全く分からなかったけど、おそらくイスに座れって事なんだろうなぁ? と思いつつイスに座ってみたら、目の前にテンプレ通りの神様が出てきた。
『ふぉふぉふぉ……竹原裕太よ……』
「ゴクリ……」
『ごめーん。手違いで死なせちゃったわ』
「……は?」
なんて重大な事を軽々しく言ってくる奴だ! ってイラついたのが神様への第一印象かな!?
それにしても手違いって何だよ手違いって。
流行りの小説なんかにありがちだけど、そんな事実際あるのかよ……まぁ神様なんてもんが存在してるだけで十分ファンタジーなんだけど……。
「……間違えたってわざわざ言うって事は、何かお詫び的なものがあるんですか?」
『左様。君の希望を最大限取り入れた転生もしくは転移をさせてあげよう』
なん……だと……!?
俺の希望を取り入れてくれる……だと?
一先ずどんな世界に行くのか聞いてみるか。
「……どんな世界に転生? 転移? 出来るのですか?」
『それも君の希望に出来るだけ近い世界に行かせてやるぞ。世界なんてそれこそ星の数ほどあるのじゃからな』
……きた……キタコレ! てか世界ってそんなにあるもんなの!?
そんな事よりオーダー出来るのなら、まず俺がチート的に強いのは大前提だな。それから金持ちのイケメンに生まれ変わって何不自由なく育って美女に囲まれて暮らしたいな~。
それにやっぱファンタジーな世界がいいよな、魔法があるような。もう科学文明社会は飽き飽きだよ。
それと当たり前だけど今の記憶は全部持っていきたい。
あと言葉や読み書きも困りたくないな。
最後に、戦争とかしてない平和な世界がいいな。
『言っておくが、心の声は全て聞こえておるからな』
「!! いや~お恥ずかしい……欲望が全開になってしまいまして……」
『ならばお主の希望を最大限加味して転生させてしんぜよう……他にはないか?』
「お、幼なじみ! かわいい幼馴染みも欲しいです
」
『ふぉっふぉっふぉっ……わかっておるわかっておる。皆まで言うな……この儂はそっち方面もなかなか造詣が深いぞ』
「うおおぉぉおお! ありがとうございます! マジでよろしくお願いします!」
『では……始めるぞ』
「ゴクリ……」
それから音が何もない空間に虹のようないろんな色の光が降り注いできたんだ。
その光が神様の姿を隠し、俺の視界をどんどん埋め尽くしていった。
ああ……転生するってことは竹原裕太の人生もここで終わりか……何もない人生だったけど、それなりには楽しかったな……。
終わりだと思うと急に寂しくなってくるから不思議だぜ……。
……なんだが眠くなってきた……本当にこれで……。
『へ……ふぇ……ヘックショーン!! ……あ……しまっ……!!』
……ふぁ!? なんか聞こえた気がする……。
ここで俺は完全に意識を失った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「──っ!……まぶしっ……」
次に目を覚ましたのは、とある平原の岩の上だった。
「……あれ? 俺って転生したはずじゃ……」
あの空間での神様とのやりとりを思い出してみる。
う~んと確か俺願いを取り入れて転生させてくれるって言ってたんだけどなぁ……。
そういえば、意識が途切れる瞬間に何か聞こえたような気がしないでもないけど……。
『お~い、竹原裕太~聞こえるか~~』
この声は神様!
「聞こえてま~す! なんか転生してないっぽいんですけど~~」
『……すまんすまん、転生の途中で不可避の生理現象が起きて色々お主の希望とは違うくなってしまったわい』
生理現象……!? あのクシャミか!!
「どうゆう事ですか~?」
そう尋ねる俺に、神様はどうなったか説明してくれた。
話を要約すると、転生の途中でクシャミしちゃったから少し失敗しちゃった。
・転生が転移になってしまった。
・記憶はそのまま。
・見た目もそのまま。
・金待ちではないどころか一文無し。
・言葉や読み書きは問題なし。
・チート能力は多分大丈夫っぽい。
・今のところ平和…。
・ファンタジー世界ではある。
・美女の知り合いはいない。
・もちろん幼馴染みもいない。
との事だ。
……おいジジイ……ほとんど願い叶ってねぇじゃねえか。
手違いで人生終わらせといて、こんな事あるか!?
