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第4章 7階層攻略編
第85話 ハルク
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僕がハルクを食べる…!?
チュートリアルが僕に言ったことは衝撃的だった。
今まで一緒に戦ってきたハルクを食べるように勧めたのだ。
そんなこと出来るわけない。したくない。
ハルクはこの世界で出会ったたった1人の友達なんだ。
「食べたく無い…ってことだよね。でもそれでいいの?
ここに彼を置いていたら、ミミックに食べられるだけと思うよ。」
(僕が箱に収納して、どこかで埋められるところがあれば埋葬する!)
僕はハルクを自分の手で見送りたいのだ。
「でもそうすると、彼の魂は現実に戻れないよ?
君が春樹を食べると春樹の魂は君の中に残る。
君が生きて現実世界に戻れば、春樹の魂も現実世界に戻れるんだ。
以前君が食べたリッチの彼の魂も君の中で生きているんだよ。」
僕が食べることでハルクが救われる!?
そんな発想は全く無かった。
僕が生きてさえいれば、春樹の魂は現実に戻れるかもしれないんだ。
「どう?これでもまだ食べるのを拒否する?
まっ、僕はどっちでもいいけどね。」
もしチュートリアルの言う通りなら、僕には食べるしか選択肢はない。
友達を食べるのは抵抗があるけど、それでハルクを救えるのなら…。
僕は死んでいるハルクの前に近づいた。
僕は口を大きく開き、目を閉じた。
罪悪感や倫理観が僕の動きを妨げる。
「今までありがとうハルク!」
僕は勇気を振り絞って、ハルクを一口で平らげた。
・・・・・
僕はハルクの記憶の中にいた。
ハルクの本名は、西園寺春樹(さいおんじはるき)。
今のハルクからは想像もつかない、セレブっぽい名前だ。
幼少時から体が大きく、運動と名の付くものは誰にも負けなかった。
運動会での徒競走はいつも1番。
小学生にして、オリンピック選手になれるかもしれない逸材と、関係者たちにアプローチを受けていたようだ。
勉強の方でも彼はずば抜けていた。
神童と呼ばれるくらい頭が良く、小学校に入学する前には因数分解まで理解していたようだ。
高校の入試問題を小学生の時に解いた彼は、先生に東大を目指すようにと勧められていた。
ハルクの家族は母親と歳の離れた弟のみ。
家族3人とても仲が良く、ハルクも積極的に家事を手伝っていた。
裕福ではなかったが、ハルクはとても幸せだったようだ。
中学校を卒業すると、ハルクは超有名進学校に入学。
そこでも才能を十二分に発揮し、第一回目の中間テストでは見事学年1位となった。
もともと人付き合いが苦手なハルク、突出した才能はクラスメイトの嫉妬の対象となっていた。
高校1年生の夏以降、ハルクに対する陰湿ないじめが始まった。
教科書が破られていたり、下駄箱に虫や動物の死骸が入れられていたのは1度や2度だけではない。
ハルクは理不尽ないじめに合いながらも、学校は休まずに登校し続け、成績を落とすことも無かった。
彼を直接いじめても効き目がない。
クラスメイトはそう考えたのだろう。
彼らが狙ったのはハルクの家族だ。
母の会社に匿名でいたずら電話をかけたり、下校中のハルクの弟に暴力を振るうなどの嫌がらせをし始めたのだ。
「弟が意識不明の重体となった。」
学校で勉強しているハルクに、母から突然連絡が入った。
ハルクの通う学校の制服を着た男子学生に突き飛ばされ、頭を壁に強く打ちつけたらしいのだ。
急いで病院にかけつけたハルクだったが、弟の手術は失敗に終っていた。
診断名は硬膜下血腫。倒れてから発見されずに長時間放置されていたため、すでに手遅れになっていたようだ。
弟の死後、ハルクの家庭環境は一変した。
仕事を辞め、一日中泣き続ける母。
ハルクが悪いと顔を見るたびに罵ったのだ。
彼女はみるみるやせ細り、酒を飲んでは泣き崩れる日々が続いた。
ハルクの弟を殺めたクラスメイトは、証拠不十分で解放されていた。
学校でも一切のおとがめなし。
