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北関東で祖母の訃報を聞く 1
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「静子、いねえが?すぐ電話けで(静子、いないの?すぐ電話ちょうだい)」
二日前の真夜中、留守電に母の懐かしい南部訛りのメッセージが一言だけ残されていた。岩手の旧南部藩一帯で使われている方言はどこかおっとりと雅語のような響きがあるが、沿岸の言葉は漁師言葉でもあるため内陸のそれより濁っていて語感がきつい。
留守電に残された母の声は今まで聞いたことのないほど疲れ果てていて、具合でも悪いのだろうかと気になった。
自宅のマンションは首都圏のベッドタウンにある。
二〇〇〇年代の始め、二つ折りの携帯電話がまだ若者中心のツールだった頃で家庭の電話は固定電話が圧倒的主流だった。
夫の豊は出張中で、小学生の息子達が二人で留守番をしていた。「留守番中の電話には出なくていい」ということにしてある上、夜は着信音のボリュームを抑えるようタイマーで設定してある。
おまけにレンタルビデオのアニメを観せながら留守番させていたので、お祖母ちゃんからの電話には気づかなかったのだろう。
その日はパート先の遅めの新年会があった。
数日前に豊に確認をとると、その日は泊まりがけの出張だとあっさり言われた。
どちらの予定も急に決まったものではなく、私が昨年のうちに下話をした時、面倒臭がって聞き流していて自分のスケジュールをろくに確認していなかっただけだったのだ。
うっかり忘れていただけならまだしも、妻が全面的に子どもの面倒をみるのも、常に自分の都合に合わせてくれるのも当然だという態度は釈然としない。
謝ってくれとは言わない。
だが、抗議をしてもうるさがるばかりでこちらの言い分を理解する努力すらしないというのはどうなのだ。
結婚して13年。夫が家事や子育てに積極的に協力するタイプではないというのはわかっているが、時々こういうところが泣きたくなるほどいらいらする。
パート先は独身時代の前職とも大学の専門とも全く違う職種だが、人間関係はおおよそ円満だ。同年代で同じ年頃の子どもを育てる主婦も何人かいる。
故郷を遠く離れ、県内外に散らばった同級生との同窓会も滅多にないし、開かれたとしても参加できるとは限らない。
40代を目前にして長男のサッカーと二男の療育、夫の衣食住ーーと家族中心の生活をしている。「親友」とは言わないまでも、日常のちょっとした事を何でも語り合える気のおけない相手をこの歳で探すのはなかなか至難の技だ。
出席の返事をしておいて直前にキャンセルするのが申し訳ないーーという以上に、私自身が彼女達とゆっくり話せる機会を楽しみにしていた。
二日前の真夜中、留守電に母の懐かしい南部訛りのメッセージが一言だけ残されていた。岩手の旧南部藩一帯で使われている方言はどこかおっとりと雅語のような響きがあるが、沿岸の言葉は漁師言葉でもあるため内陸のそれより濁っていて語感がきつい。
留守電に残された母の声は今まで聞いたことのないほど疲れ果てていて、具合でも悪いのだろうかと気になった。
自宅のマンションは首都圏のベッドタウンにある。
二〇〇〇年代の始め、二つ折りの携帯電話がまだ若者中心のツールだった頃で家庭の電話は固定電話が圧倒的主流だった。
夫の豊は出張中で、小学生の息子達が二人で留守番をしていた。「留守番中の電話には出なくていい」ということにしてある上、夜は着信音のボリュームを抑えるようタイマーで設定してある。
おまけにレンタルビデオのアニメを観せながら留守番させていたので、お祖母ちゃんからの電話には気づかなかったのだろう。
その日はパート先の遅めの新年会があった。
数日前に豊に確認をとると、その日は泊まりがけの出張だとあっさり言われた。
どちらの予定も急に決まったものではなく、私が昨年のうちに下話をした時、面倒臭がって聞き流していて自分のスケジュールをろくに確認していなかっただけだったのだ。
うっかり忘れていただけならまだしも、妻が全面的に子どもの面倒をみるのも、常に自分の都合に合わせてくれるのも当然だという態度は釈然としない。
謝ってくれとは言わない。
だが、抗議をしてもうるさがるばかりでこちらの言い分を理解する努力すらしないというのはどうなのだ。
結婚して13年。夫が家事や子育てに積極的に協力するタイプではないというのはわかっているが、時々こういうところが泣きたくなるほどいらいらする。
パート先は独身時代の前職とも大学の専門とも全く違う職種だが、人間関係はおおよそ円満だ。同年代で同じ年頃の子どもを育てる主婦も何人かいる。
故郷を遠く離れ、県内外に散らばった同級生との同窓会も滅多にないし、開かれたとしても参加できるとは限らない。
40代を目前にして長男のサッカーと二男の療育、夫の衣食住ーーと家族中心の生活をしている。「親友」とは言わないまでも、日常のちょっとした事を何でも語り合える気のおけない相手をこの歳で探すのはなかなか至難の技だ。
出席の返事をしておいて直前にキャンセルするのが申し訳ないーーという以上に、私自身が彼女達とゆっくり話せる機会を楽しみにしていた。
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