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第2章 幼少期
第12話 命をかけた交渉合戦ですわ
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「迷子の娘を助けていただき、感謝していますわ。」
リーダーに深々と頭を下げる母。
ちょっと、ママン。細くカットした眉毛がつり上がっていますわよ。
「お母様、こちらの方は貧相な身なりの平民ですが、身分不相応な大変興味深い考え方をしていらっしゃいますわ。
お父様の領地経営に有益となるかもしれません。
(こちらの方の考え方は凄いのよ。お父様に是非紹介したいですわ。)」
「ふーん、そうですか。それでは娘を助けてくれたお礼をさせて頂きたいので、3日後に我が屋敷に来ては頂けないでしょうか?」
無表情でのセリフ棒読み。
お母さま怖すぎますわ。
「は、はい。喜んで伺わせていただきます。」
答えるリーダーの足はガクガクブルブル震えていた。
いつもは優しい母の豹変した態度。
一体何があったの?
「オットーもいらっしゃい。美味しいお菓子も用意しておきますわ。」
母はリーダーの息子、オットーにも声をかける。
えっ、私はお母さまに彼の名前を教えてないですよ?
「さっ、メリー帰りますわよ。」
一体母はどこまでのことを知っているんだろう?
私は悶々としたまま、アンボワネット領の中央都市モリーヤを離れたのだ。
・・・・・・・・・・・・・
3日後、今日は私たちの屋敷にリーダーとオットーが訪れる日だ。
私の目の前には見渡す限りの青空が広がり、小鳥たちが陽気に囀っている。
草花の香りが漂う庭の中央に、テーブルを用意するメイドたち。
ベテラン庭師ジャン作の動物を模したオーナメントが、絶妙なアクセントを与えているのだ。
私もマーサと2人でドレスを選び、気合をいれてコーディネート。
今回はリーダーだけではない。私にとってもプレゼンとなるのだ。
父と母はまだ部屋にいるみたい。
呼びに行ってあげようと、私は部屋へと向かった。
そこへ最近目っきり影の薄い兄アルベルトに遭遇。
満面の笑顔で私の方へ寄ってきた。
「やあ、メリー。今日も綺麗だね。
まるで闇夜に咲く黒百合のようだよ。」
えっ、それって誉め言葉のつもり?めちゃ不気味なんですけど。
ちなみに黒百合の花言葉は「復讐」ね♡
こいつ本当はケンカ売ってるんじゃないの?
ハグを求めるアルベルトのお腹に肘鉄を食らわし、お父様の部屋に向かう私。
「父上は今来客中なんだ。」
お腹を押さえてうずくまるアルベルトの、弱々しいメッセージが聞こえてきた。
お父様の部屋の前。
ガチャリと音がして、男性兵士が部屋から出てきたのだ。
この男性は父の親衛隊隊長のダントン。
主従関係だけでなく、お父様とはプライベートでも一緒にいることも多いようだ。
私も何度も屋敷で彼を見かけている。
「お嬢様、先日は強烈な投げ技をありがとうございました。
お強くなられて、このダントン感無量でございます。」
えっ、何のこと?
あれっ、そう言えば私が連れ去られた時に壁に投げつけた男が、ダントンに似てたような…。
えっ?ええっ?
「そろそろ、ヴィクトール様と奥方様のご準備が整うようです。私たちは先に参りましょう。」
げっ、あんたも来るの?
お父様とお母様、一体何を考えていらっしゃるの?
・・・・・・・・・・・・
私、父、母、リーダー、オットーが揃った所で、歓迎のお茶会という名のプレゼンが始まった。
依頼者からの依頼を斡旋して登録者に紹介する仲介事業についてだ。
実はリーダーが私を誘拐しようとしたことは、ダントンを通して両親には報告済み。
このプレゼンが上手くいかなければ、2人を始め手下たちも皆処刑されてしまうだろう。
このお茶会は非常に重要な交渉の場なのだ。
事前に打ち合わせした以上に、リーダーは上手く説明できているようだ。
オットーと最後の最後までプレゼンの練習をしたのだろう。
父と母もリーダーの話に耳を傾けている。
これは上手くいきそうだ。そう思い始めたところだった。
リーダーの話をずっと聞いていたお父様が口を開いた。
「この事業内容はよく出来ている。これは君1人が考えたのかな?」
お父様、クールに決めていますがよだれの跡がついていますわよ。
実はちょっと寝てたでしょ?
