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1話

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やっと・・・やっとだ!!!

『プログラムのインストールが完了しました。起動しますか?』

目の前にメッセージが現れる。俺は震える手でマウスを操作し、『OK』をクリックした。
 とたん、目の前に眩しいくらいの白い光が広がった。

『ようこそ、VRMNO【アリアナ】へ』

 一面の白い世界から聞こえてきた機械音は、俺が数ヶ月待ち焦がれた、予告ムービーで飽きるほど聞いた音だった。



 約1年前。

 日本に初めて、アメリカからVRMNOが上陸した。
 最新式らしいそれは、高い値段と引き換えに、最高の画質と音質を提供するらしい。従来のヘッドセットとは異なり、専用のヘッドホンと専用のサングラスの軽い装置で済むとか。

 5年くらい前からニートをやっていた俺は、もちろんそれを入手しようとした。アメリカから違うVRMNOをわざわざ取り寄せ、そのためだけに英語をマスターしたほどだ。やらないほうがおかしい。

 しかし。

「すみません、お客様の口座の残高が少なすぎるため振り込みは不可能です」

銀行で担当の受付嬢に頼むと、バカにしたような目でこっちを見ながら吐き捨てられた。

 口座の中に残っているのは、わずか5万。
 専用のサングラスすら買えやしない。
 死んだ両親に仕送りを期待できるはずもなく、金を借りられるめどはさっぱり立たなかった。

 俺は焦った。
 日本に上陸してきた会社が、半年前くらいに公開した予告ムービーでこう広告していたのだ。

『初回限定版は、お値段は上がりますがパソコンと特別ストーリーがついてきます』

と。

 俺はもともと、《限定》とか《特別》という言葉に弱い。買い物に行ってその店限定のパンとか飲料とかを見つけると、ついつい買ってしまうほうだ。限定フェアとか、安売りとかも同様。

 そんな俺が、特別ストーリーと聞いて欲しくならないわけがない。

 パソコンは別にどうでもよかった。自分のを持っているし、容量は十分に残っていたからだ。

 だが、特別ストーリーはどうしても気になる・・・!
 悩んだ俺は、1つの決断を下した。

『ニートを辞めよう』

 散髪屋に行き、伸ばしっぱなしだった髪を切った。履歴書を書いて、とりあえず有名なバーガーショップ・マ◯ドのアルバイトを始めた。
 手際がいい、器用だと小さい頃から結構な割合で言われてきたのが生きたのだろうか。最初は使えない使えないと店長に怒鳴られまくったが、次第に認められるようになり、厨房の下働きからみんなを仕切る立場にまで1ヶ月で上り詰めることができた。
 店長や時々見にくるお偉いさんに気に入られ、普通の人より給料も上げてもらえることにもなった。

 こつこつ働き、地道に金を貯めると、5ヶ月くらいで初回限定版がぎりぎり買えるくらいの値段になった。
 ・・・もちろん、すぐにネットで調べた。
 Ama◯onで調べてみると、在庫がラスト3個になっていた。ギリギリセーフだった。もう少し遅かったら、無くなっていたかもしれない。

 申し込んでいる間に売れたら困るので、速攻で申し込んだ。焦りすぎて、途中で何度もマウスから手が滑り落ちた。運動したわけでもないのに動悸が激しく、汗がだらだら流れた。こんなに緊張したのはいつぶりだろうかと思った。

 無事に申し込み終えると、無意識に安堵のため息が漏れた。一気に気が緩み、ずるずると椅子の背もたれに倒れこんだ。そして、思った。

『この後、どうしよう』

初回限定版を手に入れるということしか考えていなかったことに今更気づいた。
 せっかく軌道に乗り始めたバイトをここで辞めてしまうのももったいない。でも、欲しかったものを手に入れた今、バイトしても何にもならない。VRMNOの中に入ってしまえば、満腹度や給水度はそっちで換算されるため、現実で飲み食いしなくてもよくなるのだ。現実の金を貯めたところで何になる?

