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小さな逃避行③

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「――――!!」



夕夏の咥内で瞬間爆ぜそうになり、歯を食い縛り堪えたが、彼女は喉の奥を突いてしまったようで、直ぐに俺を引き抜き、掌を口に当てて苦しそうに咳き込んだ。



「……ゲホッ……ゲッ……コホッ」

「大丈夫か……」



枕に突っ伏して身体全体で咳をする夕夏の背中を擦るが、彼女は申し訳なさそうに顔を歪めて俺を見た。



「ご……ごめんね……
加減が……わからなくて……
もうすぐ……治まる……から……そしたら……上手くやって……みるから……っ」

「夕夏――」



苦しそうにしながらも俺を喜ばせようと必死な彼女が健気に見えて、胸が詰まった。

だが同時に菊野が俺を手で導いた夜の事や、その口で俺を呑み込んだ事が鮮やかに蘇り、苦い想いも込み上げる。





ようやく落ち着いた彼女は、俺の腹に触れてからそそり勃ったままの獣に触れる。

だが、俺は彼女の手を掴み、再び組み敷いた。

目を潤ませた彼女が哀願するように言う。




「西本君……今度は上手にやってみるから……
見捨てないで」



俺は思わず吹き出し、彼女の鼻を摘まんだ。



「見捨てたりなんかしないよ」

「……本当に?」



返事の代わりに彼女の唇を塞いで深いキスをすると、小さな溜め息が耳に当たり刺激となって、猛りがピクリと蠢く。

一刻も早く貫きたい欲を必死に抑え、彼女の唇から首筋に唇を落とし、指を乳房に滑らせた。



「……んんっ……西本く……」

「もう少し……力を抜いてごらん」

「だって……くすぐった……んんっ」



乳房をやわやわと揉むと、彼女は身体を捩らせ俺の手から逃げようとする。

俺が両足で彼女の身体を挟み身動きが出来ないようにすると、彼女が頬を染めて小さく呟いた。



「も……う……西本君のSっ」

「えす?……てなんだよ」

「知らないっ……」




彼女は真っ赤になってそっぽを向いた。






「まあ……何でもいいけど……じっとして」



俺は彼女の太股を掴みグイッと広げたが、やはり強い抵抗をされる。



「や、やだっ!
そんな事……しなくていいからっ……」

「……初めてなんだろ?……だったら、挿れる前にじゅうぶんに濡らさないと」

「いやっ……見ちゃダメ!
見ないでやってよ!!」

「無理言うなって……」




脚を閉じようとする彼女に優しく言い聞かせながら、俺はゴクリと喉を鳴らした。

誰にも触れさせた事のない彼女の花園も蕾も、綺麗な花びらの様だった。

触れて居ないうちから既に雫が太股を伝っている。



「やだっ……何でそんなにガン見するのよ――!」

「……綺麗だから、見とれてるんだよ」



俺はそう言い終わる前に、彼女の脚の間に顔を埋めた。






「……ああっ……やあんっ!」



身体中を捩り俺の舌の愛撫から逃げようとする夕夏の太股をガッチリ掴み、俺は小さく言った。



「怖い事はしないから……じっとして」

「……っ……やだあっ……」



言葉ではそう言うものの、彼女は逃げ出したいのを必死で堪えながら指を噛んでいた。

その仕草が可愛く思えて、俺は小さく笑いを溢す。

それが刺激になったらしく、彼女の身体が大きく跳ねた。



「やあっ……ダメっ」

「夕夏……溢れて来てる……綺麗だ」

「だから……見ないで……」

「またそれを言うの?」

「だって――!
ね……ねえ、AVで見たことあるけど、まさか自分がそんな事されるなんて……」

「そんなの、誰と見たんだよ」

「……」



その沈黙に、俺は嫉妬を覚えて彼女の太股に軽く歯を立て、指を蕾の入り口に差し込んだ。



「――あ……!」



短く夕夏は叫び、達してしまった。






「……夕夏?」



あまりにも早い絶頂に驚き、彼女の頬を軽く叩く。

