上 下
166 / 322
第1部

その5

しおりを挟む
「じつは御礼と御詫びと口止めの意味で、接待しているんです」

「何か口止めするような事を、知りましたかしら」

「それはこれから話すんです。それが御礼と御詫びの事です」

一皿目を食べ終わると、口もとを拭きながら芝原は話し始めた。

「まずは、すみませんでした。今回のコンペですが裏がありました」

やはりね、とは思ったが千秋は素知らぬふりして話をうながした。

「うちの課長が群春さんからリベートを受け取って、コンペの便宜をはかるというのが発覚しまして」 

「どうして分かったんです」

「群春さんに警察が入ったとき、支社長から課長にカネが流れている事が発覚して、確認に警察が来ましてね、それでわかったんです」

「課長さんはどうなったんてす」

「リベートを受け取ったかの確認だけでしたから、お咎め無しですが、社内的には有りです。僕の本来の上司から問い詰められて全部白状しました」

「本来の上司って」

「僕はもともと財団本部所属なんです。今は出向のかたちで来てますが、明後日の来年度からまた本部に戻る予定です」

「そうだったんですか、じつは私も異動が決まりまして、この仕事は手を離れる事になっているんです」

「そうなんですか、となると後任は一色さんですか」

少し声が上向きな言い方で、芝原は訊ねる。

「いえ、一色も異動です。まだ未定なのではっきりと言えませんが、後任は営業の誰かが担当になると思います」

「そうですか」

がっかりした感じで返事をされた。一色に会いたそうなのが明らかな感じだ。連れて来ればよかったかなと千秋は思った。

「それで課長さんはどうなったんてす」

「群春の支社長とうちの課長は同じ大学出身で、同じサークルの先輩後輩の間柄なんです。それでコンペに便宜をはかってくれと打診があり、御礼として50万もらったそうです」

大金だな、そりゃ心がうごくわよね。一色君の言ってた、社を越えた学閥ってやつかな。それにしても不思議だな。

「サークルの先輩後輩というだけで、危ない橋をよく渡りましたね。芝原さんはどうです、大学の先輩に頼まれたらやりますか」

「僕は断るでしょうね、少なくともよほどの義理か恩がないとしません」

「課長さんにはあったのかな」

「さあ、そこまでは。大事なのは理由でなくてやったという結果ですからね。ただ佐野さんのおかげで取り引きが成立しなかったので、傷が浅くてすみました。ありがとうございます」

どうやらそれが、御礼を言いたい事のようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼の頭領様の花嫁ごはん!

おうぎまちこ(あきたこまち)
キャラ文芸
キャラ文芸大会での応援、本当にありがとうございました。 2/1になってしまいましたが、なんとか完結させることが出来ました。 本当にありがとうございます(*'ω'*) あとで近況ボードにでも、鬼のまとめか何かを書こうかなと思います。  時は平安。貧乏ながらも幸せに生きていた菖蒲姫(あやめひめ)だったが、母が亡くなってしまい、屋敷を維持することが出来ずに出家することなった。  出家当日、鬼の頭領である鬼童丸(きどうまる)が現れ、彼女は大江山へと攫われてしまう。  人間と鬼の混血である彼は、あやめ姫を食べないと(色んな意味で)、生きることができない呪いにかかっているらしくて――?  訳アリの過去持ちで不憫だった人間の少女が、イケメン鬼の頭領に娶られた後、得意の料理を食べさせたり、相手に食べられたりしながら、心を通わせていく物語。 (優しい鬼の従者たちに囲まれた三食昼寝付き生活) ※キャラ文芸大賞用なので、アルファポリス様でのみ投稿中。

小さな奇跡

鷹さん
キャラ文芸
入学式と言っても、桜はだいたい散っている。しかし入学式はいろんな人の希望という名の芽が集まっている。 希望という名の芽が開く事は、芽を出すよりかは小さな奇跡に過ぎないないと誰かが言っていた。 そう俺は今日入学する!! 希望とう名の芽を持たずに。 記憶を失った天才サッカープレイヤーと、それを支える1人の女性の物語

呪い子と銀狼の円舞曲《ワルツ》

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 声を封じられた令嬢が、言葉の壁と困難を乗り越えて幸せをつかみ、愛を語れるようになるまでの物語。 明治時代・鹿鳴館を舞台にした和風シンデレラストーリーです。 明治時代、鹿鳴館が華やいだころの物語。 華族令嬢の宵子は、実家が祀っていた犬神の呪いで声を封じられたことで家族に疎まれ、使用人同然に扱われている。 特に双子の妹の暁子は、宵子が反論できないのを良いことに無理難題を押し付けるのが常だった。 ある夜、外国人とのダンスを嫌がる暁子の身代わりとして鹿鳴館の夜会に出席した宵子は、ドイツ貴族の青年クラウスと出会い、言葉の壁を越えて惹かれ合う。 けれど、折しも帝都を騒がせる黒い人喰いの獣の噂が流れる。狼の血を引くと囁かれるクラウスは、その噂と関わりがあるのか否か── カクヨム、ノベマ!にも掲載しています。 2024/01/03まで一日複数回更新、その後、完結まで毎朝7時頃更新です。

待合室

おりん
ライト文芸
うつで休職中。何とか復職したい。。そんな私に起きた心療内科の待合室での出来事。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

廃嫡王子のスローライフ下剋上

渋川宙
ファンタジー
ある日突然、弟と宰相の謀反によって廃嫡されてしまったレオナール。 追放された先は山に囲まれた何もない場所のはずだったが、そこはあちこちから外法者が集まる土地だった! 住民たちとのんびり生活を始めるレオだったが、王太子の地位を得ようとする弟のシャルルが黙っているはずもなく、さらに周辺諸国も巻き込んで騒ぎは大きくなっていく―― が、当のレオナールはのんびりスローライフ中! 無自覚に下剋上が起ころうとしているなんて、知る由もなく、今日もゆるゆる旅の最中

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...