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領都フルネンディク

10 ミートボールパスタ

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 ここではトマトはリコペという名前らしいです。かわいいですねぇ。

 ……前世の学名そのまんまやん! 正確にはリコペルシコム・エスクリーントムという主な成分と分類なんですが、すっごい偶然。と現実逃避は置いておいて、市場にはトマト、バジル、ルッコラ、セロリ、玉ねぎ等イタリア系食材目白押しでした。これで生ハムとかあったら天国ですよね。
 嬉々として買い込んでいたら、偶然、赤身の強い粗挽きの牛ひき肉を見てアレを作りたくなってしまったんです。

 もう一度「魔法使いの店」に戻りナツメグとセージと胡椒を買って、館に戻ります。

 牛ひき肉とスパイスを混ぜて、シモンに粘りが出るまで練ってもらっている間に、刻んだトマトと玉ねぎ、にんじん、セロリをインベントリにしまっておいたブロードと共にコトコトと煮込んでトマトスープを作ります。
 練ったひき肉をスプーン二本で成形しながらトマトスープに入れて、追加で荒く刻んだトマトを入れ一煮立ちさせて、味見をした後、塩・胡椒で味を整えれば、ソースの完成!

「アンネ、パスタは多めに四人前よろしくね」
 ノート兄様、お腹がすいていらっしゃるのかしら? 言われるがまま茹でたパスタに合わせて刻んだバジルを散らせば……

「(カリ城風)ミートボールパスタ! お口に合いますように!」(CV石田彰)

「「「おおっ」」」

 ……あれ? 声が一人分多くないですか?

「ローがいる?!」
「ノルベルト様に誘われて……マリアンネ様……美味しいです!」もぐもぐしながら喋るのははしたないですよ? ロー。イケメンが台無しです。

「マリアンネ様! こんな美味しいものがカフェには出るのですね? 始めて食べました! すごいです!」涙声になっているのは、シモン。

 そうだろう、そうだろう、ブロードから手作りですもの。美味しくないわけがありません。

 ……自分の作った料理を喜んで食べてもらえる。こんな幸せな事はありません。前世でも、現世でも。

 このパスタは甥っ子が大好きで、口の周りをソースだらけにして一心に食べる姿は本当にかわいくて、頭を撫でると「ねぇね! おいしいね!」とにっこり笑ってくれる。その笑顔が見たくて、甥っ子が好きなアニメに出る料理を作って食べさせては甥っ子と一緒にいられる幸せを噛み締めていた。あぁ、どうして私はあの幸せな場所から締め出されてしまったのだろう? もう二度と戻れない夢の散り菊。

 ……?
 三人が此方を見て驚いた顔をしています。何? 何か付いてる?

「アンネ? 何で泣いているの?」
 ノート兄様に優しく聞かれて初めて自分が泣いている事に気が付きました。
「あれ……何で……?」

 突然、横から誰かに抱きしめられて、ノート兄様の眉が顰められるのが見えました。その向こうには固まっているシモン。という事は、一番近くに居たのは……?
「ロー?」
「隠してやるから、泣くな?」
「うん……」

(僕より早くアンネを抱きしめて慰めるとは……ローは要注意ですね)
 ノート兄様が小さくつぶやいた言葉は私には聞こえなかった。



◇◆◇◆◇◆


 よく聞くけどよくわからないイタリア語

 ブロード;イタリア料理における出し汁。材料によって三種類に分けられ、肉のブロード、魚介のブロード、野菜のブロードがある。今回のブロードは野菜のブロードで、フランス料理のコンソメに当たる。
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