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最後に、もう一度だけ②
しおりを挟む菊野の中へと、最後の一滴まで残らず精を吐き出した俺は、自分を襲うとてつもない快感と喪失感に身体中を震わせ、彼女の上に被さり溜め息を吐いた。
気だるく甘い余韻に瞼を閉じ、彼女の胸の膨らみに頬を寄せて鼓動を聞く。
俺の鼓動と同じように、彼女のそれは早鐘を打っていた。
俺に揺さぶられ、声をあげて果てた彼女が愛しくて、離したくなかった。だが、もうそれも最後なのだ。
本当は、結ばれるべきでは無かったのだろう。だが、後悔だけはしたくなかった。たとえ、菊野の気持ちは違っていたとしても。
菊野が後悔したとしていても、俺は後悔しない。
「……愛して……います」
彼女の顔を見ずに、胸に顔を埋めて囁いてみたが、彼女の返事はない。
ついこの間までだったら、彼女も愛の言葉を返してくれたのに。
菊野に触れるのは、何日振りだろうか。
彼女に拒絶されてから、彼女に指一本触れられずに、身体の中の熱を持て余す日々だった。
だが、花野の所に居れば菊野を見なくても済む。
彼女をこの目に映してしまうと途端に心も身体も彼女を恋しがり、欲しくなってしまう。
だから、離れていた方がいい。菊野が俺をもう要らない、と言うのなら、一緒に居てはいけない。
一緒に居たら、俺は無理矢理にでも彼女を求めてしまう。彼女が拒んだとしても、泣きわめいたとしても、俺は自分を止められない。
※※
夕夏を乗せてここまで自転車で来て、彼女にキスをして「じゃあ……また学校で」
と言うと、彼女は頬を赤らめて舌を出した。
昨夜から朝にかけて身体を合わせながら色んな話をしたが、学校を変わるかもしれない、という事を俺が言うと、彼女は少し顔を曇らせた。
「……いきなり……遠距離みたいな?」
「ごめん」
思わず謝る俺に彼女は笑って頭を撫でてきた。
「う――ん、彼氏が同じ学校に居るって楽しいだろうなあ、て思ったけど……まあ……剛君の事情もあるから仕方ないね……
ていうか……一人で暮らすの?」
「ああ……そうなるな」
「おうちの事とか、ご飯とかどうするの」
「まあ、一通り出来るから何とかなるだろ」
「え――、つまんない。私が早速彼女面して世話焼きに行こうかと思ってたのに」
「……是非とも、来てくれよ、待ってるから」
口を尖らせる夕夏の鼻をつまみ、耳元に囁くと、彼女は真っ赤になった。
「――も、もうっ……剛君のエッチ!」
「ええ?」
「じゃ……じゃあ、私行くね」
夕夏は耳まで真っ赤にして自転車に乗り込み走っていった。
昨夜の俺の責めにクタクタになった彼女は、アパートを出る時に「もう……足腰立たない……」
と言っていた筈だが。
元気に自転車を漕ぐ後ろ姿に安心し、彼女に手を振り小さく呟く。
「ありがとう夕夏……」
彼女が居なかったら、昨夜自分はどうして居ただろうか。
衝動的に病院を飛び出してしまったが、その後の事は何も考えていなかった。
施設に戻ってみようかという考えも頭を掠めたが、もうあそこは俺の帰る場所ではない。
養子縁組をしてから離縁など出来ないのも知っているし、下手に施設に連絡を俺が入れたりしたら、菊野があらぬ疑いをかけられてしまうかもしれない。
やはり、元通りに西本の家で暮らすのか、花野が勧めてくれたように俺が独り暮らしをするのか、の二択だろうと思った。
菊野に会わなければ、こんな胸苦しさと身体の疼きが起こることもない筈だ。
ふと思い出して切なくなる事もあるかも知れない。
だが、目の前に菊野が居なければ、彼女に襲いかかってしまう危険もない。
悟志が居ようと居まいと、俺はきっと彼女を求めてしまう。
彼女が側にいる限り、欲情の焔は絶える事はない。それは彼女をこの家ごと焼き尽くしてしまうだろう。
彼女も、俺も、いつか破滅してしまう――
思い切るんだ。
彼女と決別する勇気を持て――
俺は、夕夏の姿が見えなくなると家に向き直り、深呼吸をして鍵を廻した。
誰も居ない事を願ってドアを開ける。
休日の今日は、祐樹も菊野も居るかも知れない。
或いは、病院に行ったままなのかも知れない。
もしも菊野が居たら、何と言葉をかけたら良いのだろうか。
夕夏を乗せて自転車を漕ぎ、彼女と軽口をききながらも胸の中ではそんなことばかり考えていた。
まずは、昨日のメールに返事をしなかった事を謝らなければならない。
そして、俺の今考えている事を伝えるのだ。
だが、上手く話せるだろうか?彼女を目の前にして、落ち着いていられるだろうか。
あの少女のような無垢な瞳に見詰められて、彼女の髪の甘い薫りを嗅いで、正気でいられるのだろうか?
