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始まりの始まり
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あれは、俺がまだ高校の教師になっておらず、教員採用試験の勉強をしていた頃だ。
俺の住むアパートから見下ろしたところに小さな公園がある。公園と言っても、ブランコと滑り台しかない小さな小さな公園だ。
普段人が全く来ない公園で誰かが走っている音が聞こえる。俺は、窓から公園を見下ろす。すると、小学六年生くらいの少女が1人、汗を流して走っていた。長くても、10分くらいだと思っていたが、少女は1時間以上ずっと走り続ける。それが、昼ならまだいいだろう。しかし、その時は深夜一時頃だった。
1週間後も走っていたので、俺はなんで深夜に走っているのか尋ねてみた。
「おい、そこのガキ。」
「すっ、すみませんっ!」
俺の言い方が悪かったのだろうか?いや、それにしても怯えすぎていた。肩が異様な程に小刻みに震えていた。俺は、少女に謝る。
「すまん。別に怒ろうって思ったわけじゃねえ。」
「…?」
少女は、今まで下を向いていたのだが、俺の方を見上げる。
そして、その時俺は、初めて気づいた。少女の身体だけでなく、顔にもある痣に。
「お前、なんでこんな夜中に1人で1時間以上も走ってんだ?」
「…もうすぐ運動会で、そのっ私、足遅くて…皆に迷惑かけないようにって思って…です。」
謝ったときは、すごくなれた敬語だったのだが、普通の会話は慣れていないようだった。敬語が、おかしかった。
「お前、クラスメイト想いなんだな?運動会ごとき適当にやればいいだろ?」
「もし、私が足ひっぱったらイジメがもっと酷くなるからです。」
「その痣は、クラスメイトにやられたのか?」
少女は、再び下を向く。
「うっ、うん…です。」
俺は、冷ややかに言う。
「嘘だな。今の餓鬼がそんな痣が出来るようなイジメするわけねーだろ。お前、親から虐待されてんだろ。その虐待から逃げるために深夜に走ってんだろ。」
少女の目から、涙がこぼれる。そして、大声で泣きそうになった時、俺は言った。
「俺の部屋、来るか?」
自分でもどうしてそんな事を言ったのか、分からない。少女は、頷く。それを見て、俺は急いで階段をかけ降りる。
「はあ、はあ。」
流石に階段をかけ降りるのは、疲れた。乱れた息を整え、俺は少女に言った。
「来いよ。」
少女は、小さく頷く。
少女の小さな手を握り、階段を上ってるときに感じたのだが、少女の手は凄く冷たかった。
「お前、痣の手当とか、してんのか?」
「…してない…です。」
「そっか。じゃあ、手当の仕方教えてやるよ。」
「…こっ、こういう時なんて言えばいいの?…です。」
少女は、〖ありがとう〗という言葉を知らなかった。考え直せば、当たり前かもしれない。イジメを受け、唯一の救いである両親からも虐待を受けて、どこにありがとうをいう場所があるだろうか。
俺は、笑う。
「ありがとうって言えばいいんだよ。」
「あっ、ありがとう!です。」
少女は、嬉しそうに笑う。俺は、その少女の笑顔を見て、いい教師になろうと決意した。
「俺と一緒に住むか?」
「そんな方法あるの?」
「あるさ。児童相談所にお前が、親から虐待されてる事言えばいいんだよ。」
「…でも、私…お母さんとお父さんが私に暴力振るうことで幸せならそれでいい…です。それで…いいのっ(泣」
少女は、俺に迷惑かけないためなのか声を挙げずに泣いた。
「じゃあ、もし辛くなったら、俺のとこに逃げてこい。助けてやる!」
少女は、嬉しそうに頷く。
「うん。うん。ありがとう、ありがとう、ありがとう…」
少女は、覚えたばかりのありがとうを何度も言った。
そして、俺はその二年後に高校教師になった。
しかし、少女を初めて家に招いた時以来、少女は来なかった。
俺の住むアパートから見下ろしたところに小さな公園がある。公園と言っても、ブランコと滑り台しかない小さな小さな公園だ。
普段人が全く来ない公園で誰かが走っている音が聞こえる。俺は、窓から公園を見下ろす。すると、小学六年生くらいの少女が1人、汗を流して走っていた。長くても、10分くらいだと思っていたが、少女は1時間以上ずっと走り続ける。それが、昼ならまだいいだろう。しかし、その時は深夜一時頃だった。
1週間後も走っていたので、俺はなんで深夜に走っているのか尋ねてみた。
「おい、そこのガキ。」
「すっ、すみませんっ!」
俺の言い方が悪かったのだろうか?いや、それにしても怯えすぎていた。肩が異様な程に小刻みに震えていた。俺は、少女に謝る。
「すまん。別に怒ろうって思ったわけじゃねえ。」
「…?」
少女は、今まで下を向いていたのだが、俺の方を見上げる。
そして、その時俺は、初めて気づいた。少女の身体だけでなく、顔にもある痣に。
「お前、なんでこんな夜中に1人で1時間以上も走ってんだ?」
「…もうすぐ運動会で、そのっ私、足遅くて…皆に迷惑かけないようにって思って…です。」
謝ったときは、すごくなれた敬語だったのだが、普通の会話は慣れていないようだった。敬語が、おかしかった。
「お前、クラスメイト想いなんだな?運動会ごとき適当にやればいいだろ?」
「もし、私が足ひっぱったらイジメがもっと酷くなるからです。」
「その痣は、クラスメイトにやられたのか?」
少女は、再び下を向く。
「うっ、うん…です。」
俺は、冷ややかに言う。
「嘘だな。今の餓鬼がそんな痣が出来るようなイジメするわけねーだろ。お前、親から虐待されてんだろ。その虐待から逃げるために深夜に走ってんだろ。」
少女の目から、涙がこぼれる。そして、大声で泣きそうになった時、俺は言った。
「俺の部屋、来るか?」
自分でもどうしてそんな事を言ったのか、分からない。少女は、頷く。それを見て、俺は急いで階段をかけ降りる。
「はあ、はあ。」
流石に階段をかけ降りるのは、疲れた。乱れた息を整え、俺は少女に言った。
「来いよ。」
少女は、小さく頷く。
少女の小さな手を握り、階段を上ってるときに感じたのだが、少女の手は凄く冷たかった。
「お前、痣の手当とか、してんのか?」
「…してない…です。」
「そっか。じゃあ、手当の仕方教えてやるよ。」
「…こっ、こういう時なんて言えばいいの?…です。」
少女は、〖ありがとう〗という言葉を知らなかった。考え直せば、当たり前かもしれない。イジメを受け、唯一の救いである両親からも虐待を受けて、どこにありがとうをいう場所があるだろうか。
俺は、笑う。
「ありがとうって言えばいいんだよ。」
「あっ、ありがとう!です。」
少女は、嬉しそうに笑う。俺は、その少女の笑顔を見て、いい教師になろうと決意した。
「俺と一緒に住むか?」
「そんな方法あるの?」
「あるさ。児童相談所にお前が、親から虐待されてる事言えばいいんだよ。」
「…でも、私…お母さんとお父さんが私に暴力振るうことで幸せならそれでいい…です。それで…いいのっ(泣」
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「じゃあ、もし辛くなったら、俺のとこに逃げてこい。助けてやる!」
少女は、嬉しそうに頷く。
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少女は、覚えたばかりのありがとうを何度も言った。
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しかし、少女を初めて家に招いた時以来、少女は来なかった。
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