お盆に台風 in北三陸2024

ようさん

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8月11日(日)

盛岡駅で帰省終了のフラグが立つ。諦めたらそこで(以下略)

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「つか何でお前、改札まで降りてたんだ……」

「や、駅員さん遠くてさ。ちゃんとみどりの窓口が残ってんの、えらいね。対応は塩だったけど」

 何目線だよ……俺は改めて交通関係の検索を試みた。北三陸行きのバスは健在だが、やはりさっき運休が決まったようだ。ついでに三陸鉄道も。

 うーん。これ、もしかしたら車内で腰据えて検索したらギリ間に合ったヤツじゃね?いや、降りる予定が無いからと車内放送をうっかり聞き飛ばしたりしなければきっと、運休情報のアナウンスがあったはずだ。どうせアナログ決め込むんならいっそ、新幹線のどこかにある車掌室に聞きに行っても……

「ま、降りちゃったもんは仕方ないよね」

「お前が言うな」

 連休の中日の午後、かれこれ十年以上ぶりの盛岡駅。長くがらんとした三階の、蒸し暑い新幹線ホームにいるのは俺達二人だけだった。
 俺の記憶にある昔の東北新幹線のホームはもっと、ベンチやキヨスクなんかがあって人間臭く雑然としていた。
 俺達が今、立っているホームはひたすらスッキリとスマートで近未来的で、俺達の他には人の気配すらない。東京まで二時間だし、青函トンネルで海まで越えるしーー昭和の漫画やアニメに出て来た「夢の21世紀の乗り物」のイメージそのもので、かえって無常を感じる。

 もはやこれまで、勝負は時の運ーー

 とか何とか。戦国大河に登場する武将ならこんな時、そんなセリフを吐くだろう。

「今回はタイミングが悪かった。俺は次の上りで東京に戻る」

「えええー……」

「『えええー』じゃねえよ。お前だって好きにしたらいい」

 両親も何だかんだ戦後の窮乏期と大震災のライフライン喪失下を生き抜いた人達だ。電話で注意をしておいて、どうしてもって時は県内にいる姉達の誰かが駆けつけてくれるだろうーー俺は下りのエスカレーター口に足を向けた。

「途中下車分って払い戻しできるんだっけ」

「特急券は駄目だけど、乗車券分なら……」

「そうか」

 俺は下りのエスカレーター口に足を向けた。

「本当に帰っちゃうの?」

 ちょっと狼狽うろたえかけてる圭人が不思議だった。こんな時じゃなきゃ、腹を抱えて大笑いしてたかもしれない。

「お前だって好きにしていいんだぞ。元々新幹線が一緒ってだけで、目的も行き先も違うし」

「……あ!」

 振り向くと圭人が、留守番を言い渡された小型犬のように複雑な表情で(状況が違ってたらやっぱり笑えたかも)思い出したように付け足した。

「100キロ未満だとダメかも」

「まあそれはそれで仕方ないな……」

「待って待って。どうせなら八戸まで乗り越してみようよ」

 八戸は二戸の次の駅で、隣県の青森の南端、三陸海岸の北端にある。東北新幹線が函館まで延伸中の数年間は、下りの終着駅でもあった。

「八戸線か?」

「マッさんだってさっき、そう言った」

「言ったか?だってそれこそ沿岸走ってる線だぞ」

「運休情報は出てないよ」

 圭人は目を輝かせてスマホの画面をかざした。

 俺はホームの外に目をやった。見渡せる街はどんよりと薄暗く、人のまばらな通りには明かりが灯り、時おり大粒の雨が不規則にバラバラと落ちるーー少し天気がぐずついてはいるが、いたって平穏な夕暮れの景色だ。
 刻々と台風の近づく北上山地越しの海沿いがどれだけ荒れているのか、ここから推測することはできない。列車が走っているなら、まだ大したことはないのか?

「時間の問題だと思うがーーコンビニも無い無人駅で足止めなんて食らったら最悪だな」

 八戸線は俺が現役で乗っていた頃でさえ絵に描いたような赤字ローカル線で、沿線にある二十余りの駅は半分以上が無人駅だった。
相次ぐ廃線と人員削減で底が見えたかと思いきや、ますます赤字ローカル線が槍玉に挙げられて肩身の狭い現在、思い出の路線が八戸駅以外全駅無人になっていたとしても驚かない。
 大震災の時、津波で橋や線路が流出して全線運休になった時は俺も心を痛めたが、そのまま廃線になっても不思議じゃなかった。だが、地元の切実な要望もあって奇跡的に復活した。

「そうかな?少なくとも野宿はしなくて済むんじゃない?」

 確かにホテルで缶詰になろうが列車内で缶詰になろうが同じようなもんかもしれない。列車の方がむしろ、金もかからな……いや、そんな訳ないだろ。
 ハプニング系の動画配信者と旅行なんてするもんじゃない。常識と感覚がズレる。いや、奴は決して連れではないんだが。

「好きにしろ。ヤバそうだと思ったら、俺は今度こそ戻るからな」

 電光掲示板によるとあと十数分で次の下り便が来る。

「はやぶさってこんなにすぐ次の便が来るもんか?お盆の臨時便?」

「違う違う。直通便ならこんなもんだよ。二戸停車の便を乗り換えアプリで探したから、過疎って見えただけ」

「悪かったな」

 俺達はもう一度、乗降口の誘導線まで移動した。無駄な「張り切り感」をみなぎらせている圭人がホントよくわからん。

「地元の人でも車に乗ってて、列車やバスについてはよくわからないなんて人、珍しくないのに。マッさんは詳しいよね。ひょっとして昔、乗り鉄だった?」

「八戸線限定のな。高校の三年間、通学で使ってたんだよ」

「ええ!いいなあ」

「よくねえよ。他に選択肢無かったんだよ」
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