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ジャグジーの誓い 短編

その2

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「ここのVIPルームはロッカールームとシャワーエリア、それにここジャグジーで成り立っているの。ロッカーは五つ、今のところここに出入りできるのは三人よ」

「見たところ分かれてませんが、ここは女性用ですか」

「ううん、男女兼用。不埒な真似をする者は入れないから」

「どうしてです」

「私が審査しているから」

 普通に会話をしているつもりだが、蛍はちらちらと一色の持っているカバンを見ては目をそらしている。
 それを見てよほど気になっているなと感じ、少しだけ意地悪な気持ちが、焦らしてやろうかと考えたが、千秋のことを思い出してやめた。

「ジャグジーはね、ちょっと仕掛けがあるの。スマホ持ってるかしら」

「ええ」

「ちょっと見てくれる」

 ポケットから取り出して画面を見る。圏外になっていた。

「電波妨害ですか」

「そう。そういう素材で覆っていて厚めにしてある壁なの。そのうえジャグジーの泡で雑音」

「しかもお互い裸になるから何も持ち込めない。密談にもってこいですね」

 ここに連れてこられた意味を理解した一色は気を引き締める。

「とりあえずお約束のモノを渡しましょうか」

 一色から薄い本を取り出して渡そうとするが、蛍がそれを押し留める。

「待って待って、それよりも大事なことを先に確かめましょう。一色テンマくん、あなた本当に千秋についていくの」

「はい」

 気持ちのいいくらいの即答だった。

「千秋の目標は知ってる?」

「本社の社長ですよね」

「それでもなの」

「はい」

「なれると思ってるの」

「どうしてなれないなんて考えるんです」

 不思議そうに問い返す一色に啞然とする蛍だが、そういうことがと納得した。

「千秋が黙って私のまえに放り出したのがわかったわよ。アンタも私と同じなのね」

 千秋なら、千秋だからこそ、やれると信じて疑ってないのだ。
 完全に腑に落ちた蛍はポケットからUSBメモリを取り出すと、それを渡す。

「なんです? コレ」

「お詫びの印よ。一色くんの元上司のデータ。そのうち役に立つと思うから」

「どうしてコレを」

「千秋から聞いてない? あなたはその上司に嫌われてリストラ課である企画3課に異動になったのよ」

「ええ知ってます。ボクが仕事でやり過ぎたからですよね」

「違うわよ。そうじゃなくてあなたがゲイだからって……、聞いてないの?」

「……ええ」

 仕事で出しゃばりすぎて疎まれたからトバサれたと思っていた一色には、少々ショックが強かった。

「あー、ごめん。知ってると思ってたから……」

「いえ、気にしないでください。それより鏑井さんはどうしてそのことを知ってるんです」

「先月のコンペの件、あのとき千秋が誰かから聞いてそれを話してくれたから……、そっか、あなたのために言わなかったのね。私のミスだわ、ごめんなさい」

「謝らないでください、かえってスッキリしました。おかげで良い上司に巡り会えたんですから」

 一色の言葉に蛍はホッとした。
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