66 / 151
通夜二日目 1〜寝起きからプライバシーが無い件〜
しおりを挟む念仏も二日目の朝になった。
家の中にはいつも弔問客か親戚の誰かがいて、夜は念仏で気が抜けない……と、プライバシーの全くない実家の状態に早くも神経がくたびれてしまった。
普段暮らしている家だって暴れたい盛りの子ども二人がいて一人でゆっくりできる時間も空間もあったものではないが、それとは全く違う。
寝室も母とみっこ伯母と私の三人で気を遣い合って、トイレも洗面所も人の使ってない合間をうかがって……という状態はやっぱり尋常ではない。
家の様子が気になって電話すれば、家事も悠也の世話もこれ幸いと義母に任せきりで、当事者感の全くない豊にいらいらさせられる。
悠也がさして大きく崩れもせずに元気そうに過ごしているのだけが救いだーー彼なりに使命感を感じて気が張っているだけなのかもしれないが。
戻ったらどこか思い切り身体を動かせる場所に連れて行って、しばらくリラックスさせてフォローしよう。もし後日、ストレスの皺寄せで問題が起きたらその時に考えよう。
そんなこんなで全方向に気疲れしていたせいか、つい寝坊してしまった。
「朝ご飯はご飯だけ炊いてオードブルの残りとお味噌汁でいいね」
昨夜、そついうことになっていたので気が抜けて……という訳でもやはりないのだが、起きた頃にはもうそれらがすっかりできあがっていた。
「いくら実家だがらって、こっただこっただ時くらい早く起きて来るもんだ。みっこ叔母さんだってわざわざ 来てけでんだし 、朝から人も来るし」
などと台所に顔を出すなり母から小言を言われ、カチンと来てしまった。
「私だって来たくて来てるわけじゃない」
叔母が席を外しているのを確認してから怒鳴り返した。
伯母の手前があるというのもわかるし、普段の帰省のつもりで連日ぐうたら寝坊しているんなら何か言われても仕方がないが、疲れが出てつい一日、起きるのがうっかり数十分ほど遅くなってしまっただけではないか。
私は母の返事を聞かずに風呂場の脱衣所に駆け込むと昨日洗濯機に放り込みっぱなしだった颯也と私の洗濯物をかごに放り込み、それを抱えて走るように外に出た。
玄関を開けると早速、まん丸い熊のような物体にぶつかりそうになって声をあげた。中腰の姿勢をとっているダウンコート姿の畑中君と鉢合わせたのだった。
「ああ、すみません。おはようございます」
「こ、こちらこそごめんなさい。ずいぶん朝早いんだね……」
立ち上がって頭を下げた畑中君のコートの中が、スーツではなく作務衣だったので思わず二度見した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる