ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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実家の葬儀の風習に驚く 1

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ほにねぇそうだねぇそうだかもしんねぇそうかもしれない

 母は話しているうちにだんだん気を取り直した様子で、声に力が戻ってきた。

「静子。今日帰ってこれねえが」

「今日?すぐには無理だよ。パートもあるし、豊さんも出張中ですぐ帰ってこれる距離じゃないし」

「すぐ電話して、急いで来てもらって」

「連絡はしてみるけど……だってお葬式は来週だってさっき」

「葬式ぁ来週だども、火葬は明日の朝あすんなさだでば」

 いらいらと答える母に頭を横殴りにされたような気がしたーーもっとも典型的な昭和の雷親父然とした父とは違い、おっとり型の優しい母にはこれまで一度も手を上げられたことはないが。

 セレモニーホールで営まれる通夜と葬式のどちらか都合のつく方に参列し「新生活」と称される「お返し無し」バージョンの簡易的な香典を包み、葬儀と同日に初七日法要を終えて親しい者のみで火葬、四十九日法要後に納骨……という、どこか「関東一本締め」を思わせる合理的な現代人スタイルが普通だと思い込んでいたためすっかり忘れていた。

 実家の辺りでは通夜の前に火葬を済ませ、葬儀の当日に納骨する。

「昔からそうだったから」という以上の理由は誰もわからないようだが、リアス式海岸特有の海からすぐ切り立った山地という地形と積雪地である事は関係がありそうだ。
 交通の便も悪い上、漁のため海に出ていたり冬に雪が積もったりすると親戚が集まるまで日数かかかったためだという説があるようだ。津波や土砂崩れ、飢饉などで一度に大勢の人が亡くなってきた悲しい歴史も、もしかすると無関係ではないのかもしれない。

 これはこれである意味合理的だ。

「どうしても明日焼かなきゃだめ?」

「だめさ決まってるべ。明後日から通夜だもの」

「明後日が通夜?だって葬式は来週の月曜日でしょう」

 今日は水曜日だ。

「馬鹿でねえの。通夜ってのぁ三晩やるもんだべ」

「馬鹿」もこれまで母から言われたことはない。母は怒りも苛立ちも通り越して呆れたような口調だ。
 これでも実家では優等生の長女として扱われてきたので、非常時の心情を差し引いてもちょっとショックだ。

 祖父も曾祖父も母が嫁いで私が生まれる前に亡くなっていて、実家の葬儀で唯一記憶に残っているのは小学生の頃まで同居していた曾祖母の葬儀だ。
 うっすらとしか覚えていないし、まして通夜が三日もあったかどうかなんてすっかり忘れてしまっている。

 初盆ういぼんから三年間、お墓に蝋燭台を置いて蝋燭を四十八本灯したのは覚えている。
 日没後、玄関先にも郵便マークの形に似た三段の木製の台座を置き、蝋を垂らして火のついた蝋燭を立てる。
 大っぴらに火遊びができるのと、親戚も拝みに来るのでいとこ達と花火遊びをしたのが楽しく、そちらはよく覚えている。

 やはり通夜も三晩やるのだろう。

「通夜も葬式も家でやるから人手ぁ足りねえんだ……早くこっちさ来て手伝ってけでくれ

 私と母は電話の両側で悲鳴をあげた。
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