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第3章
第10夜 異星入植録(6)
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12月15日——。適合試験にパスした。これでまたあの星に行くことになる。望んでいたことのはずなのに、今は喜びよりも戸惑いの方が大きい。蛍と哲。まだ移住不適合の二人を放ってはおけない。でも、私にはもう時間がない。焦る私の心を察したのか、蛍がデートに誘ってくれた。
12月24日——蛍とクリスマスデート。彼からの腕時計に胸が震える。優しさと愛情に涙が止まらない。最初はこの星に残ろうとしたけど、蛍の言葉で気持ちが揺れた。彼の願いを叶えるため、私も夢を追うと決意。別れは辛いけれど、これが正しい選択だと信じてる。移住適合試験の合格と蛍との約束が、私の新たな出発点になる。彼を待ち続けると誓った。この気持ちは、きっと永遠に変わらない。この星での生活がこんなにも愛おしく感じるなんて。彼の隣にいると、宇宙の神秘さえ色あせる。
1月15日——蛍が流れ星に『ずっと一緒にいられますように』と願っていた。私も同じ願いを……いや、それは許されない。寿命の違い、文化の違い、そして私の正体。彼らが知ったら、きっと……
2月28日——。準備が整った。データは全て保存済み。肉体を維持したまま移動できないのが、せめてもの救いだ。蛍たちとの思い出が詰まったこの身体を、この星に残せることに感謝している。でもそれは同時に、二度と彼らに会えないことも意味している。感情に押しつぶされそう。この矛盾した気持ち、どう処理すればいい?
先輩の葛藤、痛み、愛情が波のように押し寄せてくる。その熱量で頭が冴え渡る。全てが繋がった。
「先輩は——」
地球の人じゃない。あの星への帰還の準備をしている。その事実が心を揺さぶる。最後のページの言葉が目に飛び込んできた。
蛍くんへ。このページを君が読んでいる頃には、私はもうあの星に旅立ったあとでしょう。途方に暮れてる? 涙で読めない? 蛍くんには、笑っていてほしいな。「またお願い」って蛍くんに怒られるかもしれないけど聞いてほしい。蛍くんと過ごした日々は、私の人生で最も大切な宝物です。後輩を指導しているつもりが、いつの間にか皆に頼っていました。蛍くん、哲くん、未来ちゃん、みんなにたくさん助けてもらいました。二人にもよろしく伝えておいてください。今日、私は蛍くんから卒業するね。ずっと、ありがとう。
「蛍、どうしたの?」
未来が目に涙を浮かべながら心配そうに尋ねた。俺は答えずに、ノートを胸に抱きしめた。先輩の正体、別れの理由、全てが繋がった。先輩は、遠い星からの来訪者。でも、俺たちとの絆は本物だった。
「先輩!」
二人を置いて部屋を飛び出した。春の夜風が頬を撫でる。見上げた夜空には、無数の星が瞬いていた。この中のどこかが、先輩の故郷なんだ。
俺は走った。
先輩との別れはもう止められない。そんなことはわかってる。でも走らずにはいられない。ただ、先輩に会いたい。会いたい。たとえ先輩が正体を隠していたとしても、ほんとうに地球の人間ではないのだとしても、俺の気持ちは本物だ。それを伝えたい。俺は全力で走り続けた。
夜の街を駆け抜けながら、先輩との思い出が走馬灯のように駆け巡る。イヤホンを分け合って音楽を聞いた日、一緒に朝焼けを見た日、無邪気な顔で海ほたるをすくい上げた日、列車の中で眠れるようになった日、初めてキスをした日。記憶が足を加速させる。
「先輩、先輩、先輩……」
人工衛星が空を横切る。その瞬間、先輩の姿が見えたような気がした。
12月24日——蛍とクリスマスデート。彼からの腕時計に胸が震える。優しさと愛情に涙が止まらない。最初はこの星に残ろうとしたけど、蛍の言葉で気持ちが揺れた。彼の願いを叶えるため、私も夢を追うと決意。別れは辛いけれど、これが正しい選択だと信じてる。移住適合試験の合格と蛍との約束が、私の新たな出発点になる。彼を待ち続けると誓った。この気持ちは、きっと永遠に変わらない。この星での生活がこんなにも愛おしく感じるなんて。彼の隣にいると、宇宙の神秘さえ色あせる。
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先輩の葛藤、痛み、愛情が波のように押し寄せてくる。その熱量で頭が冴え渡る。全てが繋がった。
「先輩は——」
地球の人じゃない。あの星への帰還の準備をしている。その事実が心を揺さぶる。最後のページの言葉が目に飛び込んできた。
蛍くんへ。このページを君が読んでいる頃には、私はもうあの星に旅立ったあとでしょう。途方に暮れてる? 涙で読めない? 蛍くんには、笑っていてほしいな。「またお願い」って蛍くんに怒られるかもしれないけど聞いてほしい。蛍くんと過ごした日々は、私の人生で最も大切な宝物です。後輩を指導しているつもりが、いつの間にか皆に頼っていました。蛍くん、哲くん、未来ちゃん、みんなにたくさん助けてもらいました。二人にもよろしく伝えておいてください。今日、私は蛍くんから卒業するね。ずっと、ありがとう。
「蛍、どうしたの?」
未来が目に涙を浮かべながら心配そうに尋ねた。俺は答えずに、ノートを胸に抱きしめた。先輩の正体、別れの理由、全てが繋がった。先輩は、遠い星からの来訪者。でも、俺たちとの絆は本物だった。
「先輩!」
二人を置いて部屋を飛び出した。春の夜風が頬を撫でる。見上げた夜空には、無数の星が瞬いていた。この中のどこかが、先輩の故郷なんだ。
俺は走った。
先輩との別れはもう止められない。そんなことはわかってる。でも走らずにはいられない。ただ、先輩に会いたい。会いたい。たとえ先輩が正体を隠していたとしても、ほんとうに地球の人間ではないのだとしても、俺の気持ちは本物だ。それを伝えたい。俺は全力で走り続けた。
夜の街を駆け抜けながら、先輩との思い出が走馬灯のように駆け巡る。イヤホンを分け合って音楽を聞いた日、一緒に朝焼けを見た日、無邪気な顔で海ほたるをすくい上げた日、列車の中で眠れるようになった日、初めてキスをした日。記憶が足を加速させる。
「先輩、先輩、先輩……」
人工衛星が空を横切る。その瞬間、先輩の姿が見えたような気がした。
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