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第1部

その7

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護邸はそう言ったが、1分もたたないうちに自分も悶絶するはめになる。

ひと切れ口にしてはワインを飲み干し、またひと切れ口にしてはワインを飲み干す。

あと3枚、あと2枚、あと1枚しかないぃぃ

2人は官能の世界から別れを惜しむように、最後の赤ワインを飲み干した。

まるで事後の男女のように、恍惚の表情でぐったりとしている2人。テーブルの上をウェイターが片付けると、最後のデザートが並べられ、フィンガーボールも置かれる。

蜂蜜酒ミードとドライフルーツのミックスです」

「みーど?  」

「蜂蜜でできた酒だよ」

「なんだか甘そうですね」

蜂蜜酒のグラスを同時にとると、自然にグラスの端同士をコツンと当てて、乾杯の行為をした。

「甘~い」

「蜂蜜酒は辛口のもあるけど、これはかなり甘いな。なるほどこれはデザートだ」

ドライフルーツをつまみ、口に入れて蜂蜜酒を含む。ドライフルーツの酸味と蜂蜜酒の甘味が合う。

ミードグラスを指先で撫でながら、千秋は、うっとりとする。

「デザートに口説かれているね」

あまり甘味が得意でない護邸は、千秋の様子を見て楽しそうに微笑んだ。



最後のドライフルーツをつまみ、蜂蜜酒を飲み干すと、ナフキンで口もとを拭く。

テーブルの上を片付けられ、クロスを取り替えられると、コーヒーカップのセットと保温機能付のサーバーを置かれ、スタッフ全員が部屋から出ていく。

「楽しんでもらえたかね」

「ええ、とても素晴らしい体験でした」

千秋は、コーヒーカップを取り上げると、護邸のと自分のものにコーヒーを注いだ。



「ところで、最初の話を覚えているかね」

「なんでしたかしら」

「ここの秘密は守られるかどうかだよ」

「ああ」

「ここの料理を2度と食べたくない、なんて思うかね」

「いいえ、正反対ですわ。なるほど、そういう訳ですか。お店の名前の意味もわかりました」

「そう、ミダスはミダス王の事だ。神に頼んで、触れるものすべてを金に換える能力を手にいれたミダス王」

「しかし、そのために食べ物も触れた途端、金に換わった為に、ひもじい思いをしたという逸話」

「ミダスの事を話せば、いくらか報酬を手に入るかも知れない、だが2度と食べられなくなる、そういう意味だ」

体験するまで、そんなバカなと思っていたが、こうなってはもう信じるしかない。

千秋自身も、この店の事は喋らないだろう。と、同時に、ここに来るには護邸に連れて来てもらわなければならない、護邸に逆らえない理由ができてしまった事に気がついたのだった。
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