29 / 43
領都フルネンディク
28 ドラゴンのパウサ
しおりを挟む「ふぉぉぉぉぉぉ~」
冷泉は近場だよね? 山一つ向こうって言ったよね?
「なんでこんなに高いの~!」
「お前が頂上の塩湖を見たいって言ったんだろ?」
「言った! 言ったよ! でも! 心の準備ってモノを!」
行きたいって言った事を今、現在、この刹那! 凄く後悔してますとも!
「とりあえず、寝てろ」
ファフニールの声が頭に響いた瞬間、世界が暗転しました。
*****
「アンネ、着いたよ、アンネ」
「う、んー、ノート兄様?」
「ほら、立って周りを見てごらん」
ノート兄様にお姫様抱っこされている事に気が付きます。覗き込んだノート兄様の長い睫毛に囲まれたエメラルドグリーンの瞳が光を反射してキラリと光ります。
「すみません、ノート兄様、ありがとうございます」
「お姫様を目覚めさせるのは王子様の役目だからね」
にっこりと笑ったノート兄様の笑顔は、天使のようでした。殿下とは偉い違いですね。
何かとノート兄様と比べて殿下をディスるのも性格悪くなりそうだから辞めましょう。 ここに居続ければ殿下は私と違う世界の人になれるから、考える必要もなくなるのだから。
ゆっくりと下に下ろしてもらうと、自分が裸足だと気が付きました。
冷たい水が足に触れ水に溶けきれなかった真っ白な塩が砂のように積った水中で、ふんわりと広がりキラキラと光を反射します。
「ゆっくりと振り返ってごらん」
ノート兄様に肩を支えられてゆっくり振り向くと、そこは見渡す限りの塩平線が水平に区切る高地特有の濃い空が湖水に反射して、まるで空に浮かんでいるような神々しい世界でした。
まさに天空の鏡。
時折ドラゴンが飛来して来てキラキラ光る鱗を撒きながら、水深があるであろう青色が一層濃い場所に下りると、しばらくしてから風と細波が押し寄せ鏡のような湖面を揺らします。その間は鏡が消え塩の白と空の青の世界が広がりますが、それもまた幻想的な光景で、鏡を乱したドラゴンもその幻想的な光景に魅入ったように時々長い首を振るくらいで微動だにしません。
空と雲と太陽とドラゴン。時を忘れて見入ってしまいます。
「ここは、俺達がパウサと呼んでいる。ドラゴンにとって大切な場所だ」
声の方に顔を向けると、人型になったファフニールが立っていました。
「きれいね」
安易で陳腐な言葉。でもそれ以上の言葉が見つからない。
「おまえは……どうしたい?」
「?」
「ここを……ドラゴンの憩いの場を……」
言い淀んで、唇を噛む漆黒の美少年。
「おまえはここを人間に開放するか? 商売の道具にするか?」
「…………」
「おまえの返答次第では……俺は……おまえを……」
肩にあったノート兄様の手が離れ、ファフニールの前に押し出されました。
「ノート兄様?」
「大丈夫だよ」勇気付けるように微笑んで背中をぽんと叩くノート兄様。
「あのね、ファフニール……ここってドラゴンと契約した人間は必ず来るの?」
「……そうらしいな」
「ノート兄様とトゥーナも?」
「そうだな」
ノート兄様を振り返ると、首を左右に振られてしまいました。
「私は……他の人に……ドラゴンの契約者以外には、解放して欲しくない……ましてや商売道具には……できない……」
深く息を吐いたファフニールは小さくつぶやきます。
「……そうか……俺は初めての契約者を……」
「?」
「いや、何でもない。そうか、良かった。これからもよろしくな、マリアンネ」
そう言うと屈託のない笑顔を見せるファフニール。どうやら私の答えは合格だったようですね?
「こちらこそよろしくお願いします、ファフニール」
ファフニールとの心の距離が縮まったようです。
その後、ノート兄様からドラゴンの意思と違う回答をした場合は、契約ドラゴンに殺され、そのドラゴンも立会者(ここではトゥーナ)に殺されてしまう、という掟があるという事を聞かされました。
「秘密にしててごめんね。でも正直言うとそんなに心配していなかったよ?」
と優しく抱きしめてくれるノート兄様。
ヒドイ。酷いよ。でも仕方ないのでしょうね……。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
チートでエロ♡でテイマーなゲームのお話
marks
ファンタジー
内容紹介を書くのがとっても苦手な筆者ですが、一応話も大体方向性が決まったので書き直します。
この物語は、最初エロゲームを楽しむ青年(18歳以上)が少女の体を持った子達(18歳以上)とドタバタとした感じで楽しく過ごすつもりで書き始めたのですが…
気付いたらなにやら壮大なファンタジーな話になり始めてしまったって感じです。
第一章→始まりの町周辺でイチャコラしまくってます。
第二章→強制的に別サーバーに放り込まれます。
第三章→別サーバーからよく分からない所に放り出されます。
第四章→たぶん(もしかしたら?)戦争が始まります。
第五章→今の所未定
こんな話になりそうですが…基本はエロですから♡
主人公の男はミュー
ヒロイン枠には今の所…アリエル&フィー&メリス&リーフ&フィリア
敵枠には…三國と真吾と晴香とベリーナが居て…
もう少しフィリアとフィーが居る辺りからも敵とか仲間になりそうな奴などが出てきそうです。
最近他の短編を書くのが楽しい筆者ですが一応まだ書く気で居ますので気長にお付き合い下さい。
『チートでエロ♡でテイマーなゲームの裏話』
こちらはドエロの限界を攻めてます。18禁ですので…なんか、大丈夫な人だけ見て下さい。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/591314176/793257140
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる