Love adventure

ペコリーヌ☆パフェ

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初めて君に触れた夜

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は、書斎での調べ物を一旦中断し、机の引き出しの中から、ある物を出して眺める。

掌に収まる、古ぼけた小さな箱。

中学生の頃、ほなみがくれた薬箱だ。

彼女から初めて貰った物だから、しまい込んで大切にしている。

14年経つが、俺の中では色褪せない想い出だ。

――ほなみは覚えているだろうか?


こんな物をまだ大事に持っている自分に呆れてしまう。


吉岡が知ったら


「意外とセンチメンタルというか少女趣味ね。
思い出をしまい込むなんて小さな女の子みたい!……あんたが小さな女の子……
ひゃ――!そぐわない!気持ち悪――い!」



などと、ボロクソに言われてしまうのだろう。



東京で二人はどうしているだろうか。

行かせてよかったのかどうか解らない所はあるが、吉岡も一緒だからほなみの様子を聞く事も出来るし、良しとするしかない。


それにしても、この間の夜を頭に思い描くと堪らなく逢いたくなってしまう。
溜まった欲望を思い切りぶつけてしまい、ほなみも戸惑っていたが俺自身が一番戸惑っていた。



そして、あの夜初めて

「貴方を愛してる」


と告げられ、正に天にも昇る気持ちだったが――本心なのだろうか?
という疑問も頭をもたげてくる。


俺は、ほなみを手に入れたという実感をずっと持てないままでいた。



仕事で飛び回り一緒に居る時間がなかったせいもある。

たまに帰った時も俺は相変わらず

「好きだ」

と言えず、触れる時は欲望を制御していた。


今までよく持ちこたえられたものだ、と思う。



だが――高校二年の時、初めて彼女を抱いた夜の事を思い出すと未だに苦しくなる。

今よりまだ若く、自分を抑える事が出来ず、ほなみには辛い思いや無理をさせてしまった。



――――――――――――



あの蒸し暑い夜、両親は不在だった。

仲を深める絶好の機会だったが、自分からがっつかず、ほなみの方から求めてきたら応じようと考えていたが、それはまずないだろうとも思っていた。


「智也君、味大丈夫だったかな」



邪な事で頭が一杯だった俺は、作ってくれた食事にまだ箸をつけないままでいたらしい。

俺は、笑い、謝った。



「ごめん。疲れてて、ぼうっとしてたよ」


煮物を口に含み頷きながら



「美味いよ」

と伝えると、ほなみは顔を綻ばせた。


「良かった。智也君のお母さんお料理上手だから比べたらかなり劣るだろうけど……」


「母さんの料理より美味いよ」


「本当?」


まるで恋人同士か新婚夫婦のやり取りみたいだ。いや、俺達は恋人同士なのだが、なるべく甘い雰囲気にならないように今まで気を付けていたので傍目から見たら不思議なカップルだったのかも知れない。

ほなみはその事をどう思っているのだろうか。

聞いてみたいが、そういう訳にはいかない。




「お茶煎れるね」


ほなみが席を立ち、食器棚から湯呑みを出そうとした時、外でゴロゴロと不穏な音が響き、びっくりしたのか手から湯呑みを落とした。


「大丈夫か?」


駆け寄り、俺は、散らばったかけらを拾う。


「ごめんなさい」


ほなみも身を屈めて拾おうとするが、その指が微かに震えていた。


「危ないから俺がやるよ」


「……うん」


ほなみは、俺をじっと見つめていた。


(今、目を合わせたら……抱き締めてしまう)



視線に気付かない振りをし、手早く片付けて手を洗い、ほなみから背を向けたままで俺は言った。



「ごちそうさま。
寝不足だから今日はもう部屋へいくよ」


外ではゴロゴロと音がしていて、ほなみは心細い表情をしていた。


「……うん。お休み」


「お休み」



後ろ髪を引かれながら二階へ上がり、ベッドに横になったが眠れそうになかった。

窓には激しく雨が振りつけ、時折部屋の中が明るく照らし出される。

ゲリラ豪雨を思わせるような荒れた空模様だ。


――もう部屋へ戻っただろうか。


ほなみは雷が苦手だった。
女の子にはよくある話だが、彼女の場合、両親が亡くなった日に酷い雷雨だった事が関係しているのかも知れない。


怖がっているほなみに付け込んで、抱いてしまう事も出来る。


けれど、それをするのは卑怯な気がする――



だが、先程のほなみの、少し潤んだ瞳が頭に過ると居ても立ってもいられなくなり、俺はベッドの上を落ち着きなく何度も寝返りを打った。




雨も風も雷も、止む気配はなかった。



(ほなみ――大丈夫だろうか)