 無意識にユー◯ューブを開き、もう何千回と見た予告ムービーを再生していた。『こうだったらいいよなぁ・・・』という願望は、『早く届かないか・・・』と切に願う気持ちに変化していた。

 そのままあちこちのサイトををぶらついていると、気になるサイトが出てきた。

『VRMNO【アリアナ】攻略板!みんなでアリアナを語ろう!』

作られてまだ10日しか経っていないようだが、かなりたくさんの人がアクセスしたようだ。サイトの作成者は、《創始者》となっている。

「何だよ、創始者って・・・。よっぽどのゲーマーか?」

呟きつつサイトを開くと、どどんと青い文字が飛び出てきた。

『アクセス数:5億6546万9638』

『先行者、第48層に到達!』

1番大きい文字2つは、こんな感じだった。もう48層まで行ったのか・・・。

 アリアナは、たくさんの人と競い合うことで自分を高める戦闘系ゲームだ。人同士で戦う《デュエル》の他にも、NPCや自分のためにアイテムなどを集める《依頼系クエスト》、モンスターと戦う《討伐系クエスト》がある。
 《デュエル》には戦績や勝利ポイントがあって、ポイントが一定の数を超えると次の層へ行けるようになる。層を上がるほどアイテムやモンスターの質も上がるので、強い装備を作るためとか耐性をつけるためとかで、上へ上がりたいと思う人は多い。のんびりと自分のペースでプレイして、少しずつ強くなっていこうとか思う人もたまにはいるみたいだが。
 まぁ、大概ゆっくりいこうと思う人は無双チート持ちだ。1000人記念、1万人記念、10万人記念、1000万人記念、1億人記念etc… ぴったりの数字の時に初ログインができると、チートがもらえるとか。ちなみに1人目のログインの人はその他のチートよりももう少し強いやつと、限定の称号がもらえたそうだ。
 さすがに1人目のログインは無理だと思って諦めたが、ぴったりの数のチートは欲しい。どこかに今までログインした人の人数とかな載ってないか・・・?

 その後2時間くらいあちこちのサイトを根気よくぶらついたが、人数などが載っているサイトは見つからなかった。その代わり、初めての情報に出会った。

『VRMNOにも、課金がある』

ということだ。

 ゲーム内にももちろん金はあって、アイテムや食料などをそれで入手する仕組みだ。だが、それ以外にも現実の金を使うことで受けられるサービスや買えるアイテムがあるらしい。
 例えば、普通に店で買える武器はBランクまでだ。鍛冶屋で作ってもらったものならAランク、ゲーム内マネーをがっぽり出せばSランクまで。しかし、現実の金を使った場合はSSランクやSSSランクを手に入れることができる。
 武器だけでなく、防具も同様だ。アクセサリの追加効果などもSSSランクだと格段に上がる。
 1人目のログイン者、最先端で攻略に挑んでいるチート持ち【アカツキ】は、噂によると武器はもちろん防具もアクセサリもその他小物も全てSSSランクで統一しているらしい。
 まぁ、ログアウトした時に1円もなかった、なんてことにならないために現実の金まで使う奴は少ない。いくら武器が強くとも。

 この情報が手に入ったことで、俺の次の目標は定まった。

『届くまで死ぬほど金を貯めて、全部全部課金で使い果たしてやる』

この前、俺がニートを辞めて真面目に働き出したからだろうが、母の姉が母の莫大な遺産をくれた。貯めに貯めたのだろうか、母の遺産は1億を超えていた。その情報が回り回ったのか、父方からも1億以上の遺産が手に入った。

 当分課金でも困らないのは分かっていた。それでも、自分がどこまでのめり込み、どこまで金を使うのかが分からなかった。SSSランクの武器がいくらするのかも分からなかったので、俺は手に入れた金づるを手放さないことにした。

 その後アリアナが届くまでのおよそ1ヶ月、俺は死ぬ気で仕事に打ち込んだ。部下に鬼と恐れられ、上司に鬼神だと言われるほどに。まぁ、誰も俺の目的がゲームだとは思わないだろうが。結構仕事場では真面目で几帳面な人で通っていたからだ。

 おかげで、ざっと20万が新たに稼げた。億単位に比べたらさっぱりだが、金が増えていく感覚が俺にとってはすごくいいものだった。

 このままずっと仕事を続けても良かったのだが。
 ゲームが届いて箱を開けた瞬間、俺の意識は完全にそっちに飛んだ。

「すっげぇ・・・」

思わず絶句してしまうほどに。箱の中に入っていたものは綺麗で、かっこよかった。

 普通のパソコンに数倍磨きをかけたような光を放つパソコン。ビニールの袋の中でキラキラと光っている。袋の端に張り付いていた小さな紙から、このパソコンがVRMNO専用だということが分かった。