小さく呻いて瞼を震わせ、薄目を開けて呆然と宙を見詰め、彼女は聞いてくる。



「私……今、どうなったの」

「さあ……俺にはよくわからないけど、恐らく……」



そこで言葉を区切ると、彼女は真剣に目を輝かせて身を乗り出してきた。

俺は笑いだしそうになりながら彼女の顎を掴み、わざと大袈裟に答えた。



「夕夏は、物凄くいやらしい女だってことさ。
初めてなのにこんな風になるなんて……俺の方が呑まれそうだ」

「――!な、なななな」



彼女はまた真っ赤になり、口をパクパクさせる。








「だから……夕夏は凄くいやらし」

「二度も言わないでっ!やっぱり西本君ってSよ――!」

「うわっ」



顔を真っ赤にした夕夏に枕でバシバシ叩かれ、俺は腕で庇う。



「夕夏っ……俺は、褒めてるんだぞ」

「そ、そんな褒め言葉なんかあるっ?」

「あるさ……多分」

「多分って……何よ――!」

「凄くいやらしくて、綺麗で可愛かった……」





彼女の腕を引き寄せ抱き締め、耳元で囁いてみると、彼女の瞳は蕩けるように潤んだ。



「……に、西本君が上手だから、こうなっちゃたんだよ……きっと」

「そうかな……」

「うん……て、知らないけど、多分そうだと思う」

「そっちこそ、多分て何だよ」



俺は笑って彼女の額を指で弾いた。






夕夏は「いった――い」と軽く睨むが、頬を膨らませたままで俺にしがみついてきた。

シャンプーの香りと肌の柔らかさが心地よくて、俺は恍惚としそうになるが、ついこの間までこの腕の中には菊野が居たのだ。

――忘れられるのだろうか。

短いけれど、とてつもなく濃密に愛し合った夜の数々。

抱き合った時に俺の腕に触れる彼女の艶やかな髪の感触。

俺の愛撫ひとつひとつに感じて上げた甘い声。

昇り詰めた瞬間の彼女の美しさ。

愛し合った後、恥ずかしそうに俺から目を逸らす愛らしい仕草も。

何もかもが、想い出に変わるのに、どのくらいの時間が必要なんだ――?




「……西本君……西本君?」



彼女に頬を軽く指でつつかれて、俺は我にかえった。







「……また、泣きそうになってる」

「え……」



思わず目元を指で擦ろうとするが、その前に彼女が背伸びをして唇で涙を掬った。

俺を真っ直ぐにつぶらな瞳で見詰め、舌足らずに呟いた。



「さっきも泣いてたでしょ」



やはり、見抜かれていたのか。

ラブソングに感情移入して感情を昂らせていたのを。

彼女に見透かされていることに恥ずかしい、とは思わなかった。

寧ろ、不思議と安堵している自分が居たのだ。

彼女には自分の素のままを見せられる気がしていた。

思えば俺はずっと演じて生きてきたのかも知れない。

幼い頃は、両親から身を守るために自分を閉ざし、西本の家に引き取られてからは「よき息子、よき兄」を演じ、学校では

常に優等生としての態度を通していた。

清崎の前でも、俺は自分の本性を明かした事はない。



夕夏は突然「あっ!!」と叫び、俺の膝の上から退くと、ベッドから飛び降りる。

裸にタオルを巻き付けて、学習机の中を探り何枚かのディスクを手に、またベッドへ上がってきた。

俺の隣に正座し、手書きのタイトルが書かれたそれらをトランプを広げる様にして見せた。




「さっき、私に、AVを誰と見たんだって聞いたでしょ?」

「あ……ああ、そうだったね」

「何よ――また。気のない返事――……
ま、いいよ……西本君は私には興味ないの知ってるし」

「いや……そんな事は」

「とにかくね、これ、全部ママの彼氏が持ってきたやつなのよ」

「……は?」

「彼氏って言っても、前の前の彼氏ね。
私が中学の時にママが付き合ってたの。
やっぱりバンドマンだったの……私からすると、何処がいいんだろう?て言いたくなる男だったんだけどね。
ママには言えないけどさ。
……二人の気分を盛り上げる為だかなんだか知らないけど、これを持ってやって来たのよ。ある日ね」



