133 / 144
10
自称アーティストvsなんちゃってアーティスト?
しおりを挟む
「はい?ですが、会場では他の準備もありますし、会場責任者として一度は途中経過の確認を……」
「それらは一切ご遠慮ください。ご依頼主のチャン様からも先生に一任する旨を承っております。何しろ会場全体にカウントダウンと新年、サプライズウエディング用の三種類の飾り付けというご依頼ですので」
「ですが……」
こんな話は寝耳に水だ。プロデューサー氏は頭の中で急いで同時進行の計算式を組み立てた。
パーティスタッフの打ち合わせや余興のリハーサル、時間前に到着した客の待機場所には別会場を用意、飲み物やパーティ料理はセッティングまでして開会直前に運び込む……
「承知しました。その代わり時間厳守でお願いしますよ」
「もちろんです。そのための人海戦術ですから」
助手は自身たっぷりに頷き、ヌマノボー氏は貫禄たっぷりに微笑んだ。
「お任せください。お客様の一生の思い出になるよう、会場中を素敵なフラワーアートで埋め尽くさせていただきますわ!」
そこにヌマノボー氏側のスタッフが、見方によっては古き良き珍宝館のモニュメントに見えなくもないチャレンジングな創作物を台車に乗せて運んで来た。何でもクリスマスツリーと日本の門松の両方をイメージしたアレンジの土台だという。
もっとも美しい目鼻のパーツを集めて画像合成しても、絶世の美女の顔にはなるわけではないという話をどこかで聞いた事がある。
ひょっとしたらユーラのご自慢のパーティホールは、彼の期待しているような3イベントいいとこ取りの近未来的フラワーデザインに彩られるのではなく、クリスマスとお正月セール同時進行中の日本の大衆スーパーの店頭で和洋折衷の披露宴を行なっているようなカオス個展会場と化すのかもしれない……
そして後日、新たなSNSの炎上材料か訴訟騒動として全世界に消費されるのだろうか……幸い、ユーラ直轄案件なのでプロデューサーの責任の範囲外となる。触らぬ神に何とやら、だ。
「準備中」「Don't Disturb」の両方の札を掛けていたはずのホールの入り口から、看板も空気も全く空気を読まずに顔を出した者がいる。貫頭衣と袈裟を組み合わせ鮮やかな刺繍を施した民族衣装を身につけ、角製の長細い楽器を手にしたアフリカ系らしき男性だ。
《会場でライブのリハーサルを行いたいのです。ホールは今、使えますか?》
《ンドゥール様。ただいま準備中でして。リハーサル室を別にご用意いたします》
《練習したいわけではなく、会場の音響が確認したいんだ。別な部屋じゃ意味がないよ。パーティというのは花よりも音楽の方が大事でしょう》
これにはヌマノボー氏が聞き捨てならないといった表情で、何か言いかけた。プロデューサーは慌ててンドゥールをホールの外に押し出し、説得を試みた。
《ホールは開場直前にご案内します。別室でもチューニングとコンディション確認くらいはできますよ》
《こっちだってサプライズ演奏なのに。他の客にネタバレしてしまっては台無しだ!》
ーーまったく、自称芸術家同士って連中は!
《開会直前まで、他のお客様は入れません。ところで、マネージャーのモリー様はどちらに?》
《先ほど会社から急な連絡があって。すぐに戻りますよ》
プロデューサーは部外者だらけのホールに施錠すると、渋るンドゥールをどうにかこうにか乗客用のスタジオに案内した。
「それらは一切ご遠慮ください。ご依頼主のチャン様からも先生に一任する旨を承っております。何しろ会場全体にカウントダウンと新年、サプライズウエディング用の三種類の飾り付けというご依頼ですので」
「ですが……」
こんな話は寝耳に水だ。プロデューサー氏は頭の中で急いで同時進行の計算式を組み立てた。
パーティスタッフの打ち合わせや余興のリハーサル、時間前に到着した客の待機場所には別会場を用意、飲み物やパーティ料理はセッティングまでして開会直前に運び込む……
「承知しました。その代わり時間厳守でお願いしますよ」
「もちろんです。そのための人海戦術ですから」
助手は自身たっぷりに頷き、ヌマノボー氏は貫禄たっぷりに微笑んだ。
「お任せください。お客様の一生の思い出になるよう、会場中を素敵なフラワーアートで埋め尽くさせていただきますわ!」
そこにヌマノボー氏側のスタッフが、見方によっては古き良き珍宝館のモニュメントに見えなくもないチャレンジングな創作物を台車に乗せて運んで来た。何でもクリスマスツリーと日本の門松の両方をイメージしたアレンジの土台だという。
もっとも美しい目鼻のパーツを集めて画像合成しても、絶世の美女の顔にはなるわけではないという話をどこかで聞いた事がある。
ひょっとしたらユーラのご自慢のパーティホールは、彼の期待しているような3イベントいいとこ取りの近未来的フラワーデザインに彩られるのではなく、クリスマスとお正月セール同時進行中の日本の大衆スーパーの店頭で和洋折衷の披露宴を行なっているようなカオス個展会場と化すのかもしれない……
そして後日、新たなSNSの炎上材料か訴訟騒動として全世界に消費されるのだろうか……幸い、ユーラ直轄案件なのでプロデューサーの責任の範囲外となる。触らぬ神に何とやら、だ。
「準備中」「Don't Disturb」の両方の札を掛けていたはずのホールの入り口から、看板も空気も全く空気を読まずに顔を出した者がいる。貫頭衣と袈裟を組み合わせ鮮やかな刺繍を施した民族衣装を身につけ、角製の長細い楽器を手にしたアフリカ系らしき男性だ。
《会場でライブのリハーサルを行いたいのです。ホールは今、使えますか?》
《ンドゥール様。ただいま準備中でして。リハーサル室を別にご用意いたします》
《練習したいわけではなく、会場の音響が確認したいんだ。別な部屋じゃ意味がないよ。パーティというのは花よりも音楽の方が大事でしょう》
これにはヌマノボー氏が聞き捨てならないといった表情で、何か言いかけた。プロデューサーは慌ててンドゥールをホールの外に押し出し、説得を試みた。
《ホールは開場直前にご案内します。別室でもチューニングとコンディション確認くらいはできますよ》
《こっちだってサプライズ演奏なのに。他の客にネタバレしてしまっては台無しだ!》
ーーまったく、自称芸術家同士って連中は!
《開会直前まで、他のお客様は入れません。ところで、マネージャーのモリー様はどちらに?》
《先ほど会社から急な連絡があって。すぐに戻りますよ》
プロデューサーは部外者だらけのホールに施錠すると、渋るンドゥールをどうにかこうにか乗客用のスタジオに案内した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
夏の扉を開けるとき
萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」
アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。
僕の心はきみには見えない――。
やっと通じ合えたと思ったのに――。
思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。
不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。
夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。
アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。
*****
コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。
注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。
(番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる