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初チュー!なのに?

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貴也は、真っ赤なまま怒鳴り付けてくる。



「俺はっ……お前が好きなんだよっ!……ついでに言うとな――っ!俺はお前が散々寄越したレモンケーキなんか、別に好きじゃないんだよ!
最初にお……お前が俺に『あーん』って食べさせてくれてっ……!そ、それで何となく……旨いって思っただけだ――!いいか――俺はケーキじゃなくて……お前が好きなんだよ――!……そういう訳だっ!分かったかっ」



ゆうみは頭の中が疑問符で一杯になる。


今、理解不能な言葉を貴也が言ったような気がするけれど……
まだ夢を見ているのかも知れない。


女子高生から熟女まで手広く手玉に取る実力の持ち主の貴也が、まさか私を好きだなんて……


「アッハハ――!
そ~んなの、ないない!……きっとこれも夢の続きね、やっぱり!」



ゆうみは、両手をパシンと打ち頷いたが、貴也は面喰らう。



「お、おいっ!
何を言ってんだよ!
夢オチで纏めようとすんな――!
これは現実だ――!」



「ま~たまた~!
そんな真面目な顔で言ってきても信じないからね~!
……ふあ、眠……
また寝たら……夢から醒めるかな……
おやすみ」



「ち、ちょ待てよ――ゆうみ!」



毛布を被り寝に入ろうとするゆうみに、貴也は愕然とする。







「おいっ……ゆうみっ!
俺の話をちゃんと……」


貴也が毛布を剥がそうと、掴んで揺すってくるが、ゆうみの瞼は急速に重くなって行く。


眠い時には、何をしたって眠い。


「ゆうみ――!」


「ん……もう……
うるしゃいなあ……
ふああ……」



毛布を抱き締めたまま、ゆうみは微睡みを楽しんだ。


(ああ……
気持ちいい……
フカフカのベッドで眠りの国へと誘われるこの時は……最高だわ……)


「ゆうみ……っ……
起きないなら……
そのまんま……襲うぞっ……いいのかっ……」



(貴也の声が……
遠くから聞こえるけど……
私の夢に出てくるなんて図々しい男……
毎日顔を合わせるんだから……
夢の中までは勘弁してよね……)



「起きろ――!
さもないと……」



(うるさいなあ……

でも……そう……
王子になら、起こされてもいいなあ……)



ゆうみは、理想の王子がベッドの脇に膝まづき、恭しい仕草でゆうみの手を取る光景を妄想し、微睡みながらにやける。








ゆうみは十五の夜に
"もう、自分には後が無い"
位の悲壮な気持ちで、唱えたあの呪文を、微睡みながら呟いた。



……あんばんだんてぃーら
あんばんだんてぃーら

げつんばんな
げつんばんな

えくえくえくえく


光輝く美しきわたしの王子よ

わたしのもとへと
舞い降りたまへ

願いたまへ

叶えたまへ


わたしを愛でつつみたまへ



「……光輝く……私……の……たま……ご」



ゆうみの霞がかった意識に、ある名前が突如甦った。



「私……の玉子……
ウィリ……アム……
ウィリアム……玉子……」








その時、白い目映い光で包まれ、ゆうみの微睡みは醒めた。


自分の身体に掛かっていた毛布は剥がれ、寒気を覚えてくしゃみをすると、甘い香りと共に柔らかい感触が頬を擽った。



(……み)


優しく、何処か懐かしい声が聞こえる。



「ふえ……?」


(ゆうみ……)



「ひゃい……私……は、ゆうみ……」



ゆうみは、目を開けようとするが余りの眩しさに顔を背けてしまう。

まるですぐ側に太陽があるようだ、と思う位に眩しい。



頬を何かで包まれる。

よく分からないがとてつも無く心地よい感覚だった。



(……やっと、僕を呼んでくれたね……)



唇に、羽毛が触れた様な感触と、甘酸っぱい味が入り込む。


身体がふわふわ、と浮いた感覚に包まれた。



(なんだか私……空を翔んでるみたい……)



(一緒に翔ぼう……
僕の可愛い……ゆうみ……)



ゆうみの足がベッドから離れ、宙に浮いているのがわかった。

けれど、怖くない。


誰かが……優しくて、力強い腕でゆうみを抱き締めて居るからだ。


「……あなたは……」


ゆうみは、眩しさを堪えて瞼を開ける。


自分を抱き締める優しい腕が誰か分かる前に、ゆうみは完全に眠りに落ちた。




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