上 下
22 / 32

ドラマティックにキラキラホテル

しおりを挟む
 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
 先日、とある地方のホテルに泊まったのですが、取材も終えて疲れていたので、ご飯はホテルの部屋で一人静かに食べたいと思って、コンビニで買い物をしてからチェックインしたんですね。で、いざご飯を食べようと思ったら……なんと、箸がない!
 でも、歩き疲れて、一日中気を張りっぱなしで、もう心も体もヘトヘト。これから箸を求めて三千里というわけにはいかない。どうにかならんもんかと、ホテルの案内を淡い期待を込めつつ、半ば現実逃避気味に眺めていたら、なんと、フロントで、箸を売っているというではありませんか!
 案内には、お土産に~と書いてありましたが、エコを謳うこの世の中で箸をもらい忘れる私のようなおっちょこちょいの為でもあるのでしょう。
 なんとか事なきを得て、その日の食事にありつけました。
 箸を売っているホテルというのは珍しいと思いますが、同じくフロントで栄養ドリンク剤を売っているところもありましたね。
 チェックインの時、たまたま隣のカウンターにやってきたおじさんがその栄養ドリンク剤を頼んでいて。フロントのお兄さんが背後の冷蔵庫から出して振り返ると、おじさんはカウンターに置いてあった見本を持ち帰ろうとしているところで、「あ。これ見本か!」なんて、爆笑が起こっておりました。私もつられて笑っていて、見知らぬ者同士しかいない空間なのに、素敵な時間だなと感じたものです。
 そこはビジネスホテルでしたが、そのおじさんを含めたご一行はビジネスマンという感じではなく、そもそも翌日は暦の上では休日でしたので、できるだけ安いところに泊まって、遊びを満喫しようという腹づもりだったのかもしれませんね。
 私は仕事も兼ねているのでビジネスホテルがちょうどいいのですが、たとえ遊びに行くのであっても、私は旅館や高級ホテルよりやっぱりビジネスホテルを選ぶかもしれません。
 皆さんも遠征──部活のじゃなくて推し活のですよ──などで、地方もしくは都市部に行く際、推しのイベント行ってグッズ買って、観光もして、あぁそう、交通費も馬鹿にならないし、旅行行くのに新しい服も買っちゃったから……なんて結局、最終的に予算が削られるのは宿泊費だったりしますよね。もうとりあえず、寝られればいい、みたいな。
 旅行好きの友達はそういう穴場のホテルを探すのも得意ですが、旦那さんと2人で出かける時はに泊まるそうです。まぁ彼女がそう言ってたんですけど、所謂ラブホテルというやつですね。
 でも、目的云々に限らず、今は同性でも利用できると聞きますし、場所や雰囲気にこだわらなければ、宿泊費を浮かせて、尚且つ大きいベッドでゆっくり寝られる。
 また別のご夫婦で、こちらは60代でご旅行好き。旅館に泊まることもあるけれど、多くは近くのに入るそうです。安上がりだし、気兼ねもいらない。
 特に都会だと困らないですよね。都心からそれほど離れずにありますし。田舎だとそういうエリアは郊外にあったりするので、車がないと不便(?)なのですが。
 地元のネオン街──というには寂れに寂れていますが──は、地名を言うと大体の人が「あぁ、ホテル街ね」とすぐに思い当たるのですが、その地元の女性の先輩と都会に遊びに行った際、目的地に向かう為とはいえ、知らずにど真ん中を突っ切ってしまい、雰囲気から察して「あぁ、大阪の◯◯(地元の地名)ね!」なんて笑いあった記憶があります。
 その時も『女子会歓迎!』などの謳い文句も見えたので、わりと以前から『同性利用OK』の傾向にあったのでしょう。そりゃだって、ついでにビジネスホテルだってシティホテルだって、毎日毎日満室なわけじゃないでしょうから、たとえ本来の形でなくともなんぼでも売れたほうがいいに決まっていますよね。
 そういう傾向にあったことを知っていながら、私が考えを改めたのは友達の『旅行中の宿にしている』くらいからだったかもしれません。なるほどな、と。予約も要らないし、面倒な手続きもない。なんなら人と話す手間も省けるし、部屋は雰囲気さえ気にしなければ──まぁ気にしても問題はないですが──至極快適。
 私は仕事以外ではあまりアクティブなタイプではないので、考えたこともなかったなぁと。まぁでも、たまの旅行だからこそちょっといいとこに泊まっちゃお~なんて思うのもまた然り。
 『考えを改めた』といえば、年上の知人に「『考えを改めた』なんて、ドラマティックだね」と言われたことがあります。「どこが?」とも思いますが、その人は言葉選びの面白い人で、ふいに笑わされることがよくあります。
 私が他の人との会話のゆく先──その人の言いたいこと、この会話のテーマを紐解いている最中に、その人に質問した内容が彼女にはすごいことだったらしく、「真実に近づいてましたね!」とか。
