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第3章「冬」
7.うね雲シグナリング(4)
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人と人との関係性が変化することで、世界の見え方もガラリと変わってしまう。大地の気持ちを知らなければ、私にとって世界は以前と変わらなかったはずだ。でも今は、すべてが違って見える。元通りにはならない。変わってしまった世界で、どうにか前に進んでいくしかないのだ。
そんな世界の綻びは、羽合先生との関係にも影を落とし始めていた。期末試験が終わった翌週、ほっとした雰囲気に包まれる学校に、衝撃的な噂が駆け巡った。国語教師と2年生の女子生徒が恋愛関係にあるというのだ。しかも、生徒のほうは停学処分になったらしい。
私は居ても立ってもいられなくなり、すぐに羽合先生に真相を確認しにいった。するとどうやら、職員会議でも大騒ぎになっているようで、先生は「しばらく二人きりで会うのは控えた方がいい」と弱気な態度を見せた。
こういうことに最も詳しそうな結ちゃんも、口を閉ざしたままだ。結局、詳しい事情は分からないまま、私は羽合先生の提案に従うしかなかった。
(先生に会えないなんて……まだ相談したいこと、いっぱいあったのにな……)
この「しばらく」が、いつまで続くのか見当もつかない。ひょっとしたら、もう卒業まで会えないのかもしれない。毎週水曜日、羽合先生と二人きりで過ごした天文ドームが、遠い過去ーーいや別の宇宙の出来事のようにさえ感じられた。
やっぱり会いにいこう――。私がそう決意するのに、さほど時間はかからなかった。不安な胸を抱えながらも、まずは陽菜に相談してみようと思いたち「久々に、一緒に帰ろ」と川沿いの遊歩道に誘った。
「ねぇ陽菜。私、わがままかな?」
「どうしたの?」
「こんな大変な時なのに、羽合先生とゆっくり二人で過ごしたいな、なんて思っちゃって……」
「何言ってるの、澪。後先あれこれ考えるなんて、澪らしくないわね」
「えっ?」
「そんなの全然いいよ。わがままで、いいじゃない」
陽菜は優しく微笑み、そう言葉をかけてくれた。
夕日を浴びて輝く陽菜の横顔は、いつも以上に美しく見える。
「好きな人となら、毎日だって会いたくなるよ。足りないくらい」
そう言って陽菜は元気よく笑った。少し恥ずかしそうに舌を出す仕草が、とってもキュートだ。髪を揺らしてしゃんと立つ姿は、いつも以上に凛々しい。そんな親友を見つめていたら、胸が痛んだ。ごめんね、陽菜。君はまだ知らないんだ。私たちはもう、ただの仲良しの友達ではいられないかもしれない。だって、陽菜が想いを寄せる人が想いを寄せているのは、他でもない私なのだからーー。
そんな世界の綻びは、羽合先生との関係にも影を落とし始めていた。期末試験が終わった翌週、ほっとした雰囲気に包まれる学校に、衝撃的な噂が駆け巡った。国語教師と2年生の女子生徒が恋愛関係にあるというのだ。しかも、生徒のほうは停学処分になったらしい。
私は居ても立ってもいられなくなり、すぐに羽合先生に真相を確認しにいった。するとどうやら、職員会議でも大騒ぎになっているようで、先生は「しばらく二人きりで会うのは控えた方がいい」と弱気な態度を見せた。
こういうことに最も詳しそうな結ちゃんも、口を閉ざしたままだ。結局、詳しい事情は分からないまま、私は羽合先生の提案に従うしかなかった。
(先生に会えないなんて……まだ相談したいこと、いっぱいあったのにな……)
この「しばらく」が、いつまで続くのか見当もつかない。ひょっとしたら、もう卒業まで会えないのかもしれない。毎週水曜日、羽合先生と二人きりで過ごした天文ドームが、遠い過去ーーいや別の宇宙の出来事のようにさえ感じられた。
やっぱり会いにいこう――。私がそう決意するのに、さほど時間はかからなかった。不安な胸を抱えながらも、まずは陽菜に相談してみようと思いたち「久々に、一緒に帰ろ」と川沿いの遊歩道に誘った。
「ねぇ陽菜。私、わがままかな?」
「どうしたの?」
「こんな大変な時なのに、羽合先生とゆっくり二人で過ごしたいな、なんて思っちゃって……」
「何言ってるの、澪。後先あれこれ考えるなんて、澪らしくないわね」
「えっ?」
「そんなの全然いいよ。わがままで、いいじゃない」
陽菜は優しく微笑み、そう言葉をかけてくれた。
夕日を浴びて輝く陽菜の横顔は、いつも以上に美しく見える。
「好きな人となら、毎日だって会いたくなるよ。足りないくらい」
そう言って陽菜は元気よく笑った。少し恥ずかしそうに舌を出す仕草が、とってもキュートだ。髪を揺らしてしゃんと立つ姿は、いつも以上に凛々しい。そんな親友を見つめていたら、胸が痛んだ。ごめんね、陽菜。君はまだ知らないんだ。私たちはもう、ただの仲良しの友達ではいられないかもしれない。だって、陽菜が想いを寄せる人が想いを寄せているのは、他でもない私なのだからーー。
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