「私もこの内容には概ね賛成です。領民のことをよく考えていらっしゃいますわ。」
お母さま、口元にクッキーの食べカスが付いてますわよ。
ちょっと、ダントン。そこで笑いを堪えないで。
「はい、メリーお嬢様のご意見もいただきました。とても聡明なお嬢様ですね。」
そこで私の名前を出さなくてもいいの。
お父様、そこでドヤ顔をしない!
「正直でよろしい。この内容なら出資するのは問題ないだろう。」
リーダー、オットーの顔がほころぶ。
彼らは自分の力でプレゼンを勝ち取ったのだ。
しかし、次の瞬間彼らの顔は真っ青になった。
「一つ質問があるがいいかね?君はメリーとどのように知り合ったのだ?
妻に聞くとメリー買い物の途中だったそうじゃないか?」
一瞬でピーンと空気が張りつめる。
父が本当に聞きたかったのは、すでに周知の事実についてリーダーがどう答えるのかだったのだ。
「その質問には私がお答えしますわ。
この下賤な者たちは、レア商品を探すあまり帰り道を見失ってしまった私に・・・。」
説明しようとする私を手で遮った父。
「メリーちゃん、少し黙っててくだちゃいね。」
赤ちゃん言葉で、父が私を制止する。
その瞬間、別の意味でもピーンと空気が張りつめたのだ。
「さて、一体どのように知り合ったのだ?」
父はおかしな空気を払拭するように、再度リーダーに質問をした。
その眼は冷たく、先ほどまでの和やかな雰囲気は一変した。
「どうなんだ?」
父がリーダーに再度回答を迫る。
「実は私はお嬢様を誘拐しようとしておりました。
お嬢様を誘拐し、旦那様に出資費用を迫ろうと思ったのです。」
「ほう。」
父の眉がわずかに上がる。
「ただ、それが間違いだとお嬢様に気づかされました。お嬢様の強さ、勇気、そして聡明さを目の当たりにし、私は自身の過ちに気付いたのです。」
「ふむ、それが本当ならお前たち皆処刑せんといかんな。
我が領地で誘拐は死罪と決めておる。」
父の声は低く、有無を言わさぬ迫力が感じられる。
「でも、僕たちを処刑すると事業は上手くいかないよ?」
ここで口を開いたのがオットーだ。
7歳の男の子だが、大人顔負けの頭脳を持つ。
この仲介事業の内容についても、ほとんど考えたのがオットーだ。
親に似ず、ジャ〇ーズ系の甘いマスク。
私の推しメンの1人なのだ。
「オットー、上手くいかないという君の根拠を述べてみよ。」
オットーに質問した父は、先ほどまでの冷たい表情ではなかった。
「ヴィクトール様、そんなの簡単だよ。
僕らが平民だからさ。」
「どういうことだね?」
「僕らを処刑した後に、貴族様や役人様にこの事業を引き継がそうとするだろ?
そうすると依頼者が集まらないよ。
だって、貴族様に仕事をお願いする平民っていないだろ?
登録者だってそうだよ。受付担当者が貴族様だと平民の登録者は委縮してしまうのさ。」
「ふむ。確かにそうかも知れぬ。門戸を広げるという意味でも平民の方が適任かもしれんな。」
あのお父様を言い負かせている。やっぱりこの子は凄い。
ジャ〇ーズ系だし。
「それにこの事業はもっと伸びるよ。アンポワネット領だけじゃなくて、王国全体に広がると思う。
ここで僕らを処刑すると絶対に後悔するよ。」
オットーの発言に一瞬きょとんとなる父。
次の瞬間、父は大きな声で笑い始めた。
「フハハハハハハ、あい、わかった。そなたに免じて処刑は取りやめよう。
お前たちはみんな無罪だ。事業も進めてくれたまえ。」
これで上手くいくかと思ったが、実は意外な伏兵がいた。
「私はまだ許した訳ではなくってよ。」
母だ。手に取っていた紅茶をグイッと飲み干し、オットーの方に振り向いた。
「オットー、あなたメリーの専属執事になりなさい。これが私からの条件よ。」
リーダーに深々と頭を下げる母。
ちょっと、ママン。細くカットした眉毛がつり上がっていますわよ。
「お母様、こちらの方は貧相な身なりの平民ですが、身分不相応な大変興味深い考え方をしていらっしゃいますわ。
お父様の領地経営に有益となるかもしれません。
(こちらの方の考え方は凄いのよ。お父様に是非紹介したいですわ。)」
「ふーん、そうですか。それでは娘を助けてくれたお礼をさせて頂きたいので、3日後に我が屋敷に来ては頂けないでしょうか?」
無表情でのセリフ棒読み。
お母さま怖すぎますわ。
「は、はい。喜んで伺わせていただきます。」
答えるリーダーの足はガクガクブルブル震えていた。
いつもは優しい母の豹変した態度。
一体何があったの?