「専用って・・・」

驚きながらそっとパソコンを出して覗き込むと、中身はまだあった。

 ゆったりとした細身のアーチに、耳をすっぽり覆う形状の・・・ヘッドホン。ふわふわのクッションは、見ただけでもうしっくり来そうだという感覚を覚えるほど。サイズが自分で変えられるようになっているのか、いくつか留め具とボタンがあった。コードもかなり長いようで、輪ゴムで軽く束ねてある。充電しながらとかでもいけるな、と俺は当たりをつけた。

 それから、100均とかでも普通に売ってそうな形のサングラス。違うのは、耳にかける部分の端から黒いコードが延びていること。あと、右側だけについた小さなボタンだ。

 いずれも色は、黒。カラスの羽が濡れたような漆黒。こんな色をリアルで見たのは初めてだ。

「これはやっべぇな・・・」

今まで経験したことがないほどの感覚が俺を襲った。感動のような、驚きのような、中間のような。

 箱の1番下には、薄っぺらいプラスチックのケースが入っていた。貼られた小さな付箋を見ると、『プログラム内蔵・CDROM』と書いてある。今時USBじゃないのか?珍しいな・・・

 そんな感想を抱いたものの、まぁ何であれプログラム入れられるならいいか、と俺はパソコンにそっと手を伸ばした。

 ビニールの袋を剥がすように取り、指紋をつけまいと慎重になっている自分に苦笑する。真っ黒なボディは、LEDの灯りの下で怪しく輝いた。さっきは気づかなかったが、パソコンの袋の端に小さなマウスがおまけの感じで入っていた。blu○toothと言ったか、なんか自動で接続する?らしい。便利そうだな。

 パソコンの次には、ヘッドホンとサングラスの開封にかかった。ヘッドホンのアーチの部分にはビニールが被せられていたので、テープの跡が残らないように剥ぎ取った。耳につける部分にはめられていた発泡スチロールも外すと、抑えられていたクッションがふわっと若干戻った。コードを束ねてまとめていた針金も外す。結構長いという予想は当たり、目測だが3メートルくらいあるんじゃないだろうか。これなら、コンセントのそばでパソコンを充電していても、椅子までは余裕で届くだろう。

 サングラスは他のに比べると特にすることはなかった。ただ、入れられていたビニールから出しただけだ。コードは軽くまとめられてそのまま入っていたので、絡まっているんじゃないかと心配もしたが、大丈夫だった。黒いボタンが気になるが、まぁおいおい分かっていくだろうし、めったやたら押したら壊れる恐れもあったので解明するのは諦めた。

 さて。
 俺は深く椅子に腰かけ直し、パソコンをゆっくりと開いた。電源ボタンを押すと反応は早く、すぐに切り替わった画面に『ようこそ』と表示された。

 アカウントを携帯のアドレスからさっと作成し、ホーム画面が開くのも待ちきれずにCDROMを横についているプレートを出し、押し込んだ。エラーでも起こされたらどうしようかと思ったが、さすがは最新式のパソコンだ。すぐに読み込みが開始された。

『プログラムの読込が完了しました。インストールしますか?』

そうメッセージが出るなり、俺は秒速でOKを押した。

『インストール中です・・・残り時間:約3分20秒』

その3分とちょっとは、俺には1時間以上に感じられた。読書でもしようと本を開くが、興奮状態の脳は文章を認識してくれなかった。画面に目を戻しても、10秒も経っていないというありさまだ。

 もういい加減耐えられん!とブチ切れそうになった時、パソコンがポーンと音を鳴らした。さっと見ると、『付属のヘッドホンとサングラスを装着し、パソコンに接続してください』と出ている。

 手早くサングラスをつけ、ヘッドホンを耳の位置に調節し、2つのコードがそれぞれ絡まらないようにパソコンの脇に差し込んだ。ワクワクとドキドキで鼓動はまるで暴れ馬のよう。全身の震えが止まらなかった。

