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祖母の着物
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去年だかその前の夏、祖母が
「着物をけんが(あげよう)」
と突然言い出してしゃっきりと立ち上がり、箪笥から次々に出してきて見せてくれたことがある。
戦中・戦後の物の無い時代に生きた人はおそらくふた通りいて、その後の高度経済成長期の大量生産・大量消費の波に乗って物質的豊かさを存分に享受した人と、窮乏の経験からなかなか物を捨てられず時代に逆らうように古い物を直し直し使い続けた人ーー母はどちらかというと前者で、祖母はまるきり後者だった。
そんな祖母は仕事柄、普段は汚れても構わないような着古した服を、それでも穴が空けば繕いながら大事に着続けていた。
そんな祖母のとっておきのよそ行きだから、今買って来たかのように綺麗でしかも上等そうな着物だ。だが私には柄が落ち着きすぎているような気がするし、第一着そうにない。
着物なんて二十代の時、成人式と友人の結婚式に着て以来だ。仕事と家事と子育てに追われっぱなしで、わざわざ着付けの予約をしてまで着る機会もない。
豊と結婚する時、向こうの風習で義父母から留袖と喪服を贈られたが、これまで手持ちの洋装のフォーマルで済ませているし、滅多な事でもない限りおそらく袖を通さないだろう。
正直、祖母の申し出には少し困ったのだが
「もらうだけもらっておいて。お祖母ちゃんも安心するすけ」
と母が横から耳打ちしたのでありがたくもらうことにした。
義母は自分で着付けもできるしよそ行きは着物の人なので、後日見せてみたら「いい品だ」と言うので「着られたら着てください」と言って預けた。
進物用のタオルや食器も大量にくれたので、そちらはありがたく使っている。
「着物をけんが(あげよう)」
と突然言い出してしゃっきりと立ち上がり、箪笥から次々に出してきて見せてくれたことがある。
戦中・戦後の物の無い時代に生きた人はおそらくふた通りいて、その後の高度経済成長期の大量生産・大量消費の波に乗って物質的豊かさを存分に享受した人と、窮乏の経験からなかなか物を捨てられず時代に逆らうように古い物を直し直し使い続けた人ーー母はどちらかというと前者で、祖母はまるきり後者だった。
そんな祖母は仕事柄、普段は汚れても構わないような着古した服を、それでも穴が空けば繕いながら大事に着続けていた。
そんな祖母のとっておきのよそ行きだから、今買って来たかのように綺麗でしかも上等そうな着物だ。だが私には柄が落ち着きすぎているような気がするし、第一着そうにない。
着物なんて二十代の時、成人式と友人の結婚式に着て以来だ。仕事と家事と子育てに追われっぱなしで、わざわざ着付けの予約をしてまで着る機会もない。
豊と結婚する時、向こうの風習で義父母から留袖と喪服を贈られたが、これまで手持ちの洋装のフォーマルで済ませているし、滅多な事でもない限りおそらく袖を通さないだろう。
正直、祖母の申し出には少し困ったのだが
「もらうだけもらっておいて。お祖母ちゃんも安心するすけ」
と母が横から耳打ちしたのでありがたくもらうことにした。
義母は自分で着付けもできるしよそ行きは着物の人なので、後日見せてみたら「いい品だ」と言うので「着られたら着てください」と言って預けた。
進物用のタオルや食器も大量にくれたので、そちらはありがたく使っている。
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