玄関に細い靴があるのを見て、胸が騒ぎだした。
菊野が居る。
さあ、どうする――
俺は、先程までシミュレーションしていた彼女との会話を頭の中で繰り返し、胸を鳴らしながら靴を脱いだ。
「ただいま……菊野さん……?」
リビングに向かいながら控え目に声を出したが、返事はない。
ドアを開けると、ソファの背から彼女の小さな手が見えた。
長い髪が、風にゆらゆらと揺れている。
「菊野さん……ただ今……帰りました」
後ろから声をかけるが、彼女の返事はなく、代わりに小さな寝息が聞こえてくる。
「……窓も開けたままで……風邪をひいたらどうするんです」
俺は、聞こえるはずもないが眠る彼女に言って開いていた窓を閉めて、身体に何かを掛けてやろうと彼女に向き直ったが、その場に立ち尽くしてしまった。
ソファにその華奢でたおやかな身体を投げ出して眠る彼女の無防備な姿は、俺の中で燻っていた恋情と欲情に火を点けるには充分すぎる刺激となった。
昨夜から朝にかけて、この身体に溜まっていた欲を夕夏の身体に存分に吐き出した筈なのに、菊野の姿をこの目に映した瞬間から、菊野に身も心も欲情してしまう。
透けるような白い首筋、額にかかる艶やかな前髪、愛らしい瞼、花弁のような紅い唇――
彼女の頭の先から爪先までじっくりと眺めていくうちに、身体の奥が疼き始めた。
――まずい。彼女をこれ以上見たら駄目だ。ずっと見ていたら、何もかも彼女に囚われて、自制心を無くしてしまう。
その全てに、触れたくなってしまう……
「……っ」
顔を逸らそうと思ったその時、彼女の瞼がピクリ、と痙攣して、涙が頬を伝った。
俺は思わず彼女に近付き、手を伸ばしていた。
――何故、泣いている?
俺は、彼女の頬に手を差しのべるが、指が触る寸前で引っ込める。
だが、彼女が小さな溜め息を漏らすのを見た時、俺はソファに手を突いて、彼女の頬にキスしていた。
触れた途端に、電流が身体に走り、軽い目眩に襲われる。
柔らかく優しい感触に溺れそうになる前に俺は彼女から身体を離すが、彼女の腕がこちらに向かって伸びてきて、思わずその小さな手を握りしめてしまった。
――いけない――
慌ててその手を離すと、彼女の手は力無くしソファに倒れるが、その唇から声が漏れた。
――行かないで……
そう言ったのだろうか。
俺だと分かっていて?
他の誰かと間違えているのかも知れない。
だが、それでも構わないと思った。
貴女に触れる口実が出来るから――
俺は、力一杯彼女を腕に抱き締めていた。
彼女が瞼を明けた時に俺は我にかえり手を離したが、彼女の甘い声を聞き、少し疲れを見せる陰る瞳に堪らなく欲情した。
彼女に触れるつもりなど無かった。これからどうするのか、俺の考えを話すだけのつもりだった。
だが、そんなのは無理だった。
当たり前だ――俺は、まだ貴女に焦がれているから……貴女に恋しているから――
この間俺に「触れないで」言った癖に、彼女の抵抗は中途半端だった。
胸を叩き、身体を捩ってみても、その甘く潤む瞳が、キスをすると応えてくるその唇が、舌が、俺を眩惑する。
菊野……貴女は、本当に嫌なのか、それとも俺を求めているのか、一体どちらなんだ?
