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⭐︎席外した途端にお湯が沸いたり他人のスマホが鳴ったりする謎の現象に誰か名前をつけてください

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 お湯が沸いてアラーム音が鳴った。と同時に、マナーモードのスマホが盛大に振動音を立てた。
 俺のではなく、ケトルの横に置かれた遠山のそれだがドアの向こうの遠山には聞こえていないらしい。
 部屋着に着替えるだけならどうせすぐ戻ってくるだろうと思って放置していたが、なかなか来ない。しかもなぜかケトルのスヌーズと重なるタイミングで、しつこく長鳴りし続けるから微妙に耳障りだ。俺は立ち上がってカウンターの上にあるケトルのスイッチを切った。

ーーあいつ、何やってんだ?寝てんの?

 が、スマホはしつこく長鳴りした後でようやく切れ、一分とおかずにまたかかってきた。差出人の表示を見ると漢字でも英字でもハングルでもない、なんとなくアジア系の見慣れない文字だ。

ーー誰?女?

ーーいや、仕事用のスマホか。ややこしい取引先だったりして?

ーー会社から緊急の連絡かもしれないし……あんなんだけど社長だからな

 俺はスマホを放置したまま、ウォークイン何ちゃらのドアをノックした。

「おい遠山さん、電話……」

 いや、正確に言うと恥ずかしながら、せっかちな性格が災いしてノックしながらドアを開けてしまう悪い癖がある。会社や公共の場では一応気をつけているのだが、この時は色々度肝を抜かれたり呆気に取られたりで、完全に集中力が散漫していた。

 奴がいると思しき部屋のドアを開けてまず眼に飛び込んで来たのは、こちらに背を向けた見事なインテリアの彫刻ーーではなく、均整のとれた遠山の全裸だった。広い背中、形よく引き締まった臀部、それらにくまなく刻まれた痛々しくも生々しい痕跡とすらりと伸びた美しい四肢ーー足下にあの高価そうなスーツとシャツが脱いだ形のまま、無造作に放り出してある。正直、一瞬目が釘付けになり、茫然とした。

「!?す、すまん……」

 そこで慌てて目を逸らし、慌ててドアを閉じようとした。

 が、チラリと目の端にーー奴が驚いて振り返った弾みで、全身鏡になっている向かいの鏡に写りこんだ死角が、見るともなく目に入ってしまった。

 後でよく考えるとこれは十割俺が悪い。「決して開けてはいけません」な昔話に出てくるやらかし系のジジババ並に、全面的に過失があるーーたとえたまさか目に入ったソレが立派な臨戦態勢になっていて、主が自ら慰めている最中だったとしても。

「貴様、何さらしとんじゃあああああああー!!!」

 気がつくと俺はほぼ脊髄反射反射で奴の脳天……を狙ったものの流石に届かず、肩甲骨の間辺りに飛び蹴りを食らわせて例によってアホみたいに広い洋服部屋の床に倒していた。

「何考えてんだこの変態!!」

 元ヤンの血が騒ぎ、背中に馬乗りになったまま奴の髪を引き上げて床に二、三回打ちつけてやりたい衝動に駆られた。が、人が人たる所以の理性の部位・前頭葉のシナプス緊急ブレーキを総動員して、世界遺産級の顔面をアフガンの石仏のごとく無惨に破壊する事だけはどうにか思いとどまった。

「すっ……す、すみません……すみません、つい……」

「何が『つい』だよ!人の事わざわざ家連れ込んどいて、やっぱそんな目で見てんじゃねえか!」

「さっき店にいた時からずっと我慢してて、気を逸らそうとしてたんですけど、我慢できなくてつい……ごめんなさい」

「『ごめん』で済んだら警察は要らねえんだよッ!」

髪の毛から手を離すと、奴はそのまま木目の綺麗な床に突っ伏して本格的に泣き出した。

 SNSデビューしたばかりの女子高生がワクワク気分で「友達募集」の投稿したら、どこぞの知らないオッサンからいきなり18禁系の寒いリプが来たーーそんな理不尽な災難にぶち当たった時の気持ちがよくわかる。控え目に言って殺意が湧いた。
 造形の端正に作り込まれた肩から背中にかけて、俺がノリと力任せにやらかした赤いミミズ腫れ状の痕が細かく震えている。俺はちょっとだけ冷静になった。

 内心の自由なんてのはその人のモノであるーー確かに俺はこいつに性的な目で見られたのがショックだし、裏切られたような気分でもある。が、遠山にしてみれば完全にプライベートな空間での事故だし、いい災難だ。

「いきなり手荒な事したのは謝る。悪かった」

 俺は奴の背中から降り、助け起こそうとした。

「ええっ……?もう終わりですか?」

 間の抜けた情け無い声で予想外の言葉が帰って来て、俺は一瞬きょとんとした。

「……からの放置プレイ?」

「プレイじゃねええええええええ!」

 さっき以上の苛立ちと殺意が蘇ってきて、一番近くにあった奴の横腹に蹴りを入れた。なるべく加減はしたつもりだが、「ウッ」と呻き声をあげて反動で仰向きになるくらいの衝撃はあったようだ。
 しかも奴がただ今制御に困っていた器官は不意のハプニングに萎縮するどころか、気のせいか一回りかさが増したようにも見えてとにかく目立っている。俺は思わず「ウッ」と唸った。

「とっとと起きろや変態!」

「……はい。ありがとうございます。ご主人様」

「ご主人様じゃねえっつってんだろ!」

「それ」ごと後方に蹴り飛ばしたい衝動を辛うじて抑えた。
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