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玄英の異変

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「最近、どうですか?愛人殿とは連絡取れてますか?」

 この呼び方シリーズ、まだ続くのか……

「玄英は仕事でずっと忙しいらしくて……一日数回、メッセージでやり取りしてるだけです。予期せぬトラブルで帰国予定も伸びたとか」

 予定通りに玄英の仕事が済んで、合併騒動による業務の混乱とか堀田の「社員の会」の活動が無かったら今日、空港に迎えに行ってどちらかの部屋に一緒に帰って来るはずだった。

「こちらに来た内容もだいたい同じ感じですね。仕事の指示は的確ですし、玄英じゃなきゃ進められない案件はフリーズしてあるし。社長代理の私がクソ忙しい以外は特に問題ないのですが」

 表情のあまり変わらない古賀さんだが、声色は明らかに不機嫌だった。
 画面の向こうの古賀さんの部屋は、ヤングエグゼクティヴにぴったりのシンプルでお洒落な部屋の壁が見える。玄英の部屋みたいなバカ広いリビングまであるかどうかは知らないが、俺の純庶民派ワンルームとはえらい違いだ。ま、人は人、俺は俺だ。

「何かすみません……」

「なぜそこで恒星が謝罪を?」

「あ、いえ。何となく」

「配偶者だろうが家族だろうが、社会に対する責任はそれぞれ個人のものですよーーそれより、おかしくありませんか?」

「何がですか?」

「だって、大事な取引先で、恋人の職場でもある会社の一大事ですよ?もう少し何かコメントがあったってよさそうなものなのに」

 おっ。恋人に昇格した(レベルが10 あがった)

「帰国予定が伸びてしまったし……留守を守る古賀さんにあんまり迷惑かけたくないと思っているんじゃないですか?信じて待ちましょうよ」

「『体調を崩したから、このままクリスマス休暇に入る』なんてメールがきてもですか?」

「えっ……?俺、何も聞いてませんけど?」

 暗く濁った水がひたひたと胸を埋めていくようなーー何だか不吉な予感がした。

「私もついさっき受け取ったんです」

 パソコンと、スマホもチェックしてみたが俺の方には何も無い。昨夜の定期連絡だけ。

ーー本当に体調が悪いなら心配だが……俺にはどうして何も言ってきてくれないんだ?

ーー俺の事情を知って、心配かけまいと?

ーーそれにしたって、家族のバカンスに俺を同伴するってあれだけ張り切ってたのに。どうして?

 忘れてるわけないし、もしも離れてる間に気が変わったとか気持ちが離れちゃったとかなら、ちゃんとそう言って来てくれると思うし……

 そう、自問自答してるうちに何だか泣きたくなってきた。
 
 パソコンの画面を挟んでしばし沈黙の時間が流れた。

「おかしいですよね……色々と」

「古賀さんもそう思いますか?」

 メッセージのやり取りだけになってから、内容が極端に素っ気なくなった。一応、こちらを気遣う素振りの定型文は添えてあるものの、答えて欲しい事には一切触れてくれないし。

 気に触るような事を書いただろうかとか、そこまで余裕が無いのだろかとも一応、考えてみたが。

 いくら仕事に人生を掛けているとは言え、あれだけの甘えたがり(+変態)が一人で海外にいて、しかもそれが意に反して長引いているのである。
 理性のぶっ飛んだ垢BANモノのエロトークや無理難題の無茶振りを一切して来ないのは絶対におかしい(根拠……)

 俺は俺で自分自身のことで頭が一杯だったとは言え……もっと早くに気づくべきだった。

 俺の大馬鹿野郎!
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