学校側もこの件を無かったことにしたかったのだろう。
その数日後、ハルクが家に戻ると母は天井から力なくぶら下がっていた。
その日を境にハルクは学校に行かなくなった。
街に出ては誰彼構わずにケンカを売り、家に戻ると意識を失うまでパソコンに没頭した。
元々理系に強いハルク。プログラミングやハッキングを覚えるのにそう時間はかからなかった。
ハルクが学校に行かなくなって1週間後、元クラスメイトの死体が学校近くの公園で見つかった。
明らかに他殺体だったが、犯人の手がかりは一切なく捜査は難航していた。
ある日ハルクが目覚めると、見たこともない洞窟に裸で寝そべっていた。
しかし、ハルクは一切動揺することもなかった。
何事も無かったかのように起き上ったハルクは、そのままダンジョン内を歩き回った。
ハルクが最初に出会ったのは冒険者たちだった。
助けを求めようとするハルクに、冒険者たちは襲いかかった。
それもそのはず、ハルクの体は人間ではなくバーサーカーというモンスターになっていたのだ。
ハルクは冒険者たちを返り討ちにし、その武器を奪った。
1戦目にもかかわらず冒険者たちを倒してLvを上げたハルクの前にチュートリアルが登場する。
チュートリアルからこの世界のことを聞き、自分の置かれている状況をすぐに理解したのだ。
ハルクの闘いは常に戦略に基づいていた。
ハルクが初期から身に着けていたスキルは【真理】。
【鑑定】の上位スキルで、相手の攻撃様式、移動スキル、知能など相手の特徴をほぼ全て把握できる。
ハルクは相手の能力に基づいて戦略を立て、みごとに全戦全勝していたのだ。
いつしかハルクを慕う仲間が増え、ハルクは【真理】を戦闘以外でも使用し始めた。
ダンジョンの仕組みや、このゲームの成り立ちを知っていくハルク。
ハルクは【真理】を使いこなしていたようだ。
ハルクが【真理】を使うにつれ、ダンジョン内に少しずつ変化が生じていく。
ダンジョンに新たな道が出来たり、全ての罠が作動しなくなったりということも起こった。
ハルクの能力は、ダンジョンだけでなく、ゲームのシステム自体に多大な影響を与えるまでになっていた。
そんな時、ハルクの前に1人の獣人が現れた。
獣人の戦士アレックスだ。
お互いに感じ合ったのだろう。
二人は出会った瞬間に殺し合いを始めたのだ。
激しく交錯する両者の武器と武器。
ハルクが戦略を駆使すれば、アレックスもそれに対抗する戦略を編み出す。
彼とハルクの対決は数日も続いたのだ。
しかし、現時点でわずかに上回っていたのはアレックスだった。
一瞬の隙をつき、ハルクの腹部に彼の剣が貫いた。
ハルクの腹部からおびただしい量の血が噴出す。
ハルクはその場に倒れ、そのまま意識を失ったのだ。
そこでハルクの記憶が止まり、僕はまたミミックの姿に戻った。
もうハルクの姿はそこには無い。
ハルクの体と意識は、全て僕に吸収されてしまったのだ。
思ったよりも悲しくは無かった。
僕の中にハルクがいる。今度は僕がハルクを助ける番だ。
僕は彼に誓いを立てることによって、ようやくハルクの死を受け入れることが出来たのだ。
チュートリアルが僕に言ったことは衝撃的だった。
今まで一緒に戦ってきたハルクを食べるように勧めたのだ。
そんなこと出来るわけない。したくない。
ハルクはこの世界で出会ったたった1人の友達なんだ。
「食べたく無い…ってことだよね。でもそれでいいの?
ここに彼を置いていたら、ミミックに食べられるだけと思うよ。」
(僕が箱に収納して、どこかで埋められるところがあれば埋葬する!)
僕はハルクを自分の手で見送りたいのだ。
「でもそうすると、彼の魂は現実に戻れないよ?
君が春樹を食べると春樹の魂は君の中に残る。
君が生きて現実世界に戻れば、春樹の魂も現実世界に戻れるんだ。
以前君が食べたリッチの彼の魂も君の中で生きているんだよ。」
僕が食べることでハルクが救われる!?
そんな発想は全く無かった。
僕が生きてさえいれば、春樹の魂は現実に戻れるかもしれないんだ。
「どう?これでもまだ食べるのを拒否する?