止めなさい、と彼女が言ったが、その言葉はかえって俺を際限なく猛らせた。
彼女の震える声、唇が色香を放ち、正反対の事を言っている様に見えてしまう。
――私を、めちゃめちゃに乱して――
そんな風に俺を誘う様にしか――
俺は、彼女を夢中で突き上げていた。
彼女もいつの間にか、俺のセックスに溺れて腰を振り、しがみついてきた。
快感にすべてを浚われそうになりながら、俺はまた混乱する。わからない、貴女がわからない――
拒絶してみたかと思えば、俺にこの家から出ていくのは許さないと言う。
自分の事を母親だと貴女は言ったが、そう思うなら、何故こんなに身体を濡らして熱くしている?
俺の愛撫に瞳を潤ませて、甘い蜜を溢す?
森本とは一体何をしたんだ?
悟志に昨夜どうやって抱かれたんだ――?
果てしなく沸き上がる疑問。
そして、やるせなく苦い嫉妬。
貴女はどうして、俺をこんな気持ちにさせる――?
彼女の中で果てたばかりだと言うのに、もう次の行為を欲して身体が熱く猛っていた。
菊野の顔に掛かる長い髪を指でどけて、彼女の瞳を見詰めると、涙が溢れそうに潤んでいて、また俺は甘く苦しい嵐に巻き込まれる。
「菊野さん……菊野……愛している」
「――っ」
「愛している」
「……や……やめて」
彼女は耳を塞ぎ、瞼を閉じてしゃくりあげた。
俺はその手を掴み口付け、囁いた。
「貴女だけを……愛している」
「剛さん……っ……黙って」
「愛しているんだ」
「止めて――」
「菊野……っ」
肩を大きく震わせ泣く彼女の唇を俺は烈しく奪った。
「……ん……」
彼女の唇が反応し、俺の唇と舌の形に合わさる様に順応し、甘い溜め息を漏らす。
――ほら、貴女はいつもそうやって俺を惑わして誘う……
言葉では拒みながら、身体は俺を受け入れて居るじゃないか――
でもそれは、やはり身体だけの事なのか?
身体だけが反応している、それだけの事なのか?
……いや、それでも構うものか……どうせ、もう貴女に会えないなら……この腕に抱くことが叶わないなら……
今は、今だけは、身体だけでも――!
唇を離して、彼女の首筋や胸元や下腹部に痕を付けながら口付けていくと、泣きじゃくる彼女が小さく叫んだ。
「――やっ……ダメ……もう止めて……っ」
「止めない……と言ったでしょう」
掌で、指先で、唇で……俺は彼女の肌に触れて、その柔らかさ、薫りを記憶に刻み込んでいく。
今、この瞬間(とき)も――貴女に出逢ったあの日から今日までの一つ一つを、俺は忘れない。
貴女の微笑み、小さな仕草、その甘い声、俺に言った恋の言葉、何気無い出来事の全てを。
貴女が忘れたいとしても、俺が忘れてなんかやらない。
貴女の心の中にも、その身体にも、俺を深く刻み込んでやる。
どうせ別れなら……どうせ、今日を限りに触れられないなら……
菊野は脚をばたつかせ、腕を滅茶苦茶に振り回して暴れて泣いた。
だが、俺は彼女を力で押さえ付け、蕾の中へと舌を割り込ませ、彼女が痙攣しぐったりしてしまうまで、その溢れる蜜を味わった。
「……菊野……大丈夫か」
叫んで啼いて、気を失ってしまった彼女の頬に指で触れると、その唇が僅かに動き、何かを言ったように見えた。
「菊野……なあに?」
「……さん……」
「ん……?」
「……す……き……なの……」
「――」
「剛さ……」
「菊野……っ」
俺は、彼女を潰してしまう程の力で抱き締め、胸に顔を埋めた。
苦しそうに彼女が眉を歪めて瞼を僅かに開き、呆然として俺を見詰める。
今聞いたのは、空耳なのだろうか。
俺がそう思い込んだだけなのか?
それとも、本当に、貴女が言ったのか?