夕夏は話しながら、いつの間にか俺の身体にもたれ掛かって居た。




「私が学校から帰ってきて……着替えようとしてる時に合鍵で入ってきたの」

「……?」



話の雲行きが怪しい気がして、俺は彼女の肩を抱いた。

彼女は仔猫のような仕草で頭を腕に擦り付ける。



「ママが仕事か何かで居なくて……私、その人と二人きりになるの初めてだったし、あんまり好きな人じゃなかったから……嫌だなあ、て思った。
ママは夜にならないと帰って来ないけどって言ったら、その人……
分かってるって。だから来たんだよって言ってた」



淡々と語る彼女の横顔を見詰め、俺は呼吸の音を立てるのさえうるさいのではないか、と思い、息を殺して居た。






「そしたらね、その人、良いものを持ってきたんだよってこれを出して、パソコンで再生したのね」

「これを?」

「そうよ。表面にはアニメのタイトルが書いてあるのに、中身は中学生の女の子がおじさんに乱暴されるっていうヤツでね」

「……」



俺は彼女の肩を抱く力にを込めた。

彼女は相変わらず舌足らずに喋り、それはまるで小さな女の子が絵本を読むようにも聞こえる。




「その人、息が段々荒くなって来てね、とにかく気持ち悪い訳よ。
そしたら、私に制服を脱げって言って来たわ」

「……夕夏」



俺は首を振り、彼女がこれ以上話を続けない様に促すが、彼女は微笑みひとつで返し、俺の頬を指で撫でた。








「何か怖い事があったら叫べって言うじゃない?でも、実際そう言う訳にはいかないのよ。
第一、このアパート付近って付き合いもないし、何か聞こえてきたとしても関わり合いになりたくないから、皆知らないふりするわよ。
それに下手に騒いで逆上されたら、犯されるだけじゃ済まされないかも知れないじゃない?」



彼女はそこで一息ついて、続けた。



「そいつ興奮してズボンのベルト外して、アレを出したのよ」

「アレって……つまり」

「そう。西本君にもついてるアレね」

「……」



夕夏は嫌悪する様に眉をしかめた。




「うち、お父さん居ないし、男の人のそう言うの見たこと無かったから……そりゃあショックだったわよ。
気持ち悪いし怖いし、でもどうにかしてこのピンチを何とかしなきゃって思って」



彼女はそこで机のスマホを指差した。



「でね、私そいつに、あなたのそれを撮らせてって言ったの」

「撮るって――」



唖然とする俺に、彼女は小さく笑った。



「それしか思い付かなかったの」







彼女の舌足らずな声が震えた。



「……精一杯演技したわよ……失敗したらおしまいだって思って必死だったわ。
私、男の人が自分でしてるところを見たことがないの、お願い、見せてって……
見せてくれたら、やらせてあげるからって言って……騙したの」



静かな部屋には、夕夏の幼い声と緊張した俺の息遣いだけが響いていた。




「そいつ、疑いもせずに私の目の前で……
始めたわ。私によく見える様にって、大きく手を動かして……」

「夕夏」



彼女の手を握り締めると、彼女は深呼吸して天井を仰ぐ。



「そいつが、イクだの、早く君にぶちこみたいだの大声で叫びながら興奮して、それをぶちまけた時に、私は思いっきり奴の腹に蹴りを入れて、
部屋から飛び出したわ……
一目散に、一番近い交番に駆け込んだの」




「……頑張ったね……怖かっただろう?」



俺が、微かに震える彼女の頬を両手で包み込むと、彼女は震えながら笑う。



「夢中だったの。後の事なんて何にも考えてなかった……
でもその後がもっと大変だったの。奴はすぐに逮捕されて……でも、私が起訴しないって事にしたから、釈放されたの」

「その後で……嫌がらせされたりとかしたのか?」

「ううん……それは無かったから……ていうか、その人はもうそう言う事もできないから」

「……?」

「そのも人ね、バンドマンで、知る人ぞ知るバンドのギタリストだったの。
東京のほうじゃ、結構人気あったみたいなの。
ママも、ライヴに行ってギターを弾いてる時のカッコ良さに惚れちゃった、て言ってたわ。
そんなに大きな会社じゃないけど、メジャーデビューも決まってたの。
でも、その矢先にこの事件でしょ?起訴はされなかったけど……私が撮った動画が……なぜか流出して……
ネットで拡散されて……」


