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「ここで会ったが百年目」な事例研究

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《ボスはまだ地方に?》

《うん。せっかくだから大学や研究施設をいくつか回る。共同研究の話も進めたいし、いい機会だからフィールドワークの現場も見せてもらう》

 玄英は日本同様、高齢化と地方の過疎化が進む韓国で、放棄されたテーマパーク内に陸地型ビオトープを造る研究を新たに始めようとしていた。

《ボスの仕事に対する姿勢は尊敬するけど、自分で仕事を増やしてこれ以上忙しくなってどうするの?恒星ともずっと会えてないんでしょ?》

《恒星は仕事に打ち込む自分が魅力的だと言ってくれている。それにこの山さえ越えてしまえば、じきにクリスマス休暇だ》

 玄英は半分、自分に言い聞かせるようにそう答えた。

《それもそうねーーね、いっそ彼をうちの社に引き抜いたらいいのに。あたしの後が空くし》

《公私混同はしない主義》

 玄英はちょっと不機嫌に眉根を寄せた。

《だって例の新人もとうとう、社長の出張中に辞めてしまったそうじゃない。古賀さんが嘆いてた》

《……》

《人手が足りないのは確かでしょ。このままじゃあたしだって古巣が気がかりで、離れるに離れられない》

《その事なら責任持って、別にちゃんと考えるよ》

《そう。じゃ、私もう行くね。恒星に伝言なんてある?》

《ありがとう。でも必要ないよ。毎晩リモートで話してる》

 アンジェラが笑いながらゲートの向こうに消えた瞬間、同じ便に乗り込んですぐにでも恒星のところに飛んで帰りたい衝動をどうにか抑えた。

ーークリスマス休暇になったら、

 玄英は必死でそう考えた。

ーー愛する家族に自慢の恋人を紹介する。イベントの後は南の島で二人のコテージを借りて、予定も立てずにのんびり過ごすんだ。

 海で泳いだり森を散策したり、市場マーケットをひやかしてくだらない買い物をし、美味しい物を食べーーそして昼夜の別なくひたすら愛し合う。

 近い未来の幸せな予測に胸を躍らせながらスーツケースを引いて、地元駅との連絡通路に向かおうとしたその時。

《奇遇だな、玄英》

 と、よく聞き慣れた声に呼び止められるーー玄英にはその時、余計な面倒事が増えたくらいにしか感じられなかった。

 彼にしては比較的常識的なセンスの、ラフなジャケットは愛好するイタリアブランド製でご自慢の一点物なのだろう。サングラスを取らないまでも、玄英は彼の事がわかっている。

《ユーラ。何の用だ?》

《君をまた、パーティに招待したいと思って》

《お断りする。君とはあれっきりだと言ったはずだ。君は水に流したつもりかもしれないが、僕は僕の恋人を侮辱された事を全く許してないし、これからも許す気はない》

《恋人?》

 ユーラはせせら笑うように片眉をあげた。

《なんだ、その恋人から何にも聞いてないのかい?》

《何を?》

《僕の方こそ、水に流すつもりなんかさらさらなくてね。日本の法に基づいてコウセイ・アオバを傷害容疑で告訴した。損害賠償も請求すること予定だ》

《何だって!》

 相手のペースにハマらないよう、用心して出方をうかがっていた玄英だが、すっかり冷静さを失ってしまう。

《いつ、どこで恒星がそんな事をしたって言うんだ!言いがかりだ!》

《僕が『21世紀最大の訴訟王』と呼ばれているの、忘れてしまったかな?》

《気に入らないなら僕を訴えたらいいのに!どう考えてもおかしいだろ!》

《それが僕、あの日本人がどうにも嫌いでね。気に入らない奴はルールの範囲内で徹底的に叩きのめす、それが僕のやり方だ。知ってるだろ?》

《正気じゃない!何がルールだ。そんなメチャクチャ、通るわけ……》

《さあどうかな。最近パッとしない日本のメディアを呼んでやって、被害者として会見を開いたっていいんだ。バズりようによっては真実も世論もネットが作り上げてくれて、何なら断罪までしてくれる》

《卑劣だぞ!恥を知れ》

 玄英はきびすを返し、スーツケースを引いてチケットカウンターに向かって駆け出そうとした。

ーーそんな馬鹿げた騒ぎに恒星を巻き込んでたまるか!
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