訊ねたとしても、きっと貴女は答えてはくれない――
菊野は俺の腕から逃れようと身を捩るが、俺が離すわけがない。
今離してしまったら、彼女は手の届かないところまで飛んでいってしまう。
いや、彼女の元から去るのを決めたのは俺自身だ。
だが、今だけは……あともう少しだけ……彼女を離したくない。
「……くるし……」
菊野が消え入るような声で呟き、腕の中で上目遣いに俺を見る。
「……俺も苦しいよ、菊野」
「……っ」
「菊野が好きだ……好きで、好きで堪らない……他の女の子を抱いても……菊野を消せない」
「も、もう……っ……馬鹿を言わないで……っ」
俺は思わず笑いを溢して彼女の額に唇を付ける。
「そうだ……俺は馬鹿なんだ……今だって、菊野を困らせて居るって分かってるのに……離せない……」
菊野は大粒の涙を溢して俺の腕を濡らす。
「私は……私は……っ……つ……剛さんの事なんて……っ」
「――でも……身体は俺を受け入れてる」
「あっ……」
俺は手を彼女の太股に滑らせて、蕾を探した。
彼女が脚をすりあわせ、溜め息を漏らして瞼を閉じる。
「ほら……また俺に掻き回されるのを、待っている」
「ち……違……ん……っ!」
指を動かすうちに、彼女の柔く敏感な花園に辿り着いた。
「ほら……見つけた……ここだ」
「や……もう、止めて……っ」
「何度言えば分かるんですか。止めませんよ……」
「そ……んな……っ」
「ほら……もう、こんなに……」
「あ、ああ……やああっ」
指先で花弁を摘まみ、軽く弾いたり、圧を加えたりするのに彼女は身体中を震わせて反応し、止めどなく蜜を溢れさせる。
「止めて……止めて……っ……剛さん……っ」
彼女は苦しそうに、だが鼓膜が蕩けそうな甘い声で呟いて俺をゾクリとさせて猛らせる。
もっと、もっとその声で俺を呼んで欲しくて、指の動きを活発にする。
彼女の中の奥深くまで差し込み、指を微妙に動かすと、内壁が締まる。
溢れてくる蜜を指に受けとめ伸ばし、彼女の花弁を愛撫しながらそれを押し広げていく。
「菊野……もっと俺を呼んでくれ……っ」
「あ、ああああっ」
気が付けば自分自身の猛りがもう爆発寸前だった。
堪えきれずに彼女の蕾の入り口にあてがい、何度か押し付けて一気に沈み込ませ、奥まで当たったところで腰を引いた。
「――っ……あ、あ、ああ」
「く……菊……野っ」
「や……やあっ……そんなこと……ダメ――っ」
「……そんな事って……?こういう事ですか」
俺は彼女の中へともう一度深く沈み、円を描くように腰を廻した。
「いやあああっ……だめ……っ」
「……う……凄く……イイみたいですね」
「そん……な……違……あああ!」
もう一度同じ動きを繰り返すと、彼女は痙攣した様に大きく震える。
「や……!」
「菊野さんが……俺を締め付けていますよ……」
「そんな……知らないっ……あああっ」
「わかるでしょう……俺がこうすると……ほら」
腰を奥まで進めると彼女の中がじわりと熱くなり、伸縮して溢れる。
彼女は俺の背中に深く爪を立てた。
ゆっくりと動いていたが、少しずつ速度を速めて行くと、蕾の中が急速に締まっていき、俺の方が耐えきれなくなりそうだった。
彼女は抵抗も忘れて俺の胸にしがみついて耳元で甘い声をあげる。
ぞわりとする感覚が下腹部から脳天まで突きぬけて行く。
このまま彼女を抱き締めたまま、逝けたらどんなにいいだろうか。
この甘く、愛しい声を聴きながら、彼女を感じながら――
「ああ、ダメっダメ――!」
彼女が一際高い声で叫んだとき、ギュウと獣が締め付けられて、俺は動きを止めた。
「う……っ!」
バクン、と獣が大きく脈打つのを感じ、俺は瞼を閉じて天を仰ぐ。
だが、彼女が俺に猶予を与えてくれなかった。
無意識なのだろうか、下から俺を突き上げてきて、乱れて啼いている。
「う……菊野……っ……そんなに……っ」
「あ……あ……っ……だめえ……っ止められないの……やああっ」
彼女は熱に浮かされたような、どこか夢見心地な瞳を俺に向けその細腰を懸命に振り、俺の首に腕を廻して切なく喘ぎ、俺の劣情をこれ以上ないほどに煽る。
「菊野――!」
