上 下
3 / 70
第1章 悪役令嬢に転生

第3話 転生しちゃいましたわ

しおりを挟む
メリー・アンポワネットとして転生してから5年が経った。
私はアイゼンベルグ王に仕えるアンボワネット侯爵の娘。
10数人の召使を抱える大きなお屋敷に、両親と兄と住んでいる。
いわゆる私は侯爵令嬢なのだ。

ブロンドのふわふわヘアーに、翡翠石のように青みがかったパッチリとした瞳。
卵のようなつるつるの肌は、転生前の私には決して無かったものだ。

たとえ5歳児といえど貴族の娘の一日は意外と忙しい。
連日の礼儀作法の練習に、読み書きの授業、一般常識の勉強に護身術の訓練まである。
鼻を垂れながら男の子と走り回っていた、前世の子供の頃とは大違いだ。

午後からは魔法の練習。
この世界には魔法というものが存在する。
魔法が使用できるのは貴族や王族だけらしい。
魔法は火、水、氷、風、土、光、闇の7属性が存在し、精霊の力を借りて魔法を発現するようだ。
属性は家ごとに決まっており、通常は1属性しか扱えないらしい。
アンボワネット家固有の属性は風魔法で、私も5歳になるとすぐに風魔法の訓練を受けさせられるようになった。

ここまでは他の令嬢とあまり変わらないが、私はある点で他の令嬢とは異なっていた。
そう、私は生まれながら悪役令嬢語しか話せないのだ。

私が話す言葉の全てが悪役令嬢語に変換される。
言い換えれば、私はお上品な嫌味しか言えないのだ。

(あっ、丁度良い所にドジっ子メイドのマーサが来たわ。
お父様に言われたのかしら、顔が隠れるほどの本を持って歩いているわね。
ちょっと手伝ってあげようかな。)

マーサも私に気付いたみたいだ。
私に声をかけようとした瞬間に、持っていた本を床に全部落としてしまった。

「何をしてらっしゃるの?お父様の大事な本を落とすなんて!あなたよりも価値がある本ばかりなのよ!(大丈夫マーサ?。ケガはなかった?)」

私の発言にビクッとするマーサ。
違うのよ。私はあなたを心配してるのよ。

「も、申し訳ございません、お嬢様!お怪我はございませんでしたか?」

「私がケガをしたらどうなさるおつもりでしたの?もういいわ、行ってちょうだい。(私は大丈夫よ。ありがとうマーサ)」

このように私は本音が全て悪役令嬢語に変換される。
ツンデレなんて生易しいものじゃない。
デレさせてくれないのだ。
残念な女神の悪意しか感じられない。
私はこの特殊能力を使って、異世界初の悪役令嬢になるのが義務付けられているのだ。

あの駄女神いつか泣かせてやる!


・・・・・・・・・・・


私には二人の兄がいる。
長男のヨゼフィスは、私よりも3つ年上だ。
金髪ブロンドのストレートヘアで、妹から見てもウットリするほどの美形だ。

ああ、誰にも邪魔されずお兄様だけを見ていたい♡

将来は騎士団に入団することを目標としており、毎日の剣の鍛錬は欠かさない。
その上、社交的で誰に対しても優しく、彼の女の子たちの評判が良いようだ。

イケメンで強くて、性格がいいって最強じゃないでしょうか!

駄女神のせいで本音を癒えない私にも、優しく接してくれる数少ない人物だ。

もう一人の兄アルベルトは、私の1つ年上だ。
同じくブロンドヘアーの少年で、逞しい体つきのヨゼフィスと比べ線の細い美少年といった印象だ。
長男のヨゼフィスと違い病弱で、頻繁に流行り病を患ってしまう。
ただ、いくら生死を彷徨うような病気を患っても次の日にはケロッとしている。
本当に病弱かどうかも怪しいもんだ。

彼は超がつくほどシスコンで、いつも私にべったりとくっついて気を惹こうとする。
はっきり言って超うざい!
私の悪役令嬢語どころか、本気の嫌味に対しても全く動じないのない鋼のハートの持ち主なのだ。
機会があれば、口いっぱいに梅干をねじ込んでやりたい。

私の母、モリアはブロンドヘアが似合う美しい女性だ。
やや?かなり?ぽっちゃり系で、社交界ではおデブ淑女と陰口を叩かれている。
普段はあまり気にしていないようだが、パーティ等に参加する時は1時間以上かけてコルセットと挌闘している。
お肉をぎゅうぎゅう詰めにしたその姿は、焼き目を付ければ香ばしそうだ。
ただ、私はその域まで達していないので、可能な限り自分の体型は維持したいと思う。

母は見た目通りおおらかな性格で、私の悪役令嬢語にも気にする様子もない。
むしろ私がどんな悪役令嬢語を話すかと楽しみにしている兆しがある。
それが彼女なりの愛かどうか分からないが、私にとっては救いなのだ。

父は私たちが住むアイゼンベルグ王国と、隣国ヴェネパール王国をつなぐ外交官のような仕事をしている。
そのため家に帰ってくることがほとんどなく、大半はヴェネパール王国で暮らしている。
父はアイゼンベルグ王のお気に入りで、外交官の枠を超えた仕事まで任せられているらしい。

離れて暮らしてはいるがとても家族思いであり、月に一度は一人一人に手紙を送ってくる。
たまに帰ってくるときは大量のお土産を従者に持たせるので、ぎっくり腰になった従者が後を絶たないという。
それでも私たちは父が帰ってくるのをいつも心待ちにしていた。

ただ、子供の前で母とイチャつき過ぎるのは精神衛生上良くないので、ほどほどにしてくださいませ。

こんな個性的な家族に囲まれたら、私の悪役令嬢語なんて目立たない。
私が何を言ってもこの家族は笑って許してくれるのだ。
このままここに住めれば、私は幸せに暮らせるでしょう。
ただ、そんな展開にあの駄女神が満足するはずもなく、私はある日王太子殿下と運命の出会いをしてしまうのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...