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D‘sTheory社員研修in青葉造園

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 梅雨の晴れ間の某日、いよいよD社の研修の日がやって来た。

 実は近所の学校から頼まれたビオトープ作りの体験学習の予定が以前から入っていたのだが、どうしても大人の手が要る。最今のPTA廃止と親の多忙化でボランティアの人数が集まらないと言うので、思い切ってそこにぶち込んでいいかと恒星が聞いてきた。

「モニター用の資材も提供するよ」

「ホント?助かる!いいの?」

「願ってもないよ。子どもは未来の顧客でもあるのでね」

 ビオトープというのは庭や公共の場など人間の身近な場所に、自然の生態系を再現した空間の事である。
 近年、環境教育や在来種の保全目的、あるいは低コストで維持管理できる癒しの空間として教育施設や公共施設、あるいは個人で静かなブームになっている。
 青葉家の鹿おどしの脇にある水瓶がいい見本だ。土と水草を入れてメダカを飼っている。メダカは湧いてくるボウフラを食べ、糞は水草の養分になり、水草は水を浄化する。最もシンプルな装置だ。

 陸の生態系を再現した森林型のビオトープというのも存在するのだが、広大な土地と造成の手間、時間がかかる。環境授業や観賞用で扱うのは手頃な規模の水辺型のビオトープが主流だ。
 ある程度の規模と環境が整えば、その周りに昆虫や鳥や小動物が集まり、生態系の輪が広がることもある。そこが単なる植栽や寄せ植えとは違う。

 少子化の例に漏れず生徒数が減り、手入れが行き届かず荒れていた中庭の池をビオトープに造り替える。あらかじめコンクリート製の池の水を抜いて底は掃除してある。新しく土と水を入れ、水生植物を植えることが今日の作業のメインだ。
 人の手を入れるのは造成直後や必要最低限のメンテナンスのみ。産み付けられたボウフラがメダカやトンボの餌となり、その排泄物はボウフラや貝類の餌となる。彼らの排泄物は土中のバクテリアや水草の養分に……というように、周囲の自然や微生物の力も借りながらその空間自体で循環が成立する状態が完成形だ。

ーーと、初めて見る作業着姿の恒星が数十人ほどの子ども達とD社の社員に説明した。

 オリンピックの開会式よろしくバラエティ豊かなにわかボランティア達に、親も子どもも興味津々だ。英語が得意で積極的に話しかけてくる子、人の陰で社交的な社員達に話しかけられるまで待っている子、色々だ。

 格好は一人前だが玄英も含めてビオトープは初心者だ。十歳くらいの子ども達に混じって、職人達に教わりながらあたふたしている。そのうち片言の色んな言葉や笑い声が混じり、和気あいあいのうちに小生態系の土台となる池ができあがっていく。

 恒星はギャングエイジの子どものさばき方がやたら上手く、たちまち子ども達のーー特にやんちゃ坊主達の人気者になった。強面で圧のあるメイン講師の清武をアシストしながらいい味を出している。
 ガルテン松山で会うスーツ姿の恒星もシャイで物静かながら皆から頼られている姿が魅力的なのだが、それともまた違う水を得た魚のような男前ぶりだ。

「清さんって、『ビオトープ管理士』なんだよ」

 恒星はそう言って自慢気に笑った。
 
「樹木医の資格も持ってて、文化財級の古木の移植もできる。午後はそれ見せてやるから」
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