ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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北三陸の故郷と、大正生まれの祖母のこと

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 私の故郷は今でこそ某国民的朝ドラのロケ地にもなった通向け(?)の観光地だが、かつては北上山地とリアス式海岸の急峻な地形に都市部との交通を隔てられ、「みちのくのいや果ての果て」と先人がわざわざ母校の校歌にうたったほどの辺鄙な町だった。

 大正時代、北三陸の半農半漁の町に生を受けて米寿で生涯を終えた私の祖母は故郷の町を出る事なく一生を終えた。
 生家も戦時中に嫁いだ先もこの町の農家で、祖父に先立たれた後は遺された田畑を耕し、市で農産物を売りながら私の父を女手一つで育て、孫と暮らした
人生の全てが半径3キロほどの範囲にあった。そんな祖母の葬儀は自宅で三晩通夜をし墓地まで葬式行列をする北三陸の伝統的な葬儀だった。
 大震災前の当時ですら昔の流儀通りにわざわさ自宅で葬式をする家は既に少数派だった。

 私が昭和の女子高生だった頃、町は「工業団地誘致」の悲願を高度経済成長以来お題目のように唱えていたが一転、観光による地域おこしを目指し道の駅などを整備、コンビニや郊外型の全国チェーン店が出現し始めていた。
 町を出て外側から眺めていたゆるゆるとした発展の流れは大震災を機にまたも一転、復興事業を機に急激に加速した。

 昭和の頃から塩漬けになっていて、祖母がしきりに土地の権利書を気にしていたバイパス道路は今や立派な復興道路として自宅裏に出現した。海岸線からすぐ山並みのあるリアス式海岸特有の地形を縦横に縫い、三陸鉄道の遥か頭上を高架で渡る道路網の一部となっている。
 水平線の見えた海岸線には要塞のような墓標のような防潮堤の壁がそびえ立ち、過疎の村落のひなびた光景は何やら急に現代アートか近未来ファンタジー的なものに一転した。

 安全と便利を引き換えに失われた故郷の景色を、近頃特に懐かしく思い出すのは遠く離れて暮らす者のエゴなのだろう。

 人の幸福は皆似通っているが、不幸は百人百様であるーーと先人の言葉にある
が、冠婚葬祭もそれに当てはまるのではないか。

 もう17回忌も数年前に終わってしまったのだが、当時の88歳という享年は天寿と言っていいと思う。
 祖母同様、生まれ育った町で一生を終えそうな両親と実家の弟、家を出てしまった私と私の息子の五人プラスαで凸凹コントさながらに見送った葬儀の顛末だけは記録しておきたい。

 
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