トラップって強いよねぇ?

TURE 8

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2章

35話 マッドゴーレム

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「あれは……」

「あいつの名前はマッドゴーレムですね。力が非常に高いようです」

「分かった」

 俺が前線に立ち、斧と小盾を構えていると後ろのネウスがそう告げた。どうやら鑑定というスキルで相手のことについてを把握できるようであった。

 ネウスも短剣を構えて前線に立とうとするが、俺は手で押さえ、後方へと行かせる。

「ネウスはあまり前線が得意なように見えない。だから、後方を担当してほしい」

 ネウスは短剣と魔法を使う万能型の戦い方をする奴だ。今までの戦い方から後方での俺の支援が的確だと考え、俺はそう言ったが、ネウスは少し不満だったのか、少し鼻を鳴らした。

「……分かりました」

 後方に戻ったネウスを横目で見ながら、俺はマッドゴーレムに向かって飛び出して斧を振るう。すると、マッドゴーレムも拳を突き出して俺の斧と拳がぶつかる。

「くっ」

 鈍い衝撃音と共に斧と拳が交差したまま硬直状態に入るが、衝撃に耐えきれず俺は後ろに飛びのいた。

「すまん、援護たの……!」

 ワーフは攻撃力や素早さを上げたり、回復も行える。そのため、後ろのワーフに向けて援護を頼もうと振り向いたとき、2体目のマッドゴーレムがネウスとワーフの後ろから迫るのが見えた。

「後ろだ!」

 その言葉に後ろの二人はマッドゴーレムに気が付き、俺の近くに寄ってきた。

「やばいですよ!逃げましょう!」

「うぅー、どうしよう」

 こうして、俺たちは2体のマッドゴーレムに挟まれた状況となり、包囲網が形成されていた。この状況で前線の盾役として張れるのは俺しかいないのは非常にまずい。

 2人の弱音を聞きながら、両方からの攻撃を防ぐのは難しいと判断した俺は言った。

「いや、逃げない。俺が2人の方のマッドゴーレムを引き付ける。2人は引きつけてる間にゴーレムから抜け出し、俺の援護に回ってくれ」

「……了解です」

「わ、わかりました!」

「よし……、今だ!」

 俺は後方のマッドゴーレムに突撃し、跳躍しながら斧を振り下ろした。

「ゴァアアア」

 マッドゴーレムは腕でガードしようとするが、全体重を掛けたその攻撃に耐えきれず、腕が切断される。

「いけ」

 その言葉に促され、ネウスとワーフは腕を切断されて怯むマッドゴーレムの横を通り、包囲網から脱出した。

 上手くいった、と俺が思った直後、横腹に衝撃が突き抜けた。

「ぐぁ!」

 その衝撃に足は耐えきれず、俺は横合いに吹っ飛ばされ、洞窟の壁に衝突した。

「ぐぅ、はぁ」

 衝突した衝撃で赤色に染まった視界で前を見ると、腕を切断されたマッドゴーレムとは別のそれが拳を振りぬいた姿勢で固まっていた。

 どうやら、俺が最初に相手にしていた方が追い付いてき、俺の体を吹っ飛ばしたようだった。

 若干の痛みを感じながら俺は立ち上がり、斧を構えるがふらついてしまう。

「くそ、援護頼む」

 そう言いながら、ネウスとワーフの方を見ると、マッドゴーレムの包囲網から脱出したはずの2人が何やら言い争いをしているようだった。

「なんだ……?」

 なにやらネウスが緊迫した顔でワーフに叫び、ワーフな悲痛な顔をしていた。

 何を話しているかは知らないが、とにかく援護が欲しかった。俺は二人に向けて叫ぼうとしたが、力が一気に抜けてその場所で座り込んでしまう。

「くそ、体が」

 体が動かない俺はとりあえず2人の方を見ると、何か諦めたようなワーフの顔とその手を引いて先ほど進んできた道に引き返そうとするネルフが見えた。

「?」

 意図が分からず、呆然としていると俺の顔に影が差す。見ると、2体のマッドゴーレムが俺を見下ろしていた。

 おい、待て。まだこいつらには勝て……

 俺はその時、気が付いた。俺はあの二人に見捨てられてしまったのだと。

 マッドゴーレムの拳が迫り、気が付いた時には、俺はゲームでの初死亡を経験していたのだった。


……


「俺は別にあの2人を恨んではいない……。だが、ゲームのキャラクターに見捨てられたという経験は初めてでな。それから、なんとなく、ゲームのキャラを避けるようになった」

 遠い目をして語るケンジに俺は同意した。

「それは……、苦手になっても仕方ないですよ。ケンジさんは悪くないですよ」

 そう言うと、ケンジは首を横に振って否定した。

「いや、俺が配慮していなかったのが悪かったんだ。今回のエマちゃんとカジ君との探索で分かった。……このゲームのキャラクターにも家族がいるんだ」

「家族?」

 俺は尋ねた。

「ああ、家族。大切な人だ。エマちゃんのお父さんのような大切な人があの二人にもいたのだろう。俺はゲームのキャラクターだという理由でその配慮を怠っていたんだろう。……それに会話不足だった」

「ケンジさん……」

 ケンジは言い終えると笑った。

「2人に会えた良かった……。たまたま助けただけだが、今回の探索を一緒にできて良かった」

 エマを撫でる手を止め、俺にこぶしを突き出した。

「今後もリンが学校の時に、君たちとこのゲームで一緒に冒険をしてみたい。いいか?」

 ……やっぱり、この人とてもいい人だ!

「ええ。よろしくお願いします!」

 俺も拳を突き出し、ケンジの拳に軽く突き合せた。

「ふふ」

「ははは」

 俺たちは二人で笑った。

 だが俺とケンジが拳を突き合わせた直後、体を支えていたエマが滑り落ちそうになり、二人して慌てたことはいい思い出だろう。
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