 ともあれ、『ドラマティック』という知人の真意を知ろうと色々考えてはみるのですが、やっぱり他人ひとの価値観というのは難しいですね。何をどう思ってそういう言葉が出たのか、ぜひ同じ気持ちを共有したいのですが。
 私なりに行き着く結論としては、それだけ『考えを改める』というのが日常的ではなく、行為としても、そして心理的にも、困難なことなのだろうと。
 「さあ、考え方を変えてみよう!」と言われても、何度も言うように私たちは主観で生きていますから、そう簡単に自分の価値観を変えることはできません。
 そして、考え方を変えることができたとして、それが『考え方を改める』になるには、これまたひとつ壁があると私は思います。
 ある人の考えを聞いて、「……だから?」と感じることはきっと誰にでもあるはず。それは『違う考え方を聞いても、自分の考え方は変わらない』ということでもある。
 そろそろお別れの時間です。
 大阪旅行に一緒に出かけた、前言の女性の先輩が昔言っておりました。「私の上司は嫌な奴だけど、社員の失敗を謝ってくれてるのもあの人なんだよ」と。その上司の見方も変わり、さらに先輩にも「あぁこの人は、『嫌な奴』と『上司の仕事』とを分けて考えられる人なんだ」とより良いほうへ『考えを改めた』、今でも忘れられない出来事です。
 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったものですが、一度嫌いになると何でもかんでも嫌に見えてしまう。それだけマイナスへのベクトルが強いとも言えますから、そこから『考えを改める』ことは難しいかもしれません。
 でも、たとえばプライドの高いその上司が、『プライド』で社を守るのではなく、『プライド』でもって自ら矢面に立ち社員を守ってくれているのだとしたら、見方が変わりますよね。
 実際にそうかどうかは私にはわかりませんが、女性の先輩が彼を見てそう感じたのと同じように、それを示せるのもまた彼次第なのでしょう。
 心というのは伝えようとすれば、必ず誰かの心に届きます。それが意図した形でないこともしばしばありますが、それでも何もしないより幾分か『伝えよう』という気概の分だけ、受け取ってもらえるのではないでしょうか。
 人と人というのは難しいですよね。
 表に見えることだけが真実ではなく、裏に隠れているものばかりを追って、本質を見失うこともたくさんある。
 けれど、私たちはいつだって『考えを改める』ことができるのです。『ドラマティック』な日常も悪くありません。むしろ、「わかって良かった」と頷けたほうがお互いに心地よいと思うのです。
 『考えを改める』ことが必ずしもプラスに働くとは限りませんが、それこそ『伝える』側と『受け取る』側次第でもあります。
 少しでも多くの人が、『ドラマティック』に『キラキラ』輝く、『幸せ』な日々を過ごして欲しいから──。
 また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

深見小夜子のいかがお過ごしですか?

花柳 都子
ライト文芸
 小説家・深見小夜子の深夜ラジオは「たった一言で世界を変える」と有名。日常のあんなことやこんなこと、深見小夜子の手にかかれば180度見方が変わる。孤独で寂しくて眠れないあなたも、夜更けの静かな時間を共有したいご夫婦も、勉強や遊びに忙しいみんなも、少しだけ耳を傾けてみませんか?安心してください。このラジオはあなたの『主観』を変えるものではありません。「そういう考え方もあるんだな」そんなスタンスで聴いていただきたいお話ばかりです。『あなた』は『あなた』を大事に、だけど決して『あなたはあなただけではない』ことを忘れないでください。 さあ、眠れない夜のお供に、深見小夜子のラジオはいかがですか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

東京カルテル

wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。 東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。 だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。 その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。 東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。 https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

処理中です...