恋のたまご、割るのはダレ?

君は僕の物だろ?by玉子

３

確か、自分が倒れてここに居た時間は九時過ぎだった筈。


貴也に襲われそうになって、奴にキックをお見舞いして朝礼中のフロアに逃げて……


これしか時間が経ってないなんて、そんなバカな事――



ゆうみは、玉子にスカートを脱がされ内心
(ギャアアア――)
と絶叫しながら時計を睨むように見つめるが、ある違和感に不安になった。



｢――あ、言い忘れたけど、時間を止めておいたから｣



玉子は、上着を脱ぎネクタイを緩めながら微笑む。



"お肉の焼き加減はミディアムでお願いね"

みたいな軽い口調で、今時のアニメにも無い様なＳＦチックな台詞を吐く玉子に、ゆうみは唖然として口をポカンと開けた。








玉子は、妖艶かつ可愛らしい笑みをゆうみに向ける。


｢ゆうみも、よく言ってたじゃない？
……本を読みながら……
“時よ止まれ……今、この時が永遠に続けばいいのに"
……とか、ね｣



｢い、いいい｣



確かに、ゆうみはコミックやらアニメやらラノベを読んだり見たりすると、直ぐ影響されその物語のシーンや台詞が脳内で鮮明に再生され止まらなくなる事がしばしばある。



決まって夜中ベッドに入り眠れない時がそうだ。


ゆうみが萌えるのは何もラブシーンに限らない。

バトルシーンでも、その他のシリアスな場面やキャラの意外なコミカルな一面が覗くシーンも堪らないものだ。



しかし、ステキなラブシーンなどが脳内で再生されたら、そりゃあもう大変な事になる。










自分はヒロインに成りきって、ヒーローと会話するのだ。
勿論、一人二役で。


山あり、谷あり、様々な苦難を乗り越えて――
いや、乗り越え途中でも萌えるのだ――
とにかく、ようやく想いが通じ合う二人。


見つめあい、手を握り、こう囁くのだ。



『……幸せ……
この刻(とき)が、ずっと続けばいい……』


『……神がもし居るなら、僕は、今、この刻を永遠に止めてくれ、と願い出るよ……』


『そうね永遠に……
このまま……』




超定番のベタとも言えなくもないシチュエーションだが、定番だろうが何だろうが、夢見る乙女は、やはりこんな感じの甘さは大好物なのだ。