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ジャグジーの誓い 短編

その2

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 金曜日、午前中の曇天の空を窓から見上げながらコーヒーを味わう。

「今日も美味しく淹れてあるわね」

 他のメンバーにもコーヒーを配っている一色テンマに千秋はそう言った。

「毎日淹れてるおかげですね。このまま喫茶コーナーでもやりますか」

「馬場さん専用のね」

 テンマの返事にため息をつきながらそう応えると、どうしようかと頭を悩ませる。

 今年度の入社式を終えて、次の営業日から千秋達の調査資料部に日参してくるのは経理課の二課長である馬場であった。
 目的は一色と塚本穂積で、彼らを引き抜きたいと毎日のように千秋に直談判しにきているのだ。

 「なんとかしたいけど、今のところいいideaが無いわねぇ」

「チーフ……じゃなくてボスがそんなのだと僕らは経理課に行くのはそう遠くなさそうてすね」

 他人事のように言う一色にじろりと千秋は睨みつける。
 それを受けて一色は慌ててすいませんとばかりに頭を下げる。

「まあまあ、部長さんならなんとかしてくれますよ」

 横から口を出したのは自分の席で詰将棋をしている町屋課長だった。

「そうですね、ボスならなんとかしてくれると信じてますよ。サーバー洗ってきます」

 あわててみんなにコーヒーを淹れて空にすると、そそくさと給湯室へとテンマは避難していった。
 やれやれと思いながら千秋は室内を見まわす。
 詰将棋をしている町屋課長
 歴史小説を読んでる塩尻課長
 唯一マジメに社史をデータ化して入力している塚本さん

 千秋も手伝おうとしたが、塚本の超スピードに追いつかないのでかえってジャマになってしまった。
 それ以来彼女に任せっきりだ。

 馬場課長が欲しがるのもムリないなとあらためて思う。

「ホントになんとかしなきゃね」

そう言うと千秋はまた空を見上げた。



 昼休み、弁当組と外食組に分かれて食事に向かう。千秋と一色は外食組だ。

「町屋さん達は弁当持参だけど、塚本さんはなに食べてるのかしら」

「もともと少食なのであまり外食しませんね。小ぶりの春雨スープで足りるそうです」

「身体もつのかしら。まあ塚本さんらしいけど」

「ボスは健啖家ですからね」

「大食いみたいに言わないの。好き嫌いなく三食ちゃんと食べてるだけじゃない」

「健康的と言い直します」

「一色くんこそどうなの、ちゃんと食べてるの」

「まああまり食にこだわりませんね、コンビニ弁当とかゼリー飲料とかですますことが多いです」

 一色の体型はスリムで長身、腹は出ていない。良いスタイルだと思うが、少し色白なのがひ弱なイメージになってしまう。

「健康診断は会社でやってるからいいとして、体力測定は最近やった?」

「いや、そんな機会無いですから大抵の人はやってないと思いますよ」

「なら一度やってみなさい。これあげるから」

 千秋は内ポケットからチケットを取り出して一色に渡す。

「スポーツジムの優待券よ、ちょうど週末だし明日にでも行ってらっしゃい。そして測定結果を報告すること」

「そんな急に言われてもボクにだって都合が」

「明日、予定あるの?」

「……無いです」

「じゃ、決まりね。たまにはいい汗流してきなさい」
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