異世界転生は突然に

水晶

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「ふわぁぁぁ~」

大あくびをしながら、起き上がる。

 辺りを見渡しても、昨日と風景は変わっていない。

「夢じゃなかったか・・・」

僕はがっくりと項垂れた。

 正直な所、まだこの状態を信じていなかった。分かっているようで、頭の奥では分かっていなかった、という感じだろうか。改めて夢じゃないと突き付けられると、ショックが大きい。夢なら良かったのに。

 グダグタ言ってもしょうがないのだが、言わずにおれない。

 隣を見ると、やはり泉はあった。

「良かった、これが夢だったら大変だった」

独り言を言いながら、昨日のように手ですくって飲んだ。

 この状態は夢であって欲しいと思うのに、泉を見た途端にころっと意見を変える僕。我ながら単純だ。昔からではあるけども。

 やはり、泉の水は美味しかった。でも、水っ腹になるだけで、昨日ほどの満腹感はない。

 これは早急に、食べ物を探す必要があるな。さもないと、生まれ変わったと思われるこの世界で、もう一回死んでしまうことになる。そんなのはごめんだ。

 水を入るだけ体の中に入れた後で、僕は再び歩き始めた。

 てくてく、てくてく。

 昨日より、更に涼しい感じがする。昨日は暑くもなく寒くもなくだったが、今日は結構風が強いからだろうか、かなり涼しい。ただ、相変わらず世界に音がないのが気になるが。いつになったら、この世に音は出来るのか?

 そういえば、昨日から自分の声すらも耳に入らない。独り言を言っても、頭で何かを言ったと認識していても、耳には入ってこない。

 なぜだ?難聴者になったとか?そういうわけでもなさそうな感じなんだがな・・・。ますます、謎は増えるばかりだ。

 本当にここはサバンナなのだろうか。そうしたら必ずといっていいほど家はないはず。木とかを探すしかないのだろうか。食べ物を手にいれるのも大変そうだ。

 転移したのに苦労させる気か、神よ。神なんていないかもしれないが。転移の原因てか僕を転移された人もまだ謎だし。あの機械な気はするけど。
 気がつくと、太陽が真上に登っていた。さっきの時点でもう真上ちょっと前だったしな。起きる時間がどんどん遅くなってる気がする。体内時計壊れそうだな。

 もう昼か。確かに、少しお腹が減ってきた。起きてからそんなに時間経ってないけど。朝ご飯水だったし。食べるもの、どこかにないか・・・?

 歩きながらきょろきょろ探してみるが、特に食べられそうな木の実などは見つからない。泉もこの辺りにはないようだ。

 どうしよう。

 とりあえず、歩くか。ここにいても、何か変わるわけではないだろう。むしろ、飢え死にしてしまう可能性が高くなる。いや、てか歩くしかないし。

 てくてく、てくてく。

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 乾きが限界に達し始め、太陽がだいぶ傾いたかと目で見てわかるぐらいになってきたとき。

 急に、目の前に緑が開けた。

「はぁ?」

一瞬僕が驚きで固まってしまったのも、無理はないと思って欲しい。それは本当に突然だったのだ。

 さっきまで何もなかったような所に、オアシスが広がっている。こんこんと音を立てて湧いていそうな泉、目が痛いくらいキラキラと輝く緑の葉。大きくのびあがった木は、足元に涼しげな影を作っている。下も芝生で、まるでクッションのようだ。数十本はあるだろうか、立ち並ぶ木々には所々実が付いているものがある。林檎のような形。見た目からも熟れていると分かる。すごく美味しそうだ。

 驚きの余り、若干腰が抜けてへたり込んでしまった僕の足を、芝生がふわふわとくすぐった。

 背後を振り向くと、やっぱり見渡す限りの草原。正面に向き直ると、オアシス。草の質まで変わっている。この矛盾した環境に、僕の頭が適応するまでには、かなり時間がかかった。

 やっとまともに立てるようになって僕は、まず泉に近付いた。下を覗き込んでみると、底まで見通せるぐらい透き通っている。下の方には、メダカのような小さな魚が、群れになってスイスイ泳いでいる。水面が太陽の日光を反射して、かなり眩しかった。

 気が付けば、勝手に手が水をすくっていた。無意識のままごくりと飲む。

 すごく、美味しかった。

 昨日の泉の水も美味しかったが、ここの水は全然違う。こっちの方が、格段に美味しい。水自体に味が付いているようだった。冷たく、飲んでいるだけで歩いていた疲れがすっと引くのを感じた。僕はすっかり夢中になって、まるで一口ごとに美味しくなっていくような水を、思う存分堪能した。

 自分でも思っていたより喉が乾きすぎていたのか、休憩しながら飲むうちに、夕焼けが空を染め始めていた。

 茜色の空を見上げながら、僕はまた思った。これからどうしよう・・・と。

 とりあえず、暫くここのオアシスにとどまるか。水も食べ物も、頑張ったら魚も取れるだろうから結構何でも揃っている。ここを動く理由といえば、人や村を探すぐらいのものだ。しかし、このオアシスはかなり大きい。知っている人は知っているだろう。ここでずっと待っていたら、いつかは人が訪れて、どこかへ連れて行って保護してくれるかもしれない。一応、こんななりだしな・・・。僕は自分の体を見下ろした。 

 やっぱりぷにぷにでむちむちの、幼児体型だ。だが気のせいだろうか、昨日目覚めた時よりは心なしか痩せた気がする。やはり、結構長い距離を歩いたからか?

 そういや全然意識してなかったが、体中の垢がすごいことになっている。昨日も、体を洗ったりはしなかったからな。無理もないだろう。

 せっかく泉があるんだ、行水でもするか。

そう思った僕は、まずちょうどいい大きさの入れ物を探した。水を入れて、洗面器のように使う為だ。さすがに手では、何時間かかっても終わりはすまい。

 なかなか見つからなくて、少し小さめだが使えそうなココナッツの殻のようなものを見つけた頃には、辺りが少し薄暗くなっていた。

 泉から殻で満杯に水をすくい、少し離れた所で体を擦りながら流した。少々感触が嫌な感じだが、ボロボロ取れていく爽快感はある。きっと足元の水はすごい色になっているだろう。

 何度か汲みに行っては、流した。この作業を繰り返すうちに、辺りはもう真っ暗だ。

 その代わり、体はすごく綺麗になった。見えないから分からないが、 感覚がそう告げている。取り損ねたところは、明日朝一で取るしかないな。もう、細かいところは全然見えないから。

 手探りで脱いだ服を着なおし、流れた水の所を避けて僕は寝転がった。昨日は気付かなかったが、夜の空は満天の星に覆われている。たくさんの砂粒のような光は、不思議と僕を安心させてくれた。

 ふわりと眠気が僕を襲う。身を任せ、意識を手放した。

ーーー2日目は、こうして終わった。
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