ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母の晩年 3〜祖母の生き甲斐〜

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 さて、当時の私はといえば市日にはまるで興味がなかった。
 幼い頃に母に連れられて行った記憶が辛うじてあるのだが七夕や秋祭りの夜店とは違い、子ども騙しの原色のお菓子やおもちゃがどこにもない食材や生活用品中心の市は、子どもには退屈で暇を持て余した記憶がある。
 当然と言えば当然なのだが、それで祖母の市での様子もよくわからない。今振り返ると残念だ。

 だが、市の売り上げで曽祖母を養い、父を成人まで育て上げた実績は伊達ではない。家ではなかなか一筋縄ではいかない祖母もおそらく、市の客相手にはニコニコと愛想がよく、テンプレのような農家の純朴なおばあちゃんだったのだろう。
 それに味噌や梅干し、凍み系の保存食などは家に伝わるレシピもこだわるポイントも味も、家毎にそれぞれ少しずつ違う。北三陸に限らず、東北人は全体的に塩辛い味付けになりがちだが、当時の家の味噌や梅干しは平均値より塩っぱかったらしい(咲恵ちゃん・談)
 今、父が半製品から作るそれらは祖母のレシピよりもやや薄味だ。コマーシャリズムとタッグを組んだ健康ブームの黎明期で、減塩キャンペーンの真っ最中でもあった昭和の当時、オリジナルの祖母の味にもまだ一定の需要はあって贔屓にしてくれるお得意さんもいたようだ。

 そうやって売れたお金で帰りにちょっと一杯……ではなく、近所のよろず屋に寄り道して孫達に菓子を買ってやるのが、趣味らしい趣味も無かった祖母の唯一の楽しみだったらしい。

 子どもの虫歯を気にして普段は甘いおやつを食べさせてくれない母も、この日だけは黙認していた。大量消費経済とコマーシャリズムの全盛期で、新しいスナック菓子が次々と発売されてはカラーテレビを賑わせていた頃だったから、私達も祖母の土産をそれは楽しみにしていて、祖母が帰ってくると我先にと玄関まで走って出迎えたものだ。

 そんな孫達も年頃になるとさすがに、スナック菓子一つで小躍りして大喜びしたりすることは無くなった。
 祖母は十数年前、ちょうど晃夫が仙台の大学に進学するために実家を出たあたりから「こええ(疲れた)」と言って時々市を休むようになったらしい。
 可愛げのない大きな孫でも傍にいなくなってみると、いよいよ張り合いが無くなってしまったのかもしれない。

 それでもその当時はまだ、市日の前の日になると「やっぱり行く」と言い出して急にあれこれ準備を始めたりしていた。むしろそちらの方が多かった。
 家の平和と母の精神衛生がかかっているので、市の日が近くなると祖母の機嫌を損ねないように、父にしてはよく気を使っているのがたまの帰省の時だけでもよく伝わってきた。

 ところで私と晃夫の就職活動の時期は(その当時は「就活」なんて略さなかった)ちょうど、バブル期と氷河期に明暗が別れた。
 就職活動で全敗した晃夫は、恩師の薦めで秋入学の院試を受けて合格したのだが、何を思ったがそちらには行かず、学生時代のアルバイト代を全額叩いて自分探しのバックパッカー旅に出てしまった。
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