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第5章 内戦編

第55話 出発ですわ

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アイゼンベルク王国に戻る。
私、マーサ、オットーの3人はアイゼンベルク王国に向けて出発することになった。
「メイドカフェ悪役令嬢」は、前日にスタッフたちに私たちがしばらく抜けることを伝え、その穴埋めをマルプリットとレオにしてもらうことになった。
スタッフは最初驚きを隠せなかったようだが、理由を説明すると涙ながらに承諾をしてくれた。

「行ってらっしゃいませ。メリー様のトップの人気投票トップの座は、私が引き継いでおきますわ。」
と、可愛い系メイドのアンナ。
あんたはそういう子だったわね。

「気を付けて行ってきな。絶対無理をするんじゃないよ。」
煙草を止め、宝〇歌劇団なみの男装で人気のジャンヌ。
彼女の機転の良さには助かっているわ。

「アイゼンベルク王国のレシピを無事に持って帰ってきてください。」
天才シェフのカミーユ。
あなたがいてくれたからこそ、この店が繁盛したのよ。

「私も一緒に行きたいけど…。このお店も守らなきゃいけないにゃん。」

ギルドから派遣されたA級冒険者のクローディア。
私たちと同行を希望したが彼女にはお店を守ってもらうということで納得してもらった。

「メリー様のご家族様によろしくお伝えください。」
食通のお父様やお母様にずっと可愛がられてきた元アンポワネット家の料理人のレオ。
彼も同行したいと思うが、オットーの穴を埋められるのは彼しかいない。

「マーサの秘密の部屋は私が守るわ。」
元お母様の専属メイドだったマルブリット。
そこは別に頑張って守らなくてもいいのよ…。

旅立ちの朝。
私たちはアイゼンベルク王国との国境近くにある村、ボデガの村に向かうことにした。
その際問題となるのが国境越え、内戦中のアイゼンベルク王国との境となるため、恐らく通るのは難しいだろう。
また、関所で問題を起こせばヴェネパール王国だけでなく、アイゼンベルク王国からも追っ手が現れるかもしれない。
関所を上手く通ることが、最初の難関となるのだ。

もちろん通行証などない。
最悪強行突破も考慮しなければならない。
私たちは馬を走らせ、国境近くの村ボデガに到着した。

隣国で内戦しているとのこともあり、村全体が異様な緊張に包まれている。
村にもたくさんのヴェネパール王国の兵士が滞在しているようだ。

私たちは村の宿を手配し、馬を預けた。
借りた部屋は質素な3人部屋。ベッドが3台と、小さなテーブルのみが置かれている。
私たちはテーブルを囲い、早速作戦会議を始めた。

「関所まで到達したわ。後はどうやって超えるかが問題ね。
何か良い方法はあるかしら?」
第一声は私だ。2人の顔を見ながら質問する。

「思ったよりも関所の警備が厳しくなっているようです。私たちがこの国に入った時と同じようには行かないでしょうね。」

オットーは冷静に分析する。

「交代の時を狙うのよ。交代で気が緩んだ隙に強引に行けば、私たちならなんとかなりそうですわ。」

マーサはやけにイケイケだ。何かちょっと興奮してない?大丈夫?

様々な意見が飛び出すが、一向に意見がまとまらない。
やはり強行突破しかないの?

その時。

トントントン

部屋の扉をノックする音が聞こえる。
私たちは咄嗟に身構え、扉の方を睨みつけた。

「宿屋の者です。お客様たちのお知り合いと話されるヴェネパール王国の兵士がお見えになっているんですが。お伝えしたいことがあるそうで。」

えっ、もうバレた?早すぎるわよ。
私たちは顔を見合わせる。

「罠かもしれないわね。私たちヴェネパール王国兵士に知り合いなんていませんもの。」

「ただ、無視はしづらい状況です。逃げると余計に怪しまれますね。」

私たちは宿屋のスタッフに部屋を用意してもらい、そこで兵士と会うことになった。

部屋に先に入り、兵士の到着を待つ私たち。
そこへ…

トントントン
「ヴェネパール王国軍兵士フェネル部隊長フェネルと申します。」

来た。
私たちは念のためにそれぞれ懐に武器を忍ばせる。

「入っていいわよ。」

「はっ、失礼いたします。」
ギギーッ。

扉が開き現れたのは、2m程はあろうかの大男。
歳は30歳代後半から40歳だろうか。額に大きな皺が刻まれている。
明らかにこの宿にはオーバーサイズなので、扉をかがむのが窮屈そうだ。

ヴェネパール軍服の下から盛り上がる隆々とした筋肉は、長年の鍛錬の賜物だろう。
顎から頬にかけて大きな傷跡が残り、数多くの戦いを経験した歴戦の戦士と言ったところだろうか。

「お目通りいただきありがとうございます。
私は、『メイドカフェ悪役令嬢』の大ファンのフェネルです。」
は?あんた何言ってんの?

「特にマーサ様に、あの部屋で大変良くしていただいたことは忘れることは出来ません。」
えっ、マーサの推し?あなた彼に一体何をしたの?

マーサを見ると、マーサも首をかしげている。どうやら覚えていないらしい。

「お店をご贔屓にして頂いて嬉しいですわ。で、あなた何をしに来たの?(お店をご利用いただきありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?)」

「はっ、実は内密の話なのですが、フランツ殿下よりこのような書状をメリー様にお渡しするように仰せつかっておりまして。」

彼は、自分の懐より封をされた書状を差し出す。
その封にはヴェネパール王国の印が押されてあった。

「これは何ですの?」

明らかに重要な文書のようだ。
っていうか何で私がここにいるのを殿下が知っているのよ?

「こちらは関所の通行許可書でございます。関所を通る際にはこちらをお渡しいただければ、問題なく通れると思われます。」

殿下には全てお見通しなのだ。私がアイゼンベルク王国へ行くことも、この村に立ち寄ることも…。
殿下の手の上で踊らされているっていうか、ストーカーみたいで怖いわ!
不本意だけど、今は手段を選んでいる必要もないのよね。

私は彼から通行許可書を受け取ると、彼は安堵の表情を見せる。
帰り際、彼はマーサの方を振り返り、

「マーサ様、このわたくしめにご褒美を頂けますでしょうか?」
は?あんた何言ってるの?

「何で私があなたにご褒美をあげなきゃいけないのよ、この豚!」
マーサもそこまで言わなくたって…。

「マーサ様、ありがとうございます。」
兵士はそう言うと満面の笑みで部屋を出た。

あんたたち、一体秘密の部屋で何をしてるの?
様々な憶測が私の頭を駆け巡っていた…。
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