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第4章 国外逃亡編

第39話 お店をやるのよ

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その後も何度かアイゼンベルク兵たちに遭遇しつつも、私たちは無事ヴェネパール王国に到着した。
ヴェネパール王国はアイゼンベルク王国との同盟国。
国土も同等に広く、経済水準もほぼ同じらしいわ。

私たちが新たに生活するところは、王都から少し離れた町ラクロコ。
ラクロコは、漁業が中心の港町で新鮮な魚介類で有名な街ね。
この世界に来てから新鮮な魚介類を食べていなかったので、話を聞いた時内心小躍りしてまったわ。

私たちに用意された家は、海から少し離れた丘の上の一軒家。
商人の娘たちという設定もあって、庶民にしては裕福な家。
バルコニーからは海が一望できるのも魅力的ね。

私たちは馬車に積み込んでいた荷をおろし、それぞれの部屋へ向かった。
私はベッドに沈み込み、今まで私に起こったことや今後について考えを整理した。

今回、私はいくつもの罪を犯した。
もちろん私がやりたくてやったわけじゃないわ。
あのいまいましい選択肢によって、ヘンリー殿下を踏まざるをえなかったのよ。
そりゃ、捕まるわね。ヘンリー殿下も私に幻滅したでしょう。

その後衛兵を投げ飛ばしたって?
あれは仕方なかったのよ。
つい、よ!勢いよ!その場のノリだったのよ!って私、あの駄女神に似てきてる?

この先も悪役令嬢語と選択肢によって、私の生活が邪魔されるのは目に見えているわ。
今ついてきてくれているマーサや、オットーにもたくさん迷惑をかけてしまうわね。
それなら、彼らからとも離れ人里離れた地で一人で生活した方がいいんじゃない?
でも、そんな生活をあの駄女神が認めるわけがないわね。

あの女は私を悪役令嬢として、この平和な世界を引っ掻き回そうとしているのよ。
私のことなんてどうでもいいんだわ。面白ければいいのよ。
あー腹が立つ!
ふつふつと怒りがこみ上げてきたが、今の私にはどうすることも出来ない。
考えているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。

目が覚めると辺りはすでに暗くなっていた。
ベッドの上に突っ伏していたはずの私だったが、いつの間にか私の上に羽根布団が掛けられている。
オットーかマーサね。私にはもったいない人たちだわ。

そういやベッドで寝るなんて囚われてから初めてね。
自分でも気づかないほどに疲れていたのでしょう。
起きると体の節々が痛い。

部屋を出ると美味しそうな匂いが私の鼻腔をくすぐる。
あら?夕食の準備かしら。
私は匂いにつられてリビングへと向かった。

キッチンではマーサが料理の最後の仕上げをしていたところだ。
テーブルの上には、3人分の食事が並んでいる。
私の大好物のミートローフも用意されている。
きゃーさすがマーサね。良く分かっているわ!

アンポワネット家では、使用人が同じテーブルにつくことは許されていない。
今までは私たちが食事をした後、別室で食事をとっていた。
しかし、ここでは私たちは家族の設定だ。
3人一緒に食事をとることに何の問題もない。

本日のメニューはミートローフ、バゲット、マッシュポテト、パンプキンスープだ。
どれも私の大好物。さすがマーサ、抜かりはないわね。
ただ、3人そろっての食事は初めてだ。
お互いどこかぎこちない。

「ねぇ、私たちってこの後どうするの?ずっとこのままではいられないわよね?」
微妙な空気に耐えきれず、私は彼らに会話を振った。
「お嬢様、実は旦那様より毎月お金を送って頂けることになっているんです。それで当面はしのげるかと思います。
お嬢様には、騒ぎが落ち着くまでずっとこの家に閉じこもって頂きます。」

と、マーサ。

お父様はやっぱり私のことを考えてくれているんだ。それを聞くと急に泣き出したくなってくる。
でもずっと閉じこもっておけって?嫌よ。ゲームもテレビもないところでずっと閉じこもっておくなんてできないわよ。

「マーサ、お嬢様じゃないでしょ。私たち姉妹なんでしょ、だったらメリーって呼ばなくちゃね。あっ、私もマーサのことをお姉ちゃんって呼ばないと。」

「えっ、そんな恐れ多い。お嬢様のことは呼び捨てなんてしたら、後で一体何をされるか…!」
マーサ、ちょっと裏に来なさい。

「それはともかく、私はずっと閉じこもっているなんて嫌よ。退屈で死にそうになるわ。」

「お嬢…メリー、見つかればまた地下牢に入れられてしまうんですよ。あなたがまたつかまってしまうなんてマーサは耐えられません。」

マーサ、ちょっと落ち着いて。口からパンプキンスープが垂れているわよ。

「ただ、何もしないでずっと家にいるって怪しくないでしょうか?
街の人からしたら不気味だと思いますよ。」

オットー、そうよ。もっと言ってやりなさい。
いくら隠れるためだからって、ずっと閉じこもっているのなんておかしいわ。

「でも、目立つ行動をしたらすぐに見つかってしまうわよ。
それにメ、メリーも言ってたじゃない。目立ちたくないって。」

確かにバレるのも困るけど、ずっと引きこもりの生活って乙女ゲームしてた頃の私じゃない。
せっかく異世界に転生したのだから、このまま流されるだけなんて嫌。
だって駄女神に負けたみたいで悔しいじゃない。

「お店よ!お店をやるのよ!
私が何をしても、何を話してもバレないようなお店をやるのよ!」

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