まっ、僕はどっちでもいいけどね。」
もしチュートリアルの言う通りなら、僕には食べるしか選択肢はない。
友達を食べるのは抵抗があるけど、それでハルクを救えるのなら…。
僕は死んでいるハルクの前に近づいた。
僕は口を大きく開き、目を閉じた。
罪悪感や倫理観が僕の動きを妨げる。
「今までありがとうハルク!」
僕は勇気を振り絞って、ハルクを一口で平らげた。
・・・・・
僕はハルクの記憶の中にいた。
ハルクの本名は、西園寺春樹(さいおんじはるき)。
今のハルクからは想像もつかない、セレブっぽい名前だ。
幼少時から体が大きく、運動と名の付くものは誰にも負けなかった。
運動会での徒競走はいつも1番。
小学生にして、オリンピック選手になれるかもしれない逸材と、関係者たちにアプローチを受けていたようだ。
勉強の方でも彼はずば抜けていた。
神童と呼ばれるくらい頭が良く、小学校に入学する前には因数分解まで理解していたようだ。
高校の入試問題を小学生の時に解いた彼は、先生に東大を目指すようにと勧められていた。
ハルクの家族は母親と歳の離れた弟のみ。
家族3人とても仲が良く、ハルクも積極的に家事を手伝っていた。
裕福ではなかったが、ハルクはとても幸せだったようだ。
中学校を卒業すると、ハルクは超有名進学校に入学。
そこでも才能を十二分に発揮し、第一回目の中間テストでは見事学年1位となった。
もともと人付き合いが苦手なハルク、突出した才能はクラスメイトの嫉妬の対象となっていた。
高校1年生の夏以降、ハルクに対する陰湿ないじめが始まった。
教科書が破られていたり、下駄箱に虫や動物の死骸が入れられていたのは1度や2度だけではない。
ハルクは理不尽ないじめに合いながらも、学校は休まずに登校し続け、成績を落とすことも無かった。
彼を直接いじめても効き目がない。
クラスメイトはそう考えたのだろう。
彼らが狙ったのはハルクの家族だ。
母の会社に匿名でいたずら電話をかけたり、下校中のハルクの弟に暴力を振るうなどの嫌がらせをし始めたのだ。
「弟が意識不明の重体となった。」
学校で勉強しているハルクに、母から突然連絡が入った。
ハルクの通う学校の制服を着た男子学生に突き飛ばされ、頭を壁に強く打ちつけたらしいのだ。
急いで病院にかけつけたハルクだったが、弟の手術は失敗に終っていた。
診断名は硬膜下血腫。倒れてから発見されずに長時間放置されていたため、すでに手遅れになっていたようだ。
弟の死後、ハルクの家庭環境は一変した。
仕事を辞め、一日中泣き続ける母。
ハルクが悪いと顔を見るたびに罵ったのだ。
彼女はみるみるやせ細り、酒を飲んでは泣き崩れる日々が続いた。
ハルクの弟を殺めたクラスメイトは、証拠不十分で解放されていた。
学校でも一切のおとがめなし。
学校側もこの件を無かったことにしたかったのだろう。
その数日後、ハルクが家に戻ると母は天井から力なくぶら下がっていた。
その日を境にハルクは学校に行かなくなった。
街に出ては誰彼構わずにケンカを売り、家に戻ると意識を失うまでパソコンに没頭した。
元々理系に強いハルク。プログラミングやハッキングを覚えるのにそう時間はかからなかった。
ハルクが学校に行かなくなって1週間後、元クラスメイトの死体が学校近くの公園で見つかった。
明らかに他殺体だったが、犯人の手がかりは一切なく捜査は難航していた。
ある日ハルクが目覚めると、見たこともない洞窟に裸で寝そべっていた。
しかし、ハルクは一切動揺することもなかった。
何事も無かったかのように起き上ったハルクは、そのままダンジョン内を歩き回った。
ハルクが最初に出会ったのは冒険者たちだった。
助けを求めようとするハルクに、冒険者たちは襲いかかった。
それもそのはず、ハルクの体は人間ではなくバーサーカーというモンスターになっていたのだ。
ハルクは冒険者たちを返り討ちにし、その武器を奪った。
1戦目にもかかわらず冒険者たちを倒してLvを上げたハルクの前にチュートリアルが登場する。
チュートリアルからこの世界のことを聞き、自分の置かれている状況をすぐに理解したのだ。
ハルクの闘いは常に戦略に基づいていた。
ハルクが初期から身に着けていたスキルは【真理】。
【鑑定】の上位スキルで、相手の攻撃様式、移動スキル、知能など相手の特徴をほぼ全て把握できる。
ハルクは相手の能力に基づいて戦略を立て、みごとに全戦全勝していたのだ。
いつしかハルクを慕う仲間が増え、ハルクは【真理】を戦闘以外でも使用し始めた。
ダンジョンの仕組みや、このゲームの成り立ちを知っていくハルク。
ハルクは【真理】を使いこなしていたようだ。
ハルクが【真理】を使うにつれ、ダンジョン内に少しずつ変化が生じていく。
ダンジョンに新たな道が出来たり、全ての罠が作動しなくなったりということも起こった。
ハルクの能力は、ダンジョンだけでなく、ゲームのシステム自体に多大な影響を与えるまでになっていた。
そんな時、ハルクの前に1人の獣人が現れた。
獣人の戦士アレックスだ。
お互いに感じ合ったのだろう。
二人は出会った瞬間に殺し合いを始めたのだ。
激しく交錯する両者の武器と武器。
ハルクが戦略を駆使すれば、アレックスもそれに対抗する戦略を編み出す。
彼とハルクの対決は数日も続いたのだ。
しかし、現時点でわずかに上回っていたのはアレックスだった。
一瞬の隙をつき、ハルクの腹部に彼の剣が貫いた。
ハルクの腹部からおびただしい量の血が噴出す。
ハルクはその場に倒れ、そのまま意識を失ったのだ。
そこでハルクの記憶が止まり、僕はまたミミックの姿に戻った。
もうハルクの姿はそこには無い。
ハルクの体と意識は、全て僕に吸収されてしまったのだ。
思ったよりも悲しくは無かった。
僕の中にハルクがいる。今度は僕がハルクを助ける番だ。
僕は彼に誓いを立てることによって、ようやくハルクの死を受け入れることが出来たのだ。
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