37 / 151
祖母からの電話 2〜祖母の異変?〜
しおりを挟む
「 ほうが、元気でばいい。病むねぇ」
祖母の言葉は母よりさらに南部訛りががきつい。補聴器をつけているのかどうかはわからないがこちらの言葉は聞き取りづらいようだ。
「静子、正月さ来るが?」
私は首を傾げた。独身の頃はお盆と年末年始、大学時代にはゴールデンウィークや春休みにも帰省していたが、年末年始の時期にはここ十年以上帰っていない。
家庭を持って車での帰省になってからは一切合切をまとめて(?)お盆の時期だけに少し長めの帰省をすることにしている。
夏は行き帰りの日にちををずらしていくらか混雑を避ける事ができるが、日程の決まっている年末年始は渋滞を避けられない上に雪や寒さのためにどうしても足が遠のく。
活火山だが心配性の父が、あれこれ要らぬ気を揉むという事も少しはある。
「ごめんね、お祖母ちゃん。お正月は帰れないんだよう」
私はなるべくゆっくりと、はっきりした口調で答えた。
「帰んないのが」
どうせ「ダメもと」で電話してきたのだろうと思いきや、予想以上に落ち込む祖母に心が痛んだ。
田舎のお盆と年末年始は二大イベントだが、墓参りや親戚回りといったオフィシャルな行事が絡むお盆と違い、正月は家族だけで過ごす。
カウントダウン何ちゃらだとか、いかにもな賑々しさはなく昔ながらの個人商店は大晦日と三が日きっちり休むような田舎の正月だが、住んでいる人の心理的には都市部の数倍イベント感が違うような気がするーー何より昭和の頃は、近隣の多くの家では農閑期の出稼ぎに出ていた父ちゃんが帰ってくる特別な日だった。
祖母の中ではいまだに年末年始に孫がいないことの方がイレギュラーなのかもしれない。
「したら、夏さ来るが」
「うん、夏に行くよ」
「んだら、婿さんさよろしぐ。 わらすどうへで夏さ来う。病むねえ」
「うん。夏に行くからお祖母ちゃんも体大事にして」
「夏さ来るが。わらすへで来るが」
「うん。颯也も悠也も連れて、夏に行くよ。体に気をつけて長生きしてね」
「うんうん、んでばな。病むねえ」
「じゃあね。元気でね」
病むねえ、と祖母が哀しげな口調で最後に繰り返したのがずっと耳に残っていた。何となく気になって次の日、母に電話をした。
「ふうん、おばあちゃんがねえ。短縮ダイヤルでも押したんだべが」
母はいつも以上に気の抜けた、のんびりとした調子で答えた。
実家の電話機は短縮ボタンの一番目と二番目にそれぞれ私の家と弟の携帯の番号を登録してある。
祖母の言葉は母よりさらに南部訛りががきつい。補聴器をつけているのかどうかはわからないがこちらの言葉は聞き取りづらいようだ。
「静子、正月さ来るが?」
私は首を傾げた。独身の頃はお盆と年末年始、大学時代にはゴールデンウィークや春休みにも帰省していたが、年末年始の時期にはここ十年以上帰っていない。
家庭を持って車での帰省になってからは一切合切をまとめて(?)お盆の時期だけに少し長めの帰省をすることにしている。
夏は行き帰りの日にちををずらしていくらか混雑を避ける事ができるが、日程の決まっている年末年始は渋滞を避けられない上に雪や寒さのためにどうしても足が遠のく。
活火山だが心配性の父が、あれこれ要らぬ気を揉むという事も少しはある。
「ごめんね、お祖母ちゃん。お正月は帰れないんだよう」
私はなるべくゆっくりと、はっきりした口調で答えた。
「帰んないのが」
どうせ「ダメもと」で電話してきたのだろうと思いきや、予想以上に落ち込む祖母に心が痛んだ。
田舎のお盆と年末年始は二大イベントだが、墓参りや親戚回りといったオフィシャルな行事が絡むお盆と違い、正月は家族だけで過ごす。
カウントダウン何ちゃらだとか、いかにもな賑々しさはなく昔ながらの個人商店は大晦日と三が日きっちり休むような田舎の正月だが、住んでいる人の心理的には都市部の数倍イベント感が違うような気がするーー何より昭和の頃は、近隣の多くの家では農閑期の出稼ぎに出ていた父ちゃんが帰ってくる特別な日だった。
祖母の中ではいまだに年末年始に孫がいないことの方がイレギュラーなのかもしれない。
「したら、夏さ来るが」
「うん、夏に行くよ」
「んだら、婿さんさよろしぐ。 わらすどうへで夏さ来う。病むねえ」
「うん。夏に行くからお祖母ちゃんも体大事にして」
「夏さ来るが。わらすへで来るが」
「うん。颯也も悠也も連れて、夏に行くよ。体に気をつけて長生きしてね」
「うんうん、んでばな。病むねえ」
「じゃあね。元気でね」
病むねえ、と祖母が哀しげな口調で最後に繰り返したのがずっと耳に残っていた。何となく気になって次の日、母に電話をした。
「ふうん、おばあちゃんがねえ。短縮ダイヤルでも押したんだべが」
母はいつも以上に気の抜けた、のんびりとした調子で答えた。
実家の電話機は短縮ボタンの一番目と二番目にそれぞれ私の家と弟の携帯の番号を登録してある。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
可愛いあの子は男前
秋月真鳥
恋愛
美人だが実生活がダメダメな女優の海瑠(みちる)と、6歳の吸血鬼の男前の奏歌(かなた)の年の差ラブストーリー!
海瑠は男運が悪く、付き合ってない男に押し倒されたり、ストーカー化する男に追われたり、結婚を約束した相手が妻子持ちで借金を背負わせて消えたりし心労で倒れる。
そこに現れた奏歌が海瑠を運命のひとと言って、海瑠を癒して行く。
男運の悪さに疲れ切った年上女性が、年下の可愛い男前男子に育てられ、癒される物語!
※九章まで書き上げています。
※小説家になろうサイト様でも投稿しています。
表紙は、ひかげそうし様に描いていただきました。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
本編完結しました!
『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル
『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました!
おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
魔術師の妻は夫に会えない
山河 枝
ファンタジー
稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。
式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。
大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。
★シリアス:コミカル=2:8
秋風の色
梅川 ノン
BL
兄彰久は、長年の思いを成就させて蒼と結ばれた。
しかし、蒼に思いを抱いていたのは尚久も同じであった。叶わなかった蒼への想い。その空虚な心を抱いたまま尚久は帰国する。
渡米から九年、蒼の結婚から四年半が過ぎていた。外科医として、兄に負けない技術を身に着けての帰国だった。
帰国した尚久は、二人目の患者として尚希と出会う。尚希は十五歳のベータの少年。
どこか寂しげで、おとなしい尚希のことが気にかかり、尚久はプライベートでも会うようになる。
初めは恋ではなかったが……
エリートアルファと、平凡なベータの恋。攻めが十二歳年上のオメガバースです。
「春風の香」の攻め彰久の弟尚久の恋の物語になります。「春風の香」の外伝になります。単独でも読めますが、「春風の香」を読んでいただくと、より楽しんでもらえるのではと思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる