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混・乱・事変②
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『は……っ……う……』
堺は、夢の中で自分の腰を烈しく動かしていた。
動かす度に柔らかくて温かく湿った何かがぎゅう、と堺の男根を締め付けて、彼を益々猛らせて腰の動きを速めさせる。
こんな夢をつい先程も見た、と思った。
だが、彼が今抱いているのはしのではなかった。
白くてたおやかな背中に揺れる真っ直ぐ長い黒髪から時折覗く黒子、仰け反ると共に姿を見せる小さな耳――
それは、堺が良く知っている女(おんな)だった。
『んん……まさ……やくん……っ』
『はあっ……は……なるみ……っ』
――なるみ。
その名前を耳にするだけで胸の中身を全部切り裂かれるように苦痛が伴うのに、何故自分は夢の中でその名前を易々と呼んでいるのだろう?
堺は、今よりも大分若い時の自分が女を責めているのを少し離れた所から見ている事に気付く。
見ているだけなのに、まるで自分がこの身体で彼女を抱いているかのような生々しい感覚に苛まれては、つい呻き声を上げてしまうのだ。
ベッドでの堺が、彼女の足首を肩に掛けさせ、一旦腰をギリギリまで引いてからまた深く突き進め、彼女を叫ばせた。
『ああっ――』
傍観する堺の身体にもその快感は伝わり、溜め息を漏らしてしまうが、大きな罪悪感で胸が締め付けられ、喉の奥が痛くなる。
『好きだよ……なるみ……なるみ』
『ああ……っ……雅也く……私も……ああっ!』
『絶対に君を離さない――!』
『雅也君……っ』
堺は胸苦しさと身体の真芯の疼きに耐えられなくなり、交わる彼らを見ないよう瞼を閉じるが、そうしても二人の情交の様子がまざまざと瞼の裏に浮かんできて、拳をきつく握り締めて唇を噛む。
「……やめろ……もう……止めるんだ……っ……でないと……っ」
「――え?」
堺の小さな呻きを聞いたしのは思わず聞き返すが、どうやら寝言らしいとわかり、リビングの床で横たわり再び寝息をたて始めた彼を、キッチンでおでんを煮込みながら眺めた。
気を失った堺をどうにか引き摺って家の中まで運んだには運んだが、成人の男をしの一人で引っ張るにはかなり無理があった。
だが、マンションの中には親しい知り合いなど居ないし、しのが男性を家に連れ込んでいるなどと噂を立てられても不味いから、手助けを求めるわけにもいかない。
時折休みながら、三十分以上かけて少しずつ堺をリビングまで移動させたのだ。
お陰で汗だくになり、またシャワーを浴びなくてはならない羽目になってしまい、ギンガムのパジャマから今度は薄いピンクのフリルが袖や胸元にあしらわれたお気に入りのパジャマに替えた。
「パジャマのお色直しとか……何をしてるのかな私も」
しのはシャワーを浴びて、何着かあるパジャマの中から一番可愛い物を選んでいた。
彼に「かわいく」見られたいという気持ちが働いたのだろうか?
「……ないない……そんなの無いし」
しのは呟き、取り寄せてあった静岡の黒はんぺんを鍋の中へと放り込む。
昨夜から仕込んでいたおでんの具材は良い色になり、濃いだしの薫りが食欲をそそり、しのの頬も緩んでいく。
今夜は母と一緒に食べようと約束していたが、母はそんな事は忘れてしまっているのだろう。
大体が、堺とアポイントを取っておいたらしいのに彼に会わずに出掛けてしまう位なのだから、娘の言うことなどは更にどうでも良いことなのかも知れない。
ツキン、と胸の奥が痛み目の奥がジワリと熱くなるが、リビングからすっとんきょうな叫びが聞こえ、火を止めて堺の側へ行くと彼は一転幸せな笑顔を浮かべている。
思わずしのもつられて笑った。
堺は、夢の中で自分の腰を烈しく動かしていた。
動かす度に柔らかくて温かく湿った何かがぎゅう、と堺の男根を締め付けて、彼を益々猛らせて腰の動きを速めさせる。
こんな夢をつい先程も見た、と思った。
だが、彼が今抱いているのはしのではなかった。
白くてたおやかな背中に揺れる真っ直ぐ長い黒髪から時折覗く黒子、仰け反ると共に姿を見せる小さな耳――
それは、堺が良く知っている女(おんな)だった。
『んん……まさ……やくん……っ』
『はあっ……は……なるみ……っ』
――なるみ。
その名前を耳にするだけで胸の中身を全部切り裂かれるように苦痛が伴うのに、何故自分は夢の中でその名前を易々と呼んでいるのだろう?
堺は、今よりも大分若い時の自分が女を責めているのを少し離れた所から見ている事に気付く。
見ているだけなのに、まるで自分がこの身体で彼女を抱いているかのような生々しい感覚に苛まれては、つい呻き声を上げてしまうのだ。
ベッドでの堺が、彼女の足首を肩に掛けさせ、一旦腰をギリギリまで引いてからまた深く突き進め、彼女を叫ばせた。
『ああっ――』
傍観する堺の身体にもその快感は伝わり、溜め息を漏らしてしまうが、大きな罪悪感で胸が締め付けられ、喉の奥が痛くなる。
『好きだよ……なるみ……なるみ』
『ああ……っ……雅也く……私も……ああっ!』
『絶対に君を離さない――!』
『雅也君……っ』
堺は胸苦しさと身体の真芯の疼きに耐えられなくなり、交わる彼らを見ないよう瞼を閉じるが、そうしても二人の情交の様子がまざまざと瞼の裏に浮かんできて、拳をきつく握り締めて唇を噛む。
「……やめろ……もう……止めるんだ……っ……でないと……っ」
「――え?」
堺の小さな呻きを聞いたしのは思わず聞き返すが、どうやら寝言らしいとわかり、リビングの床で横たわり再び寝息をたて始めた彼を、キッチンでおでんを煮込みながら眺めた。
気を失った堺をどうにか引き摺って家の中まで運んだには運んだが、成人の男をしの一人で引っ張るにはかなり無理があった。
だが、マンションの中には親しい知り合いなど居ないし、しのが男性を家に連れ込んでいるなどと噂を立てられても不味いから、手助けを求めるわけにもいかない。
時折休みながら、三十分以上かけて少しずつ堺をリビングまで移動させたのだ。
お陰で汗だくになり、またシャワーを浴びなくてはならない羽目になってしまい、ギンガムのパジャマから今度は薄いピンクのフリルが袖や胸元にあしらわれたお気に入りのパジャマに替えた。
「パジャマのお色直しとか……何をしてるのかな私も」
しのはシャワーを浴びて、何着かあるパジャマの中から一番可愛い物を選んでいた。
彼に「かわいく」見られたいという気持ちが働いたのだろうか?
「……ないない……そんなの無いし」
しのは呟き、取り寄せてあった静岡の黒はんぺんを鍋の中へと放り込む。
昨夜から仕込んでいたおでんの具材は良い色になり、濃いだしの薫りが食欲をそそり、しのの頬も緩んでいく。
今夜は母と一緒に食べようと約束していたが、母はそんな事は忘れてしまっているのだろう。
大体が、堺とアポイントを取っておいたらしいのに彼に会わずに出掛けてしまう位なのだから、娘の言うことなどは更にどうでも良いことなのかも知れない。
ツキン、と胸の奥が痛み目の奥がジワリと熱くなるが、リビングからすっとんきょうな叫びが聞こえ、火を止めて堺の側へ行くと彼は一転幸せな笑顔を浮かべている。
思わずしのもつられて笑った。
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