ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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通夜二日目 2〜さらに畑中君にやらかしてしまう〜

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 田舎の人は朝が早いとよく言われるけど、我が実家ながら朝八時前にさも普通に人の家を訪ねて来たり店が開いていたりするのはやっぱり尋常じゃないと思う。
 そして同じくオールナイ◯ニッポンやらバブルのディスコ世代のはずなのにそれにすっかり適応してしまっている畑中君もやはり只者じゃない。

「忙しいところお邪魔してます。すぐ済みますので」
 
 畑中君はまた頭を下げると作業に戻った。

 例年より暖かく雪が少ないとは聞いているが、やっぱりこっちの寒さは関東に比べて格別だーー私たちは顔の周りをマンガのような真っ白な吹き出しで一杯にしながら言葉を交わした。

「何してるの?」

 畑中君は玄関の脇で大きな身体を屈め、季節はずれの七夕飾りのようなものをこしらえていたーーいや、そんなわけない。笹にぶら下がっているのは「南無阿弥陀」と仏絵の描かれた五色の旗に五円玉、それに下駄だ。
 やっぱり仏事に関係あるものだろう。畑中君は草鞋を笹の枝に結わえながら答えた。

「これは仏様があの世に履いていく履き物と持って行くお金です」

「そんなのがあるんだねぇ……」

「本当は昨日準備するはずだったのに、取り紛れてうっかりしてて。半人前で本当にすみません」

「いやいや。気にしなくていいよ。家の人、誰も気づいてなかったし。一人二役やってるだけでも凄いよ。脱帽ものだよ」

 畑中君は苦笑し、私の抱えた洗濯かごをちらりと見ると「お母さんは大変ですね」とまた笑った。氷のような頬が赤くなるーー

 寝起きの上に着膨れてはいるが一応、弔問客に鉢合わせても気まずくない程度の支度はしているつもりだ。だが、起き抜けで生活感溢れる姿を同年代の男子に見られるのはやっぱりきまりが悪い。

ーーさっきの怒鳴り声、聞こえてないといいけど……

 いや、絶対聞こえてないはずないな。寒冷地の家なのに壁薄いし、玄関傍がすぐ台所の掃き出し窓だし。

 傍から見ればお互いいいおじさんおばさんだし、ここまで他人が出入りしっぱなしの家で今更なんだけどーーああ、お腹を空かせた子どもに起こされるまでごろごろして、面倒臭いからと顔も洗わずに目玉焼きを焼いていた先週の日曜日が懐かしい。

「畑中君の奥さんだってそうでしょう」

 いや、畑中君の奥さんなら朝から寝起きの髪を振り乱しながら子どもを怒鳴りとばしたりはしないだろうなーー内心ちょっと卑屈になる。畑中君はまた笑って手を振った。

「いや、いないっすよ。俺、まだ独りで」

 急に口調が十代の先輩後輩っぽく戻ったのでちょっと驚いた。
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