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第1部

その2

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シマに着き、課長の机をあらためると、私物が全く無くなっていた。やはり昨夜のうち誰も居ない時を見計らって持ち帰ったのだろう。

「やはり辞められたみたいですね」

一色の言葉に、千秋は無言で頷いた。
それぞれの席に着くと、いつも通りの入力仕事を始める。塚本は変わらず平常運転で作業を始め、一色と千秋もそれに倣う。一色がぽつりと言う、

「スズキさんも、なんでしょうかねぇ」

たぶんそうだろうと千秋は答えずに思った。それから10時過ぎくらいに1課長と2課長が、護邸常務に喚ばれて席を離れる。1時間くらいして戻って来ると、1課長は千秋のそばに来る。

「話は常務から聞いた。それだけだ。それと君も常務に喚ばれているから行きたまえ」

それだけ言うと業務に戻ったので、千秋は立ち上がり会釈をすると、一色に伝え常務室に向かった。

「失礼します」

入るように促され入室すると、護邸と加納がいた。
加納は無表情を装っているが、少々不機嫌なのが見てとれた。

「昨日はご苦労様。とりあえずどうなったかを説明する。かけたまえ」

社長室と同じように応接用のソファセットがあるので、そちらに促された。

「サトウ課長は昨日付けで退職した、スズキさんもだ。君からの提案を伝えたが、返答は保留となっている、以上だ」

それだけ、と千秋は思ったがとりあえず、はいと答えた。

「それだけと思ったかもしれないが、昨日の今日で、まだ調整中の段階だ。3課の今日の予定は?  」

「私は午後から仕入先との打ち合わせで、他の者は入力作業です」

「それなら昼からは一色、塚本両名は経理の応援に行ってくれ」

「大丈夫ですか」

塚本はもともと経理にいたのだが、コミュニケーションがとれなかったので、人間関係が齟齬して企画3課に来た、という経歴がある。

「経理部からの要請だ。年度末の忙しい時に、横領が発覚して課員が辞めるというダブルパンチだからな。とりあえず人手が欲しいそうだ」

「一色も一緒なら、コミュニケーションはなんとかなるでしょう。あとは彼女のライフスタイルを崩さなければ戦力になると思います」

「経理部にはそう言っておくよ。では昼からはその流れで。それと」

一拍、間をおいて護邸は言葉を続ける。

「今夜の君の予定は何かあるかね」

「いえ、特には」

護邸はメモ用紙を取り出すと、

「それなら結構。この時間この場所へ来てくれ。ドレスコードはそうだな、土曜日、君がパーティーに着ていったドレスで」
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