上 下
299 / 322
護衛対象はキケンな男の娘 短編

下準備は念入りに

しおりを挟む
 ──御器所の話を葵はすぐ理解したらしく、スマホを手に取ると独り言のように

「さて、ではお父様に連絡しますか」

と言ってさり気なく通話を切り、葵雷蔵へとリダイヤルする。

 ずっと黙っていた夏生が我慢できなくなったらしく、隣に座っているハジメに小声で話しかける。

「おねーさま、葵先生ってスゴいですね」

「そうね、頭が良いのは知ってたけど……ああやって他人ひとを動かすことは敵わないなぁ」

 高校生に自分の弱味をみせるような発言だが、ハジメはそういったことは気にしない。事実を素直に受け入れて素直に認める、そういう性格だからだ。

「おねーさまだってスゴいじゃないですか。六人も倒したうえにパパもやっつけちゃったし」

「パパのことは忘れて。殴っちゃってゴメンね」

「ううん、気にしないで。あんな怖くて強いパパをやっつけちゃったのを見て信じられなくて驚いてたけど、パパも負けるんだって知ったら何かスッキリしちゃった」

どうやら知らずに夏生のメンタルケアをしていたようだ。ハジメはそれに気づかなかったが、何となく良い結果になったことは感じていた。

 助手席に座っていた御器所は、シートを倒してずり上がりハジメのそばに寄る。

「小山、葵先生ってナニモンだ」

「ナニモンと言われましても……、高校の同級生で教育大学から森友財団に就職して学園グループの監察役をしているとしか」

「ちげーよ、経歴じゃなくて人柄だ。初めて会ったとき只者じゃないとは感じてたが、こんなにおっかないとは思わなかったぞ」

「おっかないですかねぇ、たしかに頭は良いですけど……。そういえばさっき葵が言ったワン・ツー・スリーって意味分かりますか」

「あってるかどうかは分からんが……、たぶんこれからやるコトが三つあると考えたんだろう、それが何かはわからん」

 何となく三人は寄り集まって、葵の行動を見守る感じになっていた。
 当の葵は少し緊張した感じで話している。会話の内容は分からない、だが手こずっているのはみてとれた。

「──ええ、ではそのようにお願いします。わかりました、念を押さなくてもパーティには行きますから、そちらもよろしくお願いしますね。では失礼します」

通話を切り、ひと仕事終えた感の葵はふうとため息をついた。

「何とかお膳立ては出来たわ。さぁて始めましょうか」

「その前に葵先生、何をどうするか教えてもらいませんか。万一の時、意図を知っていると対応しやすいですから」

「あら御免なさい。ちょっと気が急いてましたね。──お父様と会話したあとはいつもこう、気を落ち着けますね」

二度程、深呼吸してから葵は計画を説明した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...