上 下
41 / 70
第4章 国外逃亡編

第41話 ラクロコの町を探索しますわ

しおりを挟む
次の日の朝、私たちはラクロコの街の中心部へと向かった。
ラクロコの街はアンポワネット領の中心街モーリヤと比べ、こじんまりとしている。
メイン通りを往来する人々はさほど多くはなく、お店の数は圧倒的に少ない。
マーサが期待していた淑女館はこの街には無かった。

私たちは手短に買い物を済ませ、家へと向かった。
買い物の間中、誰かに見られているような感じはあったが、気にしても仕方がない。
どうも私は逃げ回るのは性に合わない。
なるようにしかならないのよ。

私がメイドカフェをしたい理由は3つ。
一つは生活費を稼ぐため。いつまでもお父様の負担にばかりはなりたくない。
私が自活できればお父様も安心してくれるでしょう。

二つ目は地域の人に受け入れてもらうため。私の悪役令嬢語も「ツンデレ」と認識させればそれほど大きな問題にはならないでしょう。
まずは「ツンデレ」の文化を定着させなきゃいけないんだけど。

三つ目は、自分自身の身を守ること。
お店が大きくなれば、十分なお金も入る。
そのお金を使って冒険者ギルドで冒険者を雇うのよ。
いつまでもマーサやオットーに守ってもらうばかりではいられない。
たとえ、隠れていても絶対にいつかは見つかる。
自分で自分の身を守るしかないのよ。

それに私がたとえ何をしたとしても、守ってくれるような味方が欲しい。
あの駄女神がこのまま何もしないことはあり得ないわ!
また、殿下を踏んづけたみたいなことも起こるでしょう。
力のないままだと、何も出来ないし何も守れないの。

メイドカフェは、私が成り上がるための隠れ蓑。
大事なオットーやマーサにこれ以上迷惑はかけたくないしね。

・・・・・・・・・・・・

家についた私たちは、早速ラクロコの街についての感想を話し合う。

「思ったよりも何もない街ですのね。淑女館が無いのには驚いたわ。」
と、マーサ。
淑女館って全国展開してるほど人気なの?

「メインストリートの店舗数は37軒、その中で飲食店が4店舗程しかない。
どれもパブやバーなどで、夜しか営業していないようだ。
売り上げもあまり芳しくない。客単価が低く赤字を出している店が多い。」
オットー、あなたいつの間にそこまで調べたの?

「街には若い男女が多かったわ!ただ、お店がどれもしょぼいわね。
これじゃ、わざわざこの街で買い物をしようって思わないわよ。」
私が発言すると2人もそれに頷く。

「お店を出すならメイン通りしかないわね。メイン通り以外は人通りが全くないわ。」

「それなら中央の噴水近くが良いのでは?あの場所なら目立ちそうですわ。」
マーサも意外とよく見ている。淑女館を探していただけじゃないのね?

「一つ条件にぴったりな店舗がありました。その店舗なら買収可能かもしれません。」
オットーがそのお店のレポートと、店舗図を机に広げた。
ねぇ、本当にいつそんな情報を集めたの?私たちと一緒に行動してたよね?

オットーはドヤ顔をしながら、そのお店の経営状況について語り始めた。
レポートを見る限り、確かにそのお店の経営は火の車だ。もはやお店を存続することは不可能な状況に瀕している。

ただ、店主が本当にお店を売ろうとするのかしら?
でもそのお金って結局お父様頼みよね?

「もちろん、このままでは店主はすぐにお店を売ろうとしないでしょう。
この店のオーナーは貴族の3男で、たとえお店が失敗したとしてもそこまで苦に感じないような男です。」

あー、世間知らずの坊ちゃんが始めたお店ね。
失敗しても親が責任を取ってくれるのね。
でも、それじゃお店を売ろうとはしないじゃないの?

「そこでメリーさ、お姉さまの登場です。
まずは、偶然ぶつかって倒れたお姉さまに興味を抱かせるのです。」

意図的にぶつかる時点で偶然じゃないわよね?
そのぶつかりネタってこの世界でもお約束なのかしら。

「可憐なお姉さまに心奪われる坊ちゃん。
お姉さまはここで、何も言わずに走り去ります。」

なんか乗ってきたわねオットー。

「お姉さまを追いかける坊ちゃん。しかし、お姉さまは再度転んでしまいます。」
また、こけるのね?

「助け起こそうとする坊ちゃんの手が、お嬢様はしっかりと握りしめるんです。」
その手潰しちゃうわよ。

「そこでお姉さまは、坊ちゃんの正体を知ってしまいます。」
もう知っているわよ。

「翌日、お嬢様は坊ちゃんの屋敷に招待されます。そこで坊ちゃんはお嬢様がお店を開きたいということを知るのです!
困っているお姉さまを救おうと、彼は自分のお店を明け渡す決心をするのです!」
おかしいやろその設定!
オットーのその妄想癖、今ならお薬で治せるわよ!

「その設定いいですね!現実に起こっても不思議じゃないですね!」
と、マーサ。
おいおい、そんなやつおらんやろ?

私たちの妄想ストーリーは朝まで続いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...