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領都フルネンディク

27 温泉の実力

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 領主館に戻りファフニールに調子に乗り過ぎたお詫びに差出したホールのバターケーキはあっと言う間に食べられてしまい「もっと寄越せ」と言われ、予備のホールケーキもすべて食べられてしまいました。
 そりゃお詫びだから? 仕方ないとは言えね? タベスギデハゴザイマセンデショウカ?
「あの……感想は?」
「美味かった」
「それではローと一緒ではないですか!」
「お詫びの品にいろいろ感想を言う不調法は持ってない」
「うっ……そうですね」
 そうか、私と同じ年齢の人形ヒトガタを取っているけれど、ファフニールは前世の私以上に長生きしているドラゴンです。落ち着いていて当然ですよね。
「すみません……」
「判ったならいい」
 ファフニール、最初とキャラ変わってませんかね?


 その話をトゥーナにしたら、「アレが素よ」と言われました。
 そ、そうだったんですか……。
 反省するとともに、ヤンキー、チーマー、オラオラ系、キャッチ系でもない事に大分安心しました。
「でも……ファフニールは最初の時以来、いくら食べても無表情なんです。それがすごく寂しいです」
 落ち込んでいる私を見かねたのか、トゥーナが慰めてくれました。
「食べることは大好きなんだけどねぇ……知っての通りアレもまだ子供だから、長い目で見てあげて」
「はい……」
 ノート兄様に励ますように肩をぽんと叩かれました。
 その心配そうな顔を見て逆に前向きな気持ちになるのは、ノート兄様の思いやりと優しい心を感じる事ができるから。
「ノート兄様、頑張ってファフニールをデレさせて見せます! 頑張ります!」
「デレ? よく解らないけど、がんばって!」
「はい!」



 さあ、気を取り直して! まずは領主館の温泉のPh値の確認です! 浴室に移動して温泉の吐出口に近い所になるべく空気に触れないように注意しながら瓶に採取します。温度も高いので慎重に、空気に触れると酸化してしまって、正しい結果が見れないのです。
 それと湯の花が舞う浴槽の温泉水。領主特権の源泉かけ流しのお湯は、毎日管理人夫妻の夫マルコが浴槽のお湯を抜いて掃除をしてくれるのでいつも綺麗に整えられています。

 大量に作った紫キャベツ試験紙を一枚、温泉に浸けると、青色、緑色を通り越して薄い黄色になりました! おおっ! これは強アルカリ性だわ!
 これは直接口に入れると苦いかもしれないですね。 でも水蒸気を利用して蒸し野菜や源泉に浸けて温泉卵とか作れますね。むふー。
 アルカリ性だから油汚れも綺麗に落ちるのです! コンロの五徳の焦げもセスキや重曹を水に溶かした炭酸ソーダで煮洗いすれば、擦らなくても綺麗に落ちるのですよ! 茶色くなった油汚れがみるみる分解されいくのを見るのは、とても楽しいのですよ。ザ・実験! って感じで。実験はすぐ終わるので厨房覗いて鍋洗わせてもらおうっと。
 それから空気を含んで湯の花が舞う湯は青緑色。セスキに近い感じでしょうか。これはこれで良い結果です。

 しかし、ここの領の人達は何で利用しないのでしょう? 不思議だわ。
 温泉施設でもせっかくデポジット形式で飲食物の販売をしているのなら「独特の臭いがする温泉を飲まなくても効率的に接種できる!」と銘打って目の前で温泉で加熱して販売すれば良いのに、勿体ないですね。そしてその収益で別府温泉の地獄蒸し窯のように領民や湯治客、誰でも利用できる温泉調理施設を作りたい。これは、イザークに相談ですね。

 そのまま厨房に向かうと、管理人妻のエミーが夕食の準備で野菜の皮むきをしているところでした。
「エミー、夕食のデザート作りを私に任せてもらえないかしら?」
「まぁ、お嬢様が?!」
「私の趣味なの。良かったらマルコとエミーも食べて?」
「よろしいのですか?」
「その代わり、お父様には内緒ね?」
「ぜひぜひ、ご相伴に預からせていただきたいですわ!」
 ふくふくとしたエミーは嬉しそうにうなずいてくれました。
 折角、強アルカリ性の水溶液が手に入ったのですから、オレンジを房取りしてオレンジタルトを作りましょう♪



 結局、オレンジタルトでファフニールをデレさせることはできませんでしたが、エミーに温泉水での鍋の湯洗いを教えたら、とても感謝されました。そして温泉水での煮洗いは瞬く間にファルジャの料理人に広がっていきました。


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更新が遅くなって申し訳ありません。お彼岸なので旦那の実家詣でに行って来ました。疲れました。
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