「オットーもいらっしゃい。美味しいお菓子も用意しておきますわ。」
母はリーダーの息子、オットーにも声をかける。
えっ、私はお母さまに彼の名前を教えてないですよ?
「さっ、メリー帰りますわよ。」
一体母はどこまでのことを知っているんだろう?
私は悶々としたまま、アンボワネット領の中央都市モリーヤを離れたのだ。
・・・・・・・・・・・・・
3日後、今日は私たちの屋敷にリーダーとオットーが訪れる日だ。
私の目の前には見渡す限りの青空が広がり、小鳥たちが陽気に囀っている。
草花の香りが漂う庭の中央に、テーブルを用意するメイドたち。
ベテラン庭師ジャン作の動物を模したオーナメントが、絶妙なアクセントを与えているのだ。
私もマーサと2人でドレスを選び、気合をいれてコーディネート。
今回はリーダーだけではない。私にとってもプレゼンとなるのだ。
父と母はまだ部屋にいるみたい。
呼びに行ってあげようと、私は部屋へと向かった。
そこへ最近目っきり影の薄い兄アルベルトに遭遇。
満面の笑顔で私の方へ寄ってきた。
「やあ、メリー。今日も綺麗だね。
まるで闇夜に咲く黒百合のようだよ。」
えっ、それって誉め言葉のつもり?めちゃ不気味なんですけど。
ちなみに黒百合の花言葉は「復讐」ね♡
こいつ本当はケンカ売ってるんじゃないの?
ハグを求めるアルベルトのお腹に肘鉄を食らわし、お父様の部屋に向かう私。
「父上は今来客中なんだ。」
お腹を押さえてうずくまるアルベルトの、弱々しいメッセージが聞こえてきた。
お父様の部屋の前。
ガチャリと音がして、男性兵士が部屋から出てきたのだ。
この男性は父の親衛隊隊長のダントン。
主従関係だけでなく、お父様とはプライベートでも一緒にいることも多いようだ。
私も何度も屋敷で彼を見かけている。
「お嬢様、先日は強烈な投げ技をありがとうございました。
お強くなられて、このダントン感無量でございます。」
えっ、何のこと?
あれっ、そう言えば私が連れ去られた時に壁に投げつけた男が、ダントンに似てたような…。
えっ?ええっ?
「そろそろ、ヴィクトール様と奥方様のご準備が整うようです。私たちは先に参りましょう。」
げっ、あんたも来るの?
お父様とお母様、一体何を考えていらっしゃるの?
・・・・・・・・・・・・
私、父、母、リーダー、オットーが揃った所で、歓迎のお茶会という名のプレゼンが始まった。
依頼者からの依頼を斡旋して登録者に紹介する仲介事業についてだ。
実はリーダーが私を誘拐しようとしたことは、ダントンを通して両親には報告済み。
このプレゼンが上手くいかなければ、2人を始め手下たちも皆処刑されてしまうだろう。
このお茶会は非常に重要な交渉の場なのだ。
事前に打ち合わせした以上に、リーダーは上手く説明できているようだ。
オットーと最後の最後までプレゼンの練習をしたのだろう。
父と母もリーダーの話に耳を傾けている。
これは上手くいきそうだ。そう思い始めたところだった。
リーダーの話をずっと聞いていたお父様が口を開いた。
「この事業内容はよく出来ている。これは君1人が考えたのかな?」
お父様、クールに決めていますがよだれの跡がついていますわよ。
実はちょっと寝てたでしょ?