ベッドから身を起こした時、丁度ノックの音がした。


開けると、目を真っ赤に腫らした彼女が、薄く短いショートパンツの部屋着姿で立っていて息を呑んだ。


大きく衿ぐりが開いたシャツからは綺麗な鎖骨と、その下にある形の良い膨らみが覗き、ショートパンツからは白い脚が伸び、円みを帯びた腰の形がくっきりと分かる。


俺は慌てて目を逸らした。


「智也君……起こした?」


「いや……」


「雷が怖くて……入ってもいい?」


全身が心臓になったようにズクズクと激しく脈打つ。

ほなみの潤んだ目を見るだけで気がおかしくなりそうだったが、平静を装い手を引いて中へ入れ、ドアを閉めた。



 
ほなみがベッドに座ったので、俺はドキリとする。



どういうつもりで部屋へ来たのか解りかねた。

単に雷が怖くて、時間を潰しに来たのだろうか。
……それとも――



(――いや、そんな訳はない)



押し倒したくなる衝動を無理矢理抑え込み、奥歯を噛み締めた。



「何か飲もうか。
キッチンから取って来るよ」



部屋から出ようとしたが、シャツの裾をほなみが掴んでいるのに気付いて、俺はドアノブを持ったまま固まった。



「……どうしたんだ?」


緊張でカラカラに渇いた喉から無理矢理声を振り絞ったが、ほなみの指は更に力を込めて俺のシャツを握り締めている。



「……智也は……
私が嫌いなの?」


ほなみは俯いたまま小さな声で言った。



「……何言ってるんだ。そんな事……」



俺は驚き、彼女に言うが、ほなみの両目からは涙がまた落ちた。



「クラスの女の子に言われたの。
智也が私と付き合ってるのは、私を可哀相に思ってるからだって――!
そうなの?」



「誰がそんな事をっ?」

俺は、思わずほなみの肩を掴むが、襟ぐりから胸の深い谷間が見えてしまい、下半身に一気に血が集まる。

彼女の誤解を解かなくてはならない……

だが、二人きりの家で、こんな姿のほなみを前にして、俺は平静に振る舞えるのだろうか?