彼女はそこで声を詰まらせ、唇を噛んだ。






「そいつ……首を吊って、死んだわ」



彼女の頬も唇も真っ白になり、俺は温める様にその身体に毛布を被せ、その上から抱き締める。

彼女は途切れ途切れの声で更に語る。



「ママは、私が襲われそうになったって知ってからすぐに奴と別れたの。
ママにも捨てられて、バンドもクビになって……
それで……」

「夕夏――もういい」

「ママも、奴の自殺の後……バンドのファンから嫌がらせされたりして、不安定になって病院に通ってたわ」

「夕夏のせいじゃない、それは、そいつが悪いんだろ」

「……色々な事を考えた。私が奴の言うことを聞いてヤられてれば、こんな事にならなかったのかって」

「夕夏――!」

「でも……どのみち……私、奴を殺す事になってたのかも知れないし……
直接手を下した訳じゃなくても、私が殺したのと同じよ」



彼女はそこで大きく溜め息を吐いて、少しひきつる頬で笑った。



「でももう、大丈夫よ。高校入学に合わせて引っ越しして、環境を変えてからそう言うのも無くなったし、ママも明るくなったし、今のバンドマンの彼はちゃんとした人らしいし……」








「夕夏……」



何と言葉を掛けて良いのか分からず、俺は彼女を抱き締めるしかなかった。



「……この話、誰にも言ったことなかったの」

「……」

「ママとも、あの時の話は一切しないし……
でも、常に頭の中にはあるの。
人を死に追いやった私は、もう幸せになんてなれない――そう思ってたの……けど」



彼女は、俺の胸を押して、上目遣いで見詰めた。



「高校入って……あの若いお母様と歩いてる西本君を見て……
私、あんな風に人を愛したいって思ったの」

「――え?」


俺の胸がバクン、と大きく揺れた。



「西本君が、お母様を見詰めるあの目……」



夕夏は、瞳を溢れそうに潤ませ、俺の瞼に触れる。



「あんなに優しく、熱く見詰めて……きっと西本君は凄くお母様を大切に思ってるんだろうな……て思った。
それで……私も、あんな風に……見詰めてもらえたらって……」

「……夕夏」






「……そしたら、西本君、あの清崎晴香っていう美少女と付き合ってるって言うじゃない。
私はそこで即失恋したわけよ」

「いや……その」

「西本君て、あのスーパーお坊っちゃまの森本君とも仲良しだし、お母様ともただならぬ物を感じるし……
私からすれば……その辺の高校生とは実力が違うっていうか、やるなお主!……て感じなのよ」



