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身体が先か、恋が先か?
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「……?」
散々彼が転んだりテンパったりするのを見せられ慣れてしまっていたしのは、身体が吊った痛みに悶絶して床を転がる堺に眉を少しひそめ、深く溜め息を吐くと、ゆっくりと起き上がり、落ちているパジャマを拾い集めて胸に抱き隠すようにすると、リビングのドアまで歩きドアノブに手をかけ、彼を振り返る。
堺は青息吐息で震えながらしのに何か言いかけるが、しのは被せるように言った。
「私、シャワー浴びて自分の部屋で休みます」
「ふ?……ふ……ふんっ……しょ……しょだね……」
カメラを持って対象物を追っている時には無茶な動きをしても平気な堺だが、気を抜いている時にしばしば身体が吊る事がある。よりによってこんな時に、……と自身の身体の老いを忌々しく思いながら、しのに必死に相槌をうった。
――引き留めてくれないの?さっきまであんなに烈しく求めて来て、蕩けるみたいな優しい眼差しで私を見ていた癖に……
その腕で掴まえて、胸の中へ引きずり込まないの?
一度抱いたら、気が済んだってこと?
もう私は要らないって?
しのは、冷たいドアノブを握り締めて背を向けながら、彼が情熱的に追いかけてくるのを心中で待っていた。
だが、堺は首と背中までが吊ってしまい、しのの気持ちを察する余裕が全くなかった。「ひいっ」と時折裏返った声で叫び、床をゴロゴロ転がっている。
しのは、大声で怒鳴りたくなるのを精一杯こらえて、今自分が出来る一番の魅力的な笑顔を向けた。ステージでファンに向ける輝いた瞳と鈴を転がすような声。今の彼女は完璧なアイドルの表情と佇まいだった。しのは必死に演じていた。本心は、彼にすがって泣きたいのに。痛くて不安だった――だけど、貴方が優しく抱き締めてくれたら、そんなの全然平気なの――と、甘えたい。
だが、彼はまた自分の世界に入ってしまって奇妙きてれつな叫びを上げて転がって遊んでいる。優しい彼なら、初めて身体を開いた女の子をふんわりとした笑顔と言葉で癒してくれるものだと思っていたのに。泣きたくなる程の疼痛を隠し、しのは真っ直ぐ立って気丈に振る舞ってしまう。
(そうよ……私は人前で泣いたりしない、オリオンのリーダーの美佳原しの……初めてのセックスで……相手の男の態度が酷いからって、ジメジメ泣いたりしないのよ……!)
「……堺さん」
しのが静かに語りかけると、堺は床を転がりながら「ひゃっ……ひゃいっ?なに?ひいいっ」とまた妙な声を上げる。しのは深く溜め息を吐くと、取って置きの可愛らしい声で言った。
「本当はお尻でも蹴っ飛ばしてあげたいの」
「ふうん………………へっ……えええっ!?」
「ついでに往復ビンタもね」
「ひいいっ?」
「背中にマジックで、バーカって書いてから外へ放り出してやりたいけど」
「し……しのちゃっ……?」
穏やかな口調と涼しげな表情とその恐ろしい台詞のギャップに堺は青くなる。
(まずい……これは本当に怒ってる……怒ってる?僕は何か激しく間違えたのかっ?)
散々彼が転んだりテンパったりするのを見せられ慣れてしまっていたしのは、身体が吊った痛みに悶絶して床を転がる堺に眉を少しひそめ、深く溜め息を吐くと、ゆっくりと起き上がり、落ちているパジャマを拾い集めて胸に抱き隠すようにすると、リビングのドアまで歩きドアノブに手をかけ、彼を振り返る。
堺は青息吐息で震えながらしのに何か言いかけるが、しのは被せるように言った。
「私、シャワー浴びて自分の部屋で休みます」
「ふ?……ふ……ふんっ……しょ……しょだね……」
カメラを持って対象物を追っている時には無茶な動きをしても平気な堺だが、気を抜いている時にしばしば身体が吊る事がある。よりによってこんな時に、……と自身の身体の老いを忌々しく思いながら、しのに必死に相槌をうった。
――引き留めてくれないの?さっきまであんなに烈しく求めて来て、蕩けるみたいな優しい眼差しで私を見ていた癖に……
その腕で掴まえて、胸の中へ引きずり込まないの?
一度抱いたら、気が済んだってこと?
もう私は要らないって?
しのは、冷たいドアノブを握り締めて背を向けながら、彼が情熱的に追いかけてくるのを心中で待っていた。
だが、堺は首と背中までが吊ってしまい、しのの気持ちを察する余裕が全くなかった。「ひいっ」と時折裏返った声で叫び、床をゴロゴロ転がっている。
しのは、大声で怒鳴りたくなるのを精一杯こらえて、今自分が出来る一番の魅力的な笑顔を向けた。ステージでファンに向ける輝いた瞳と鈴を転がすような声。今の彼女は完璧なアイドルの表情と佇まいだった。しのは必死に演じていた。本心は、彼にすがって泣きたいのに。痛くて不安だった――だけど、貴方が優しく抱き締めてくれたら、そんなの全然平気なの――と、甘えたい。
だが、彼はまた自分の世界に入ってしまって奇妙きてれつな叫びを上げて転がって遊んでいる。優しい彼なら、初めて身体を開いた女の子をふんわりとした笑顔と言葉で癒してくれるものだと思っていたのに。泣きたくなる程の疼痛を隠し、しのは真っ直ぐ立って気丈に振る舞ってしまう。
(そうよ……私は人前で泣いたりしない、オリオンのリーダーの美佳原しの……初めてのセックスで……相手の男の態度が酷いからって、ジメジメ泣いたりしないのよ……!)
「……堺さん」
しのが静かに語りかけると、堺は床を転がりながら「ひゃっ……ひゃいっ?なに?ひいいっ」とまた妙な声を上げる。しのは深く溜め息を吐くと、取って置きの可愛らしい声で言った。
「本当はお尻でも蹴っ飛ばしてあげたいの」
「ふうん………………へっ……えええっ!?」
「ついでに往復ビンタもね」
「ひいいっ?」
「背中にマジックで、バーカって書いてから外へ放り出してやりたいけど」
「し……しのちゃっ……?」
穏やかな口調と涼しげな表情とその恐ろしい台詞のギャップに堺は青くなる。
(まずい……これは本当に怒ってる……怒ってる?僕は何か激しく間違えたのかっ?)
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