ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母の晩年 6〜祖母に来た葉書〜

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 その葉書がの組合から来たものか役場から来たものかは忘れてしまったが、祖母によると市日に出店するためには年に一度、量りの検査を受けて合格する必要があるという。
 確かに祖母愛用の旧式の量りが、子どもの頃から小屋の定位置にずっと置いてあった。市に出す商品の目方を量るのに使うのは知っていたが、そういう決まりがあるのは初めて知った。

「本当だ。検査の日にちが書いてある」

 祖母は市日に出店できなくなった後も、量りの検査にだけは毎年行っているのだと言った。

「来月だって。せっかくだし、今年も行ったらいいべ」

 私は何の気なしにそう言った。「行く」と言えば父だって軽トラを出してくれるだろうし、店だって手伝ってくれるかもしれない。市日の出店だって品数も時間も負担にならない範囲なら……

はあもう体もいぬがねえし……畑もやってねえがら売るもんもねえんだ」

 祖母は力なく笑って検査の葉書を撫で、

「茶箪笥の引き出しさしまってけでくれ

 と、使うあてのない葉書を私に寄越した。

 畑には父の作った野菜が人に分けるほどあるし、同じ土日農業仲間と情報交換をしながら梅の実や味噌玉を買ってきては梅干しを漬けたり味噌を作ったりもしている。料理は全くしない父だが、祖母直伝の赤蕪漬けや胡瓜の古漬けはおそらく免許皆伝の域ーーまで行かずとも近づきつつはあるのではないか。

 だが、祖母の中には私達には見えない一線があるのだ。それらはあくまで父の物であって、自分で種や苗から世話をして収穫し、自分の手でこしらえた物でなければ意味はないのだ。

 退職まで秒読みの父が祖母の組合員資格を引き継ぎ、祖母が手伝うということもおそらく不可能ではないのだろう。接客が好きでフリマ的な感覚で楽しくやれる人なら「それもあり」かもしれないが、いくら元営業職でも機械職人寄りの父はそこまで社交的ではない。祖母と畑の世話と町内会のあれやこれや以上に何かを抱えられる余裕は無いだろう。
 何より、古き良き時代の厚生年金制度の恩恵で悠々自適の年金生活を決め込める世代なので、祖母のように地道に小銭を稼ぐ理由が無い。そんな事情も祖母は何となく察しているのかもしれない。

なげてけで捨ててくれ

 と言われなかっただけ私もホッとしたような、何だか泣きたいような気分になりながら、茶箪笥の祖母専用の引き出しにその葉書を入れた。
 引き出しの下には米寿のお祝いの時に、習字の得意な颯也が筆で書いた「おばあちゃん 米寿おめでとう」の横断幕がきちんと畳まれて大事に仕舞われていた。

「葉書、ここに入れたからね」

「ああ、わがった。どっこいしょ」

 祖母は座卓を支えに立ち上がり、腰を曲げたままいよいよおぼつかない足取りでトイレに向かった。
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