「私もこの内容には概ね賛成です。領民のことをよく考えていらっしゃいますわ。」
お母さま、口元にクッキーの食べカスが付いてますわよ。
ちょっと、ダントン。そこで笑いを堪えないで。
「はい、メリーお嬢様のご意見もいただきました。とても聡明なお嬢様ですね。」
そこで私の名前を出さなくてもいいの。
お父様、そこでドヤ顔をしない!
「正直でよろしい。この内容なら出資するのは問題ないだろう。」
リーダー、オットーの顔がほころぶ。
彼らは自分の力でプレゼンを勝ち取ったのだ。
しかし、次の瞬間彼らの顔は真っ青になった。
「一つ質問があるがいいかね?君はメリーとどのように知り合ったのだ?
妻に聞くとメリー買い物の途中だったそうじゃないか?」
一瞬でピーンと空気が張りつめる。
父が本当に聞きたかったのは、すでに周知の事実についてリーダーがどう答えるのかだったのだ。
「その質問には私がお答えしますわ。
この下賤な者たちは、レア商品を探すあまり帰り道を見失ってしまった私に・・・。」
説明しようとする私を手で遮った父。
「メリーちゃん、少し黙っててくだちゃいね。」
赤ちゃん言葉で、父が私を制止する。
その瞬間、別の意味でもピーンと空気が張りつめたのだ。
「さて、一体どのように知り合ったのだ?」
父はおかしな空気を払拭するように、再度リーダーに質問をした。
その眼は冷たく、先ほどまでの和やかな雰囲気は一変した。
「どうなんだ?」
父がリーダーに再度回答を迫る。
「実は私はお嬢様を誘拐しようとしておりました。
お嬢様を誘拐し、旦那様に出資費用を迫ろうと思ったのです。」
「ほう。」
父の眉がわずかに上がる。
「ただ、それが間違いだとお嬢様に気づかされました。お嬢様の強さ、勇気、そして聡明さを目の当たりにし、私は自身の過ちに気付いたのです。」
「ふむ、それが本当ならお前たち皆処刑せんといかんな。
我が領地で誘拐は死罪と決めておる。」
父の声は低く、有無を言わさぬ迫力が感じられる。
「でも、僕たちを処刑すると事業は上手くいかないよ?」
ここで口を開いたのがオットーだ。
7歳の男の子だが、大人顔負けの頭脳を持つ。
この仲介事業の内容についても、ほとんど考えたのがオットーだ。
親に似ず、ジャ〇ーズ系の甘いマスク。
私の推しメンの1人なのだ。
「オットー、上手くいかないという君の根拠を述べてみよ。」
オットーに質問した父は、先ほどまでの冷たい表情ではなかった。
「ヴィクトール様、そんなの簡単だよ。
僕らが平民だからさ。」
「どういうことだね?」
「僕らを処刑した後に、貴族様や役人様にこの事業を引き継がそうとするだろ?
そうすると依頼者が集まらないよ。
だって、貴族様に仕事をお願いする平民っていないだろ?
登録者だってそうだよ。受付担当者が貴族様だと平民の登録者は委縮してしまうのさ。」
「ふむ。確かにそうかも知れぬ。門戸を広げるという意味でも平民の方が適任かもしれんな。」
あのお父様を言い負かせている。やっぱりこの子は凄い。
ジャ〇ーズ系だし。
「それにこの事業はもっと伸びるよ。アンポワネット領だけじゃなくて、王国全体に広がると思う。
ここで僕らを処刑すると絶対に後悔するよ。」
オットーの発言に一瞬きょとんとなる父。
次の瞬間、父は大きな声で笑い始めた。
「フハハハハハハ、あい、わかった。そなたに免じて処刑は取りやめよう。
お前たちはみんな無罪だ。事業も進めてくれたまえ。」
これで上手くいくかと思ったが、実は意外な伏兵がいた。
「私はまだ許した訳ではなくってよ。」
母だ。手に取っていた紅茶をグイッと飲み干し、オットーの方に振り向いた。
「オットー、あなたメリーの専属執事になりなさい。これが私からの条件よ。」
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