もうどうなっても良かった。
この後誰かに咎められようが、命と引き換えに償え、と言われたとしても構わない。
菊野……菊野……貴女が欲しい――
今だけは……今だけは俺の腕の中で、乱れてその美しい姿を見せて――
彼女の揺れる白い身体を目に映した時、俺の獣は最高潮に興奮し、体温が急激に上昇する。
彼女の烈しい突き上げ以上に、俺は腰を深く、高速で打ちけながら獣のように呻く。
滅茶苦茶にしたい。彼女を壊してしまいたい。
俺のものに出来ないなら、いっそ――
「ああんっ……剛さん……剛さん……っ」
彼女に名前を呼ばれ、心は舞い上がり、劣情に震える。
もっと、もっと呼んでくれ、俺を――
その愛しい唇で……甘い声で……俺を溶かしてしまってくれ――
実際に、意識が混濁していた。
俺は、彼女に何を話そうとしていたのか忘れそうになっている。
今は、目の前の彼女の身体と俺の快感の事しか考えられなかった。
自分の身体が何処から何処までで、彼女の身体が何処なのかも分からなくなるほどに二人はひとつに溶け合っていた。
瞼の裏に火花が散り、絶頂がすぐそこまで来ているのを知らせる。
彼女も、俺を抱き締める腕の力が強くなり、爪が肌に食い込み鋭い痛みが走った。
だが、圧倒的な快感の前にはその痛みはある種のアクセントになり、俺を狂気に導いていく。
――もっと、くれ……
貴女がくれるものなら……痛みでも何でもいいんだ……
菊野――
心の叫びは無意識に低い呟きとなって口から漏れる。
「菊野っ……俺を……殺してもいい……っ」
「ああっ……剛さん……っ……もう……だめえっ」
「俺もだ……っ」
彼女の太股を更に大きく広げ、これ以上ない程に奥まで突き進んだ瞬間、彼女は弓なりに身体を仰け反らせて美しい声で啼き、俺もとうとう爆発した。
「く……は……っ」
「ああ……ん」
俺は彼女の中へ精を吐き出す快感に酔いしれ、そして爆発を受けとめる彼女の恍惚とした瞳や、半開きになった紅い唇に見惚れた。
俺にしがみついていた彼女は、やがて俺の目を見て恥ずかしそうに頬を赤らめて手を離し、小刻みな呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせようとしている。
俺は、彼女の乱れて背中に張り付いた長い髪を指で鋤いて、露になった白い背中に口付けた。
ピクリ、と彼女が震えて小さい声で拒否する。
「剛さん……もう……よして」
だが、その響きに甘い物が混じっているのが俺には分かる。
菊野……貴女は、俺を求めているんだ――
俺は彼女の背中を抱こうとするが、彼女がするりとかわして、脱がされた服を拾い集める。
だが俺は後ろから羽交い締めにし、首筋にキスを何度も落として彼女の身体の力を奪う。
「お……ねが……い……もう」
「菊野……まだ時間はある」
俺は時計を見て彼女の耳元で囁く。
まだ昼前だ。
俺はまだ菊野を貪るつもりでいた。
キスをした時の彼女の表情、愛撫ひとつひとつに震え、瞳を潤ませる彼女は、とても美しく悩ましく、別れを決めた今となってもなお、俺を魅了して猛らせる。
そして、彼女も俺に抱かれるのを望んでいる筈だ。
口では拒んでも、身体の反応が、それは嘘だと教えてくれる。
菊野は涙を溜めた目でおれを見て唇を噛み、両腕に服を抱き身体を隠しながら震えている。
「も……許して」
「嫌だ……まだ離したくない」
彼女が逃げれないように拘束の力を強めると、腕の中から啜り泣きが聴こえる。
「お願い……こんなにずっとされて……私……本当に変になっちゃ……」
「――いいじゃないですか……それでも」
「……っ」
彼女をこちらに向かせ、頬を指でなぞりその目を真っ直ぐに見詰める。
少女のような菊野。それでいて時に妖艶で、俺を惑わせて――いつもか弱いのに、強い意思をその小さな身体の中に秘めている。
俺を引き取った事も、その強い意思なくしてはあり得なかった。
大人なのに子供のようで、弱そうなのに強い――
そんな貴女を、俺は愛した――
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