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第1部

その6

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紹介されて千秋はなんとなく思い出した。

例の[横領濡れ衣吊し上げ会議]で進行していたのが部長の加茂で、こちらは見覚えがある。
浮野秘書課長と勝栗総務課長も、立場上居た筈だが覚えがない。もっともあの時はそれどころではなかったからしょうがない。

「お疲れ様です。皆さんまだお仕事なんですか」

「明日は入社式だからね、総務課はまだまだ帰れないよ」

あちゃあ、そんな時に人手を借りてしまったのか。

これは何かお返ししないといけないなと思い、千秋は調査資料部から手伝いを出すと申し出る。

「いやいや部長さんを使うわけにはいかないから」

勝栗課長が皮肉まじりで断る。勝栗浮野は郷より年上で町屋塩尻よりは若いといったところか。
年下の上司でも男なら赦せるが女はゴメンだというのが言外に伝わってくる。
 出過ぎた真似をすると揉めそうだからと、引き下がることにした。

「気持ちだけ受け取っておくよ。ああ、佐野くんじゃなくて部下のコなら手伝ってもらえるかな」

郷が空気を察して折衷案を出すと、それならと勝栗は承諾した。千秋は了解すると郷にお礼を言う。

「気にしなくていいよ、それと護邸くんに飽きたら、僕のところにおいでね」

「そんなことにならないでしょうけど、その時はお願いします」

そう言うと千秋は失礼しますと、その場を離れていった。



「どうだい浮野さん。欲しい人材と思わないかい」

「ちょっと二の足を踏みますねぇ、なんせ本社社長の秘書でしたから。はじめて聞いた時は仰天しましたよ」

「私も浮野さんに賛成ですね。だいたい部長職を秘書にできないでしょう」

「それはやりようだよ、ねえ浮野さん」

「どっちにしろダメですな。常務付きの秘書になりたがる秘書《女性》達が許しませんからね。だから唯一男の私が常務の秘書をやっているんですよ」

「ダメかねぇ」

「さあそろそろ仕事の話に戻りましょう、でないと今年も徹夜になりますよ」

部長らしく加茂が話を戻すと、4人はふたたび打ち合わせを始めるのだった。



エレベーターで1階まで降りると、そこには一色が待っていた。

「どうしたの、一色くん」

「チーフ、明日の夜は何か予定はありますか」

「特に無いわよ」

「でしたらお付き合い願いませんか。お話ししたいことがあります」

「今ここじゃダメな話なの」

ぜひあらためてと一色が言うので約束すると、先程の総務課との話を伝え、明日は総務課の手伝いをお願いして了承してもらい、それぞれ帰宅の途につくのであった。


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