上 下
136 / 322
第1部

夜のお誘い

しおりを挟む
ツマミもあらかた片付いたので、御開きとなり千秋とハジメは帰ることにした。

「最強コンビなら安心ね、おやすみぃ」

蛍は玄関まで見送ると、鍵をかけて中から手を振った。千秋達も手を振ると、深夜の壱ノ宮の闇夜に消えていった。
見えなくなるまで見送ると、蛍はシャッターを下ろし戸締まりの確認をはじめる。

「お姫様が騎士とともに帰っていく、か」

蛍は施設内を確認しながら独り言を続ける。

「あたしにハジメ、それから部下の一色君と塚本さん、そして舎弟のノブとかいうの」

全部戸締まりしてあるのを確認して居室に戻り、シャワーを浴びる。

「もう、守られるお姫様じゃないわね、人を率いる立場、女王様かな」

シャワーを止めて蛍はくすりと笑う。身体を拭き寝間着に着替え、布団を敷き眠りについた。

その頃、歩いて帰る2人は、それぞれの自宅に着いたところで、千秋もハジメも明日のために床に入り眠りにつくのだった。



翌日の火曜日、千秋はいつもどおり出勤したが、足取りは少し重かった。
ここ一週間は変則的であったが、始業2~30分前に席に着くのが千秋のルーチンである。しかしなかなか足が進まず、始業5分前に会社の入口に着く。

「チーフ、おはようございます」

振り返ると、一色と塚本がいた。

「おはよう、2人とも」

元気無いですね、と一色は言葉を続けそうになったが、言わなかった。原因は分かっている、自分たちもおなじなのだからと。
3人は無言のまま、中に入りエレベーターに乗り込んで、企画部のフロアで降り、企画部におそるおそる入り、3課のシマをみた。

課長の机の上がやけに片付いていた。

「3課の佐野くん、来たまえ。2人もだ」

声の方を見ると、企画1課の課長が手まねきしていた。千秋達は言われた通り側によると、隣の2課長もやってきた。

「何があったんだ」

開口一番、訊ねられた。

「昨日遅くに護邸常務から連絡があり、新年度まで君達を預かってほしいと言われた。そして今朝来てみれば、サトウ課長の机が片付けられている。一体何があったんだ」

2課長も知らなかったらしい、驚いている。

「私もよく知りません、今出社したばかりなので」

「そんな筈は無いだろう、ここ一週間の君達は色々と動いていた。なにかあった筈だ」

しばらく千秋は黙っていたが、やがて口を開くと、やはり知りませんと言い、護邸常務から何か伝えられるでしょうと続けた。

それを聞き、両課長はとりあえず引き下がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...