もう既に、身体は彼女を狂おしく欲しがっているのに――



「……もういい!同情して付き合ってるなら、そんなのもう要らない……!」


ほなみが、こんな風に感情をぶつけてきたのは初めてだった。
俺は、心が激しく揺れて、どう対処したら良いか頭が追いつかない。

ほなみは涙を溜めた目で暫く見ていたが、


「何も言わないならそういう事なんだね……
わかった。
もう無理して彼氏役をしなくていいからっ!」


と部屋を出て行こうとしたその時、部屋が閃光で照らされ轟音で部屋が揺れた。

ほなみは耳を押さえて悲鳴を上げ、俺は怯える彼女を抱き締めたが、彼女は俺の腕を振り払おうと抵抗した。


「もういいから……構わないで!」


「別れるだとか、馬鹿な事を言うな!」
 

「だって……だって智也は、何も私に言わないじゃない!」


「――!」


「……私を……好き……?」


熱く濡れた瞳が、俺を真っ直ぐに見つめ、全身が甘く痺れた。

俺は、返事の代わりに、ほなみの顎を掴むと唇を重ねた。

今までは触れるだけのキスしかした事がなかったが、我慢が出来なくて、その小さな唇を割って舌を侵入させた。



「んっ……」


今まで聴いた事の無い、吐息混じりの彼女の声に堪らなくなり、柔らかい身体を掻き抱きその咥内を舌で犯した。

ほなみが、躊躇いがちに俺の舌の動きに応じて自らの舌も絡めて来ると、堪え難い程の熱さが全身を支配する。

俺は、彼女の滑らかな背中をシャツの上から撫でていたが、手を中に差し入れ、柔らかい乳房に触れると、夢中で弄んだ。

ほなみは、下着をつけていなかった。


裸の膨らみの感触に、俺は気が狂いそうに欲情し、その突起に指で触れた。


「……あっ……ん……ダメっ」


ほなみは、身をよじり逃れようとしたが、強引にベッドに倒した。



「……智也……待って」


俺は、返事をする余裕もなく、欲望のままに彼女の薄い部屋着をたくし上げて脱がす。

思っていたよりも大きく美しい膨らみに一瞬息を呑んだ。


ほなみは手で隠そうとしたが、俺はそれを阻止し、乳房に口付けた。



「あっ……
智也……待って……
話し……を……んっ」


ほなみは、身体を震わせ、か細い声で時折呟く。


「……話は……
後で……しよう……」



俺は、ほなみの乳房を揉みしだき、口付けながら息を乱し、こう思った。



(話し?……話しなんて出来る余裕が今の俺にあるわけが無い……
お前は、やはりそんなつもりは無くてただ話しをしに部屋に来たのか――?
夜中に、薄着で俺の所へ来たらこういう事になるかも知れないという考えは露ほどもないのか……俺が、どれだけ自分を抑えて来たのか、お前は全くわかっていない……!)


二人きりの家のベッドの上で組み敷かれ、逃げられない状況なのに、半端に抵抗するほなみに怒りの様な物さえ込み上げてくる。



身体の中心が激しく脈打ち、真っ直ぐとそそり立って居るのが痛い程だった。
このままではとても耐えられそうにない。


俺は、片手でベルトを外しながら、もう片手ではほなみのショートパンツを脱がしにかかるが抵抗された。


「やあっ……駄目」



「脱がないと……
セックスが……出来ないだろ」



「――っ」


ほなみは、真っ赤になって目を見開き俺を見た。

そうだ、俺達は恋人同士なんだ――

恋人の身体を、好きな様に抱いて何が悪い?


俺は、今まで待った――

ほなみがその気になるのを辛抱強く待っていたんだ。


(けれどもう、それも限界だ……)



何とかズボンと下着を脱いだ俺は、両手でほなみの細い腕を掴み再び唇を奪う。
ほなみは弱々しく抵抗したが、その動きは俺を刺激した。
彼女の柔らかな脚が偶然猛りに当たり、思わず声を漏らしてしまう。


「くっ……」


俺は、堪らずその太股を掴み、顔を埋め唇を這わせた。


「や……そんな……駄目えっ」


ほなみは必死に逃げようとしていた。
その目にはまた涙を溜めている。



「優しくするから……
我慢してくれ」


最後の一枚をむしり取り、ほなみの腰を掴み、固くなった俺の物を少しずつ入れようと試みた。



「あ……嫌っ……怖い」


「ほなみ……恋人なら、皆……こうするんだ」



「……!」



「……じっとして」



指でそっと触れると、ほなみの身体は痙攣したように震えた。
なるべく優しくゆっくりとその花びらを開き、慈しむように触れた。
その中は言葉とは裏腹に、迎え入れる準備が出来ていた。



「智也……っ
見ないでっ……
は、恥ずかしい……」



ほなみの目は潤み、その頬がわずかに紅く、唇が微かに震える。




(――可愛い――!)


滅茶苦茶にしてやりたい衝動が込み上げ、俺は、ほなみの腰を掴み、喉をごくりと鳴らす。



「力を抜いて」



「だ、だめ……!」



俺は、何回か入口に自分をゆっくりと擦り付けてみた。

するとほなみは身を震わせて叫んだ。


「あっ……!やっ」


触れただけで達してしまいそうなのを、俺は、歯を食い縛り耐えた。


中に少しずつ入る度、美しい身体は僅かに赤みが差して艶めいて、俺はほなみに見とれた。


彼女も、縋るような目で俺を見つめる。



「こ、怖い……許して」


その瞬間、また一際大きな轟音が響き、彼女が叫んだ。
それが合図のように俺は一気に腰を濡れた蕾の中へ沈めた。


「――くっ――!」


背に、ほなみの爪が立てられ、鋭い痛みが走るが、それよりも遥かに強烈な快感が俺を襲う。



「いたっ――い、痛いっ」



ほなみの悲痛な叫び声を聞きながらも、俺は動きを止めようとはしなかった。
自分をせき止めていた物は跡形も無く崩壊し、もうどうにもならなかった。

最初は痛がっていたほなみも、次第に慣れてきたのか、甘い声を漏らすようになり、蕾の中が潤い絡み付いて来る。


益々俺は興奮し、烈しい腰の動きを繰り返した。



「あっ――んっ――
ああっ……
恐いっ……
智也――!」



動く度に締め上げられ、俺は声を漏らす。


「くっ……う……
ほなみ……
もう少し……うっ……我慢してくれ……っ」



「――智也――!」



「……もう少し――で終わる……からっ」



俺は、凄まじい快感の波に呑まれる寸前だった。




はち切れそうに膨張した自分が爆ぜるのを予感し、一層激しくほなみを突き上げた。



「――あああっ!」



ほなみの叫びと同時に俺は果てた。

いつまでも、ほなみの中で獣がドクドクと熱くたぎっていた。



「……智也……
つき合うって……
こういう事……なの?」


ほなみは放心した表情で呟いた。

初めてのほなみに、激しくしてしまった事を今更後悔し、俺は、そっと抱き締める。


ほなみは腕の中で溜息を漏らしたが、俺は、二度目の行為を欲して下半身が熱くなるのを自覚し、慌てて離れた。



「……智也?」


裸の身体を目の前に晒したままで、彼女は潤んだ目で見つめてくる。


(……頼むからもう、煽らないでくれ……
でないと何度も何度も、君を痛めつけてしまう……)


また雷が鳴り、ほなみが悲鳴を上げてしがみついて来た。

そのまま押し倒したくなるのを堪え、腕をそっと解いた、



「部屋へ戻りなよ」


俺の言葉に、ほなみは首を振り、しがみついて来る。


「怖いの……
今夜は一緒に居て?」



愛しい気持ちを必死に押し止め、俺は脱いだ服をかき集め手早く着て、ほなみを見ないまま早口で言った。


「一人で眠りたいんだ。シャワーを浴びてくるから部屋へ戻っていて。
ほなみも、早く何か着ないと風邪引くよ」




部屋から出ていこうとした時、ほなみが声を震わせて何か小さく呟いたが、聞こえない振りをしてドアを閉じた。



シャワーを浴び、さっき抱いたほなみの身体を頭に描きながら、俺は、自分の欲望を解き放った。


一度だけでなく、何度も何度も繰り返した。

尽きる事のない猛りに俺は翻弄された。

あのまま側にいたら多分朝まで彼女を突き上げていただろう。


――酷い事をしてしまった――

ほなみの方から踏み込んで来たのに俺は、


「好きだ」


とも言わず、強引に犯した上、恐がって側にいて欲しいと縋る彼女を冷たくあしらった――


今度こそ……本当に嫌われたかも知れない。


ほなみが呟いた言葉が頭の中でこだました。




『――好きじゃないから……こんな風にするの?――』



――違う!

好きで、好きでたまらないんだ――!



口に出してしまったら、今度こそ自分にブレーキをかける事が出来ないだろう。
ほなみが息絶えるまで抱いてしまうかも知れない。
先程ほなみを貫いた時、とても苦しそうにしていたのに、抱く事をやめられなかった。
ほなみがもしあの行為で死んでしまうとしても俺は続けていたかも知れない。

自分が恐ろしかった。

(もう出来る限り、ほなみには触れないでおこう)

と自分に言い聞かせた――






翌朝リビングで顔を合わせた時、昨夜の事が嘘のように普通に挨拶をされ、俺は拍子抜けしたが、コーヒーカップを手渡す時、その手が微かに震えていた。

ほなみは、傷ついても悲しくても表には出さず笑っている子なのだ……


顔を見ずに珈琲を飲み干し、ほなみの前を通り過ぎようとしたが、呼び止められて立ち止まる。


「……あの……」


「ん?」


「……何でも、ない」


「そう……じゃあ」



ほなみは、紅く頬を染めていたが、結局何を俺に言おうとしていたのか、わからないままだった。


―――――――――――

――今思えばあの時、目茶苦茶になっても躊躇わず抱き締めて
『愛してる』
と告げるべきだったのだ。


俺の気持ちが掴めないままで、名前だけの結婚生活を送っているその隙間に、誰か別の男が入り込んで来ても不思議ではない。


俺は煙草の煙を吐き、窓を開け、眼下に拡がるパリの街並みを眺めた。


いっそ、ほなみをここに連れて来てしまえばいいのか――


もう、躊躇わずに愛すると決めたのなら迷う必要はない。


だがどうしても、ほなみの心の中に別の男が住んでいるのかどうか、を知りたい。




『それを――
確かめて、俺は……
どうするつもりなんだ?』



心の中に、じわりと暗い殺意のような焔が生まれたような気がした。



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