『ゴメンチョ☆』
「ゴメンチョ☆じゃねーよ。どうしてくれるんだよ!もう一回やり直してくれ!」
『それは無理~』
「コラコラ……」
『お詫びに最低限の装備とすっごい強い剣あげるから許してちょ。モンスターとかいる世界だから役に立つと思うぞい』
「イヤイヤ……」
『ゲームでロールプレイングとかやった事あるなら大丈夫じゃ』
そう言うと俺の目の前に皮の胸当ての様な物とマント、一振りの剣が姿を現した。
剣を手に取り鞘から抜いてみると刀身に、
〈Si Vis Pacem, Para Bellum〉と刻まれているのに気がついた。
これってこの剣の名前なのかな? 何語だ?
『その文字の意味はいつかわかる時がくる。それまで気にせずとも良い。そしてその剣の名前は〈神剣エクスカリバル〉じゃ』
「は……? なんて……? エクスカリバーじゃなくて? エクスカリバル? 何そのバッタもんみたいな名前」
『やかましいわい。儂に言わせれば、お主が想像しておる方がバッタもんじゃ。とにかくありがたい剣だから大事にせい。では頑張っての……バイビー』
「ちょ……ま……」
あんのジジイ一方的に終わらせやがった。
それよりもどうすんだよ。
右も左もわからない世界で剣だけ持たされて放り出されたよ。
チート能力ってったって、どれくらいのもんか分からんし……。
「ええい!」
いつまでもここに居ても話にならんから、町か村でも探して見るか……。
一先ず皮の装備をつけて……っと。
とりあえずこの岩から下りなきゃならんのだが、どうしよう…高くて怖い。
ここ、家で言ったら二階位はあるんじゃないの……?
「ええい! ……ままよ!!」
チート能力があると信じて、意を決する。
一度深呼吸をしてから、飛び降りた。
その時俺が感じたのは、かつて日本で生活していた時とは比べ物にならないくらいの"自由"だった。
フワリと着地すると、そのまま走り出す。
「体が軽い! 身体の隅々まで神経が行き届く! この身体は俺の物だぁーー!!」
日本にいた時には身体がこんなにも自由に動かせると感じた事はない。
むしろ運動は得意な方じゃないかった。
それなのに今は……今は……。
「俺は一つだぁぁぁ!」
完全に一つ。
全て意のままに動かせる。
枷を全て解き放たれた気分だ。
細胞の一つ一つ、身体の全てにエネルギーが満ち満ちている!
何これ? 俺って今まで本当に生きてたのか!? 死んでたんじゃねえの!?
いや違う……新しく生まれ変わったんだ!
「いやっほーい!!」
速え~!
俺ってばこんなに早く走れるようになったんだ!
結構走ってるけど、全然息が切れないし!
装備の重さも全く気にならないぞ!
そうやって平原を走っていると、突然地面が揺れ出した。
「地震!? デカイぞ!」
地震の多い日本に住んでた俺でも経験した事のない大きさの地震だ。
未だ揺れ続ける大地の上で何とかバランスを取っていると、それは突然現れたんだ。
「な……なんだぁ!?」
目の前の地面が突然隆起しだして、小さな山が出来上がった。
これが出来るから地震が起きたのか……!?
ようやくおさまった地震と目の前に突然現れた小さな山……よく見てみると、山の中に続くトンネルの入り口のような物がある。
出来たばかりの安定していない山の入り口に向かって、俺は何故か引き寄せられるように歩き出していたんだ。
──────────────
新作連載開始しています!
私、竹山竹善の新作、
『魔王討伐後にジョブチェンジした英雄の日常』~魔王がいなくなっても、世界は続いているのだから~
をよろしくお願いします!!
Webサイトでご覧になってる方は下部から、アプリでご覧になってる方は作者ページからなのかな?
笑えるコメディを目指して書いておりますので、是非読んで見てください。
合わせてお気に入り登録もお願いします。
1
お気に入りに追加
644
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる