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序章

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「お、お願いしまずぅうう!!! たすげて…だすげてぐださいぃいい! 」

美しい煌めきを放つハニーピンクの髪が床に広がり、その少女は顔を床につきそうなほど下げて、何かを懇願しています。
体は小刻みに震えていました。

「お願いぃいいい! 私、本当に恋愛とかゲームとかどうでもいいぃからぁあああ」

少女は枯れそうな程、声を張り上げ号泣しているのですが、話が見えません。
鈴の音の様に美しいはずの彼女の声は、必死さで可愛げを失っていて同じ人の声とは思えませんでした。

「ヴェェエエ…うぇ…っロニカぁざまぁああああ! 」

少女は嗚咽しながら私の名前を叫ぶ為、私は反射的に渋い顔をしてしまいました。
貴族社会で生まれた以上、自分の名前を様々な所で囁かられるのは仕方ない事ですが、こんな呼ばれ方は初めてでしたので対処しきれません。

「わたし、何もしたくないぃいい! 何もしてないのに…怖いよぉおお! なんで、好感度が上がるのぉおお! 」

彼女は顔を上げて叫び続けます。
私はさらにギョッとして彼女を見ました。
彼女の話している内容も理解できませんが、涙やその他の液体でぐちゃぐちゃになっている顔は悲惨なものだったからです。
大きく美しい水色の瞳は、これでもかという程大きく開き切って、少ない白目は充血の域を超えそうなほど赤みを強くする一方です。
愛らしいぷっくりとした唇も、大きく開かれ下品と言うよりは必死に何かを吐き出そうとしている意思は見えるものの、歪んでしまっていて──、正直、恐かったです。

「恐いんでずぅうう! 攻略対象が、キラキラしすぎて、ベタベタしてきて、怖いよぉおお!! 」

恐いのは私です。
勢いそのまま彼女は縋る様に私のスカートにしがみついてきました。

「えっ、ちょっと…」

彼女から溢れ出ている液体が服についてしまうどうこうよりもその勢いの方が恐怖に思え、私は一歩下がりかけました。
が、このか細い体のどこにそんな力があるのかと言う程、彼女は力強く私のスカートを抱え込んで放そうとしないので、動けば私が倒れてしまいそうです。
私は完全に身動きの取れない状況になっていました。

「おねがぃいいいい! だずげてぇええ!! 」

いよいよ余裕が無くなったのか、彼女は身分が上の私への敬意を忘れています。
敬語を使わないから無礼だとは思いません。
ただ、彼女はそれだけ必死なのだと伝わってくるのみです。

どうしたものか…

私は頭を悩ませました。
最近、この少女に私は頭を悩まされていたのです。
少し嫌悪感が無かったとは言い切れません。
でも、この状況は一体どうなっているのでしょか?
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