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第1部

その2

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千秋が中に入ると、そこには護邸がいた。

「時間どおりだね、ようこそ」

コートを、別のタキシード男に脱がしてもらいながら、護邸は千秋に話しかける。あまり詳しくない千秋でもひと目で上等だとわかる生地で、ダークグレーのスリーピースのスーツが似合っていた。

千秋には、タキシード姿の女性が近寄り、コートをお預かりしますと言われつつ、脱がしてもらう。すみれ色のロングドレス、胸元が大きくあき、腰までスリットが入っている。
土曜の時と違うのは、腰にゴールドカラーのチェーンが巻かれている。

「ふうん、それが例のドレスか。たしかにステキだな」

得たいの知れない状態で言われても、嬉しくともなんともない。千秋は、能面の様な顔のまんまで軽く頭を下げた。

「常務、いったいどういう事なんでしょうか」

千秋の質問に答えず、ウェイターに案内され隣室へ進む護邸を追いかける千秋。
隣の部屋は豪華な洋風の造りで、中央に白のクロスをかけられたテーブルに、対面する形で椅子が置かれていた。
その片方の壁には大きな窓があり、外の景色が見える。夜景が綺麗だ。
もう片方の壁は何もないが、壁の手前に水槽が腰まである台の上に置かれていた。

護邸は奥の椅子に座るように千秋に言うが、遠慮されたので自分が座り、千秋も対面の椅子に座る。

ウェイターがテーブル前まで来ると、半透明の袋を2つテーブルの上に置く。
護邸が自分のスマホを取り出すと、ウェイターに渡す。

「君も出しなさい」

千秋もポシェットから取り出すと、ウェイターに渡す。
ウェイターは半透明の袋に1つずつ入れて口を閉めると、それを部屋の中にある水槽に入れた。

千秋は慌てたが、袋は沈まずにまるで魚のように水中を漂いはじめた。
ウェイターはちゃんと防水出来ているのを確かめると、2人に正対して会釈をして退室していった。

部屋に2人きりになると、護邸は口をひらいた。

「ようこそミダスへ」

「ミダス?  」

「この会員制レストランの名前だよ。会員になるには厳しい審査と条件がある、その代り絶対秘密を守られる」

「これからどなたか、みえられるのですか」

「いや、君と私だけだ。ああ、そうか、すまない、1つ訂正だ」

「何をです」

「君がもてなす、ではなく、君をもてなすのが今夜の趣旨だ」

「私をもてなす、ですか?  」

「それ以外は言ったとおりだ、食事と会話だけだよ」

「いったい……」

護邸の意図がわからず、千秋は困惑していた。
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