 ガタガタ震えながらOKをクリックすると。

『プログラムのインストールが完了しました。起動しますか?』

速攻でメッセージが浮かんできた。目の前にだ。驚いて飛び上がりそうになるが、俺の中の冷静な一部分がそれを自重させた。コードをつないでいるのだからと。

 マウスを恐る恐る動かすと、目の前でも現れた白い矢印が動いた。プルプル震えている俺の手に合わせて、矢印も微かに揺れ動いている。緊張しきっている自分を、俺は嗤った。

 ごくりと唾を飲み込み、OKにそっと矢印を合わせる。カチリと押したのと同時に、目の前が真っ白になり、身体の感覚が消えた。そして、ずっとずっと待っていた声。

『ようこそ、VRMNO【アリアナ】へ』

 俺の中に、幸せが満ち溢れた。
 タイトルが流星のようにさっと表れて消えていった。予告ムービーで覚えたストーリーが再生される。目の前で再生されているのにも関わらず、俺はほとんどそれを見ていなかった。もう俺の意識は、これの次の段階のキャラメイクに飛んでいたのだ。

 その他のVRMNOと同じく、アリアナも自分でキャラを作ることができる。顔や髪型や体型などから、職業とかまで。千差万別、十人十色。それがアリアナのコンセプト?らしい。

 長いストーリーが終わって、キャラメイクをするところに移った。自分の身体が宙に浮いていて、五感全てがきちんと再現されていることに改めて驚く。

『今後パーツは変えられないので、しっかりと考えて決めてください』

頭の上に浮いているメッセージを見てから、ふわふわと漂ってタッチパネル?のところまで進んだ。透明でガラスのように透き通ったそれは指紋をつけるのを躊躇うくらいに綺麗だった。その代わり下が透けているため、画面が見づらい。

 画面に思いっきり目を近づけながら、顔のパーツや髪型、体型などを選んでいった。実際よりもイケメンにしようとしてしまうのは、男の性だ。いや、女子でも可愛くしようとするのか?分からん。

 職業でかなり迷った。戦闘の『メイン職』とその他の『サブ職』を選ぶのだが、特に好きなものも得意なものもない俺にはきつい選択だった。他のものは割とさっさと決められたのに、これでかなり時間を取ってしまった。

 メイン職には『剣者』・『弓銃者』・『魔術者』・『体術者』・『斧槍者』の5つがある。大概の人は、部活でやってたとか経験したことがあるとか一般的だからとかやってみたいからとかで選ぶ。『斧槍者』を選ぶ人はそういないらしい。現実でやったことがある人がそういないからだろうな。たぶん。あとの4つが選ばれることが多い。ていうか、ほぼ全部らしい。
 サブ職はたくさんの種類がある。全部言ったら数時間はかかるだろってくらい。例えば、『建築士』とか『料理人』とか。『弁護士』なんてのもある。何もすることないらしいけど。

「うーむ・・・」

 唸り続けること約20分。迷いつつも、俺はリアルで学生の頃やっていたアーチェリーを活かそうと、『弓銃者』を選んだ。

 小学生と中学生は柔道をやっていたが、最近なのは高校の頃のアーチェリーだ。大した成績は残せなかったが、同級生の中では1番の腕前だと言われていた。自慢じゃないけど。

 サブ職は一覧の1番下の誰も選んでいない『獣士』を選んだ。メイン職は人が多すぎるからかないが、サブ職の一覧には今何人の人がこの職についているって分かるようになっている。多い場合は9999+になっているが。で、そこで俺はまだ0人の『獣士」を選んだというわけだ。

 特に理由があるわけではないが、誰もついていない職業ってのは興味をそそられる(俺だけか?)。動物も結構好きだ。実家では犬3匹の全部の面倒を見ていたほど。

『このキャラで設定します。よろしいですか?』

完成形の自分が目の前に現れ、機械の声に問われる。『はい』か『いいえ』を選ぶパネルが宙に浮かんできた。

 一応あちこちの最終確認をして、俺は『はい』にそっと触れた。ぱっと目の前が真っ暗になる。

『ログインしています・・・』

白い文字がすーっと横に流れていく。

 その文字が5回くらい流れただろうか。ぱっと目の前が明るくなり、すたっと足が地面についた感触があった。急な光に思わず目を覆う。

 だんだん目が慣れてきて、目に当てていた肘をそっと外すと、大きな噴水が堂々と目の前にそびえていた。
 キラキラと輝きながら落ちてくる雫は地味に冷たい。リアルのような感覚に、ゲームの中だという感覚は完全に俺の中から消え去っていた。ログインした時の感動も、これからの冒険に対する興奮に全部変わっていた。
 街並みは一般的な感じだ。円形の広場の真ん中に噴水。その周りには《宿屋》がいくつも軒を連ね、競うようにNPCが冒険者の呼び込みをしている。少し行ったところの広めの道には《商店街》があるようで、袋に鮮やかな色のフルーツをのぞかせた人が何人か歩いていた。

