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通夜二日目 1〜寝起きからプライバシーが無い件〜
しおりを挟む念仏も二日目の朝になった。
家の中にはいつも弔問客か親戚の誰かがいて、夜は念仏で気が抜けない……と、プライバシーの全くない実家の状態に早くも神経がくたびれてしまった。
普段暮らしている家だって暴れたい盛りの子ども二人がいて一人でゆっくりできる時間も空間もあったものではないが、それとは全く違う。
寝室も母とみっこ伯母と私の三人で気を遣い合って、トイレも洗面所も人の使ってない合間をうかがって……という状態はやっぱり尋常ではない。
家の様子が気になって電話すれば、家事も悠也の世話もこれ幸いと義母に任せきりで、当事者感の全くない豊にいらいらさせられる。
悠也がさして大きく崩れもせずに元気そうに過ごしているのだけが救いだーー彼なりに使命感を感じて気が張っているだけなのかもしれないが。
戻ったらどこか思い切り身体を動かせる場所に連れて行って、しばらくリラックスさせてフォローしよう。もし後日、ストレスの皺寄せで問題が起きたらその時に考えよう。
そんなこんなで全方向に気疲れしていたせいか、つい寝坊してしまった。
「朝ご飯はご飯だけ炊いてオードブルの残りとお味噌汁でいいね」
昨夜、そついうことになっていたので気が抜けて……という訳でもやはりないのだが、起きた頃にはもうそれらがすっかりできあがっていた。
「いくら実家だがらって、こっただこっただ時くらい早く起きて来るもんだ。みっこ叔母さんだってわざわざ 来てけでんだし 、朝から人も来るし」
などと台所に顔を出すなり母から小言を言われ、カチンと来てしまった。
「私だって来たくて来てるわけじゃない」
叔母が席を外しているのを確認してから怒鳴り返した。
伯母の手前があるというのもわかるし、普段の帰省のつもりで連日ぐうたら寝坊しているんなら何か言われても仕方がないが、疲れが出てつい一日、起きるのがうっかり数十分ほど遅くなってしまっただけではないか。
私は母の返事を聞かずに風呂場の脱衣所に駆け込むと昨日洗濯機に放り込みっぱなしだった颯也と私の洗濯物をかごに放り込み、それを抱えて走るように外に出た。
玄関を開けると早速、まん丸い熊のような物体にぶつかりそうになって声をあげた。中腰の姿勢をとっているダウンコート姿の畑中君と鉢合わせたのだった。
「ああ、すみません。おはようございます」
「こ、こちらこそごめんなさい。ずいぶん朝早いんだね……」
立ち上がって頭を下げた畑中君のコートの中が、スーツではなく作務衣だったので思わず二度見した。
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