彼女にビシッと指差され、俺はポカンとする。



「実力て……」



俺は、自分ほど複雑なバックボーンを持つ人間はあまり居ないのではないか、と思っていた。

認めたくないが、自分の事を『不憫な少年』とカテゴライズしていたかも知れない。

異常な両親の事も、義理の母の菊野に恋し、それを失いそうな事も、彼女が経験した恐ろしさと比較も出来ないし、どちらがどう、とは言えないのだろう。

彼女も相当大変な思いをしてきた筈だ。なのにそんな影は微塵も見せずに俺をこうして助けてくれて、自分を投げ出してさらけ出して――



知らず、俺の目から涙が溢れていたのに気付いて、彼女は優しい手付きで拭った。






「ねえ……私がカミングアウトしたんだから……
西本君も、何故泣いてるのか、教えてよ」

「……」



何処から話そうと迷っていたら、彼女が毛布を取り去り俺に抱きつき、キスしてきた。

慣れない動きで咥内を探る彼女の舌の動きにかえって欲を煽られ、俺も応える内に、鎮まりかけていた獣が熱く昂る。

彼女は唇を離して、じっと見詰める。



「……その前に、私の初めてを……貰ってよ」

「本当に、いいのか?」



先程あそこまでの事をしておきながら、今さら躊躇ってしまい、彼女の背中を遠慮がちに撫でていたが、本当は今すぐにでも彼女の何もかもを物にしたかった。



「……何度、女の子の方から言わせるのよっ……」



夕夏は、俺の肩を押して、強引に倒して獣を握った。





「夕夏……っ……そんな風にされたら、本当に……止まらな……っ」



彼女の手を退けようとするが、淫らに反応し、この先の行為を欲する身体は言うことを聞いてくれなかった。

それどころか、彼女の乳房に手を伸ばし掴み、揉みしだき、彼女が喘ぐのを見て自分を益々猛らせる。



「止めなくていいの……っ」

「夕夏……っ」



彼女は、俺を握ったままで、自分の秘所へと導いた。

花弁に触れ、ビクリと俺は痙攣し、彼女も溜め息を漏らす。



「……初めてなのに……女の子が上って……はしたない……?」

「夕夏……っ……くっ……無理……するな」



彼女は、少しずつ深く、俺を招き入れていた。

その度に堪らない快感に襲われるが、彼女は大丈夫なのだろうか。

だが、そんな気遣いも、彼女が獣に指でつつ……と触れた瞬間に消しとんでしまう。

彼女の腰を掴み、一気に下から突き上げた。





夕夏はピン、と背筋を伸ばし、俺の腕に爪を立てて短く叫んだ。

何とか言ったのか分からないが、恐らく痛がっている筈だ。

彼女が望むなら……と思い、その身体を優しく花開かせるつもりだったのにどうだ。

俺は、初めての彼女に手加減処か一層烈しく、欲のままに打ち付けている。

一瞬菊野の笑顔がちらついたが――清崎からのメールを思い出し、憎しみに似た感情が沸き上がり、それは底無しの欲情にとって代わり、目の前の夕夏の身体にぶつける。

彼女の叫びが次第に甘い色を帯び、結合部から彼女の蜜が滴る様になると、滑りが良くなったその部分が俺をギュウ、と締め付ける。

俺も獣の様に叫んで居たかもしれない。

何を叫んでいたのか。

夕夏の名前なのか、菊野への憎しみの言葉なのか――






「西本君っ……私っ……」



快感と、憎しみと恋着の感情がせめぎ合い、意識が混濁する中、夕夏の声がはっきりと聴こえた。

俺は、腕の中の彼女に意識を集中し、突き上げながら見詰める。

髪を揺らし涙ぐみ、白い乳房を露に身体を捩り啼く彼女は美しかった。

菊野も、夕夏も同じ女だ。

なんら変わりはない。

触って感じて、蜜を溢し、強く突き上げれば乱れて泣きそうに叫ぶのも、同じだ――

夕夏がいじらしくて可愛い。その身体にも抗いがたい魅力を感じている。

だから、彼女の誘いに乗ってしまった。

言葉では躊躇する体(てい)だが、実際にはがっつくかの様に彼女を思いのままにしている。

だが、夕夏を抱いて、菊野を消し去る事が出来る気がしない。

いや、もう忘れなくてはならないのだ。

思い切らなくては。俺が。俺一人が菊野から、あの人達から離れれば良いだけの話だ。

その決心をつける為にも必要だと自分に言い聞かせるかのように、俺は夕夏を烈しく突き上げ、かき回して叫ばせた。







「西本……君っ……ああっ」

「――その呼び方は……やめろっ……」



俺は、身体を起こして彼女の腰を抱き、反対に組み敷く体勢になった。

太股を掴み大きく広げ、再び真上から突き刺す。

初めての証拠の赤い滴りが白い脚を彩っていて、そのコントラストに美しさを感じ、俺の興奮に拍車をかける。

彼女は突かれたその時から俺を締め付け、声をあげた。



「ああ……っ……痛かったけど……い……今、気持ちいっ……西本く――」

「……剛……と呼べよ」



彼女の胸元にキスで徴をつけながら、俺は命令口調で言った。








「剛君……剛……つよしっ……」



俺にしがみついて涙混じりの声で名前を呼ばれ、俺の胸にむず痒くて焼けるような想いが燃え上がろうとしていた。



「夕夏――っ……」

「ああっん……!」



彼女の奥まで突いた瞬間に、俺の獣は一気に白い欲望を吐き出した。

達した快感に震えながら、俺は夕夏に口付け、夢中で呟いていた。




「夕夏……っ……好きだ……夕夏……っ」

「私も、剛が好き……」



額に汗を滲ませ、嬉しそうに笑う彼女に、菊野の笑顔が重なる。

俺はその面影を消し去る様に、夕夏を折れる程の力で抱き締めた。

彼女は小さな声で「痛い」と言ったが、彼女の方も俺に強く絡み付いて離れようとしなかった。

俺達は、その後眠る間も無くお互いを貪り合った。

消音にした俺のスマホが着信で光っている事など、知るよしも無かった。








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