 最初に行くべきなのは、やはりギルドだ。冒険者登録をしないことには、人と競い合うも何もなくなってしまう。

 ゆっくりと辺りを見回す。すると、商店街の入り口部分に大きめのマップが立っていることに気づいた。公園とかの案内図のような、あれだ。

 マップのそばにいた何人かの頭越しに、上からのぞいた。目で端から見ていくと、商店街を通り抜けてすぐのところにギルドがあるらしいのが分かった。
 それ以外にも何かないかとのぞこうとしたが、若干足が痛くなってきたのでやめた。しょうがないので、とりあえずギルドに行こうと商店街に足を向けた。

 商店街からは出てくる人がほとんどで、俺のように冒険者ギルドに向かう人は少ないようだった。人の波に押し流されそうになりながらも、ゆっくりと逆流する。どこかの店で安売りでもやっているのか?奥の方からどんどん人が溢れてきている。商店街入り口あたりから見たぶんには空いているように見えていたのに。どこからこんなに人が出てきているんだ?

 疑問を持ちつつも波に逆らいながら進む。曲がりくねった道をどんどん行くと、大きな建物が見えた。ブロックの石垣に囲まれ、海岸の砂を固めたような色の壁が風雨の跡を残していることから歴史感が出ている。あれが冒険者ギルドだろうか。

 その建物の前まで人に潰されかけたせいでの這々の体でやってくると、ブロック塀の内側に魔法陣っぽいのがあるのが見えた。水色に光って、明らかに地面から浮いている。そして、10秒に1人くらいの間隔でそこから人が出てきていた。どの人も冒険者のようで、会話の断片から《イベント》《デュエル》という言葉が聞き取れた。
 攻略板には載ってなかったが、新しくイベントでも始まったのか?

 そんなことを考えながら《ギルド》と書かれたプレートのついた門をくぐると、見慣れた光景が広がっていた。

 他のVRMNOとギルドの内部構造はだいたい同じのようだ。左にたくさん紙が貼られた大きな掲示板。右には記入台のようなところ。奥にはカウンターが5個くらい並んでいる。どのカウンターにも、超絶美人のお姉様方が座っていた。ピンと立った耳と金髪の髪から、エルフだろうなと当たりをつける。

「本日は何の御用でしょうか?」

カウンターまでトコトコと歩いて行くと、1番近くのお姉さんに声をかけられた。

「あ、冒険者の・・・」

ーーー僕の言葉は最後まで続かなかった。

 ドカァァァン!!!

 激しい爆発音と、人々の悲鳴が外から聞こえてきたからだ。

「な、何の騒ぎ⁉︎」

ガタガタっと椅子を蹴ってお姉様方が一斉に立ち上がった。俺も慌てて外へ向かう。

 1番最初に目に入ったのはーーー

血のように真っ赤に染められた空と、その上にくっきりと染め抜かれた白い文字だった。

『我はこのゲームの作成者・創始者である。突然だが、このゲームを脱出不能のデスゲームにした。出たければ、人を殺せ。ただし、死は現実での死と同じものだと思え。復活は許さない』

1行空けて、

『健闘を祈る。 創始者』

「創始者って・・・」

俺は絶句した。どこかで見たことのある名前だと思ったら、攻略板の作成者じゃないか!でも、どうして・・・?

 周りではたくさんの人々が半狂乱になりながら走り回っている。泣き叫ぶ声が空へ上っていく。うずくまる人、崩れ落ちる人、多くの人に囲まれながら、俺は妙に冷静だった。

 そっと【設定】を開き、ログアウトボタンを探した。

ーーーログアウトボタンは、白い空白を残して